6後-23 どこかの施設で2
カタリナが登場する回は、基本グロ注でダークなのじゃ?
先行して部屋を出ていこうとするカタリナを追いかける形で、彼女に追従するユキ、イブ、そして飛竜。
歩き出して間もない頃、イブはユキに向かって徐ろに問いかけた。
「・・・ねぇ?あの人、どんな人なの?なんか、見たことも無い魔法を使って扉を壊したり、私たちを守ってくれたように見えたけど・・・」
「そうですね・・・死にかけていたボクを救ってくれた方です」
「命の恩人?」
「んー、少し違うかもれないですね。腕の良いお医者さん、といったところでしょうか」
「うわぁ・・・」
ユキの言葉に、露骨に嫌な表情を浮かべるイブ。
どうやら、彼女は医者が嫌いらしい。
「・・・主よ」
そんなイブの姿を見て、徐ろに飛竜が口を開く。
「・・・好き嫌いは良くないぞ?」
「いや、食べないし・・・お医者さんは食べ物じゃないし・・・」
「ぬ?・・・いや、そうではない。人を見た目で判断してはならぬという意味で言ったのだ。今回、我は、主からそれを教わったのだ」
「あぁ、そっち・・・・・・え?」
飛竜に思わず聞き返すイブだったが、彼の方は別にユキに聞きたかったことがあったようで、そのままスルーされた。
「それで・・・シリウス殿よ。主が魔王だとして・・・では、あの者は何者なのだ?尋常ではない強さを持っているようだが・・・本当に人間なのか?」
そんな飛竜の問いかけに、ユキは苦笑しながら答えた。
「人間かどうかと聞かれましても・・・ボク自身もそれほど付き合いが長いわけではないので、恐らく人間でしょう、としか答えられないですね。ボクが知っているのは・・・遥か太古にいたとされる魔王様に面立ちが似ていること、そしてワルツ様のお仲間であること・・・それくらいのものです」
「ふむ・・・そうか・・・」
期待した答えが帰ってこなかったためか、残念そうに答える飛竜。
そんな彼に、他に何か話すことが無いかを考えようとしたユキだったが・・・何よりも大切なことを思い出して、(魔法の)バッグの中に手を入れた。
それから彼女が取り出したのは、背中にボレアスの国章が入った、真っ白な1着のロングコートであった。
彼女が雪女であることを考えるなら・・・寒さ対策のためのものではなく、レインコートのようなものなのだろう。
「イブちゃん?少しだけじっとしてて下さい」
「?」
服を着ていなかったイブを呼び止めると、彼女には大きすぎるそのコートを背中から掛けて包み込むユキ。
その瞬間、
ズズズズズ・・・
と、コートの丈が短くなって、イブの身長に合わせたサイズへと変化した。
「・・・エンチャント?」
「はい。つい最近まで、よく身長が変わる体質でしたので、特別に作らせた物です。ちゃんとした服が見つかるまで、そのコートを着ていて下さい」
「えっと、ありがとう・・・ございます・・・」
「どういたしまして」
こうしてユキたちは、転移魔法陣があった部屋から外へ出ると、カタリナの後ろを歩き始めたのである。
『うおっ?!も、戻ってきたぞ!』
『んな、アホな!あの部屋の防衛システムをどうやって切り抜けた?!』
『なんか数が増えてるぞ!』
先程、飛竜に吹き飛ばされた兵士たちが、もどってきた飛竜やカタリナたちを見て、口々に驚きの声を上げた。
彼らがイブたちのことを追いかけなかったのは・・・転移魔法陣がある部屋に、大量の銃器が仕込んであることを知っていたから、ということらしい。
そんな彼らを視界に捉えたイブは、焦り気味に声を上げた。
「き、狐のお姉ちゃん!あいつら鉄の玉を飛ばして攻撃をしてくるから注意して!」
「親切に教えてくれてありがとう。ですが、大丈夫なので安心して下さい」
すると早速、彼女たちに向かって銃を構えた兵士が、引き金を引いた。
・・・その瞬間、
ドゴォン!
銃が暴発して、内部の部品を周囲に飛び散らせる。
『ふごっ!?』
『っ?!このタイミングで暴発か!』
『一旦、後退だ!けが人を担いだら、後ろのバリケードまで後退しろ!』
そんなやり取りをした後、暴発した銃の破片でケガをした様子の兵士を引きずって、5人ほどの兵士たちは後ろへと下がっていった。
「・・・?何があったの?」
「結界魔法を使っただけです」
「う・・・うん・・・」
結界魔法としか説明しないカタリナに、納得出来ない表情を浮かべるイブ。
彼女には、どう考えても、カタリナが結界魔法を使っているようには見えなかった。
もちろん、それは、近くにいたユキや飛竜も一緒で、皆、同じように不思議そうに頭を傾げていたのである。
・・・ところで。
どういうわけか、カタリナ自身も、何故か困ったような表情を浮かべていた。
それから彼女は、何もない廊下の一角で一旦立ち止まると・・・
「・・・そうですね。さわりだけ説明するなら、ワルツさんとの約束を違えることにはならないでしょう」
と、独り言のように呟いた。
彼女の言った『ワルツとの約束』・・・即ち、教わったことを、無闇に他者に口外しないというものである。
どうやら彼女は、自分の魔法について話してもいいかどうかを悩んでいたらしい。
それからカタリナは、人差し指を立てながら3人の方を振り向くと、自身が使っていた結界魔法の説明を始めた。
「結界魔法の性質について、皆さんどれほどご存じですか?」
そんなカタリナの問いかけに最初に答えたのは・・・イブだった。
「えっと、物が当たりそうになったときに掛けておくと、ぶつかっても痛くない魔法?でも、ずっと掛けておくと疲れるやつだよね?」
「はい、その通りです。結界魔法は、魔法で作った鎧のようなものです。大型の魔物が放つ範囲攻撃から身を守る際に、特に重宝する魔法ですね」
と言いつつ、カタリナは飛竜に対して、チラッと視線を向ける。
「何故こちらを見る・・・主と戦っても、全く勝てる気がせんのだが・・・」
「いえいえ。そのようなことは・・・」
『無い』とは明言しないカタリナ。
それから彼女は、指先に魔力を集中すると、結界魔法の講義を続けた。
「では、結界魔法の形についてはご存じですか?」
すると今度は、ユキが口を開く。
「身体に沿うように、展開されるのですよね?服を着るような形で」
「半分正解です」
そう言いながら、カタリナは小さく笑みを浮かべた。
「実は・・・結界魔法の形は、自由に変えることが出来るんですよ?」
そして彼女は、壁に軽く指を当てて、丸くなぞった。
その後で、5本の指全てに魔力を集中すると、壁をなぞった部分に触れて・・・
ボコッ・・・
・・・丸い形をした壁の一部をそのまま引き抜いたのである。
『?!』
「このように、結界魔法を利用して身体の一部を延長することも可能です。透明なので見えないかもしれないですが、今、私の指の長さは5倍くらいになっているんですよ?」
透明な指で掴まれているが故に空中に浮いているように見える壁材を、カタリナは顔の前まで持ってきて・・・そのまま握りつぶした。
「ただ、問題があって、注意深く掴まないと、こんな風に切れてしまいます。これは、切断することを意識しているわけではなく、結界自体をとても細くて硬い糸のように展開しているからですね」
『・・・』
まるで、マジシャンの手品を見ているような視線をカタリナの手に向ける3人。
その中にいたイブが、徐ろに疑問を口にした。
「本当に魔法なの?殆ど魔力を感じられないんだけど・・・」
「そうですね・・・・・・体積や面積という言葉は分かりますか?」
ブンブン
・・・その言葉に首を振るイブと飛竜。
流石に、一国の皇帝で、250年以上生きているユキは分かるらしい。
「・・・では簡潔に説明しますね。要するに、身体全体を覆うように結界魔法を使うと、たくさんの魔力が消費されてしまいますが、必要な部分に少しだけ結界魔法を張るように使えば、その分だけ魔力を使わなくて済む、ということです。先ほどのように、糸のような形で結界魔法を展開するというのは、その極限の状態・・・・・・えっと、徹底的に小さく細くしていくと、最後には糸のような形状になった、ということですね。サイズが小さくなれば、その分、余っている魔力を集中できるので強度も上がりますし、その他にも色々な利点が生まれてくるんですよ?・・・・・・って、そんな説明で分かりますか?」
そんなカタリナの言葉に、迷わず首を振るユキと飛竜。
飛竜の場合は言うまでもないことだが、ユキの方は『どうやったら、そんな器用なことが出来るのですか?!』といった様子である。
一方、イブの方は理解できたようだ。
「そっかぁ。こうするの?」
そう言って、何かブツブツと呪文を唱えながら、指先に魔力を集中しようとするイブ。
そして出来上がったのは・・・・・・指先だけでなく、手のひら全体を覆い尽くすような、魔力の壁であった。
「・・・えぇ。大体そのような感じです。もう少し小さく出来ると、強度も、消費する魔力も、もっと改善すると思いますよ?」
その結界は透明だったので直接眼で見ることは叶わなかったが・・・カタリナは大きな獣耳を頻りに動かして、結界の存在を聞いているようであった。
「うーん・・・難しいなぁ・・・」
そう言いながら、結界の張られているだろう手を、開いたり閉じたりするイブ。
そんな時、彼女の隣で、何かを思い出したかのように急に難しい表情を浮かべたユキが、口を開いた。
「では・・・先ほどの部屋では、どうやって離れた場所にいたはずのイブちゃんや飛竜様を助けたのですか?お話を聞く限りでは、結界のサイズを小さくしているのですよね?その場合、全方向から無数にやって来るような飽和攻撃を受け止めるには不向きだと思うのですが・・・」
「それは・・・・・・企業秘密ですね。考え方としては『プログラミング』という概念を中心に結界魔法を操作しているのですが・・・それ以上は、ワルツさんに止められているので、お話することは出来ません。ルシアちゃんみたいに膨大な魔力があったなら、説明は簡単なんですけどね」
そう言って眼を瞑りながら、首を横に振るカタリナ。
・・・果たして彼女の口から、結界魔法の全容が明らかにされる日は来るのだろうか・・・。
「・・・さて。こんな所で長話していると時間になってしまうので、先に進みましょう」
徐ろにそんなことを口にしたカタリナは、再び皆の先頭を歩き始めた。
「時間?何の時間ですか?」
「それも・・・秘密ですね。恐らくは・・・あと20分ほどもすれば、分かると思いますよ?」
『・・・?』
随分と秘密の多いカタリナに、首を傾げる3人。
そして、彼女が再び歩き出すと・・・今度は飛竜が問いかけた。
「ところで、カタリナ殿よ。主は一体どこへと向かおうとしておるのだ?まさか、それも秘密とは言うまい?」
「はい。流石にそれは秘密ではありませんよ」
それから彼女は、何故かイブに対してニッコリと笑みを向けてから・・・前を振り返って、言った。
「・・・害虫駆除です」
表情を変えることはなかったが・・・何処か暗い色を放つ彼女の言葉に、3人は、思わず背筋を凍らせるのであった・・・。
それから、手当たり次第に、扉という扉を作業のごとく切断していくカタリナ。
『くそっ!ところまd・・・ぐっ?!』
『おい!どうしt・・・うがっ?!』
『ひぃ?!お、お助k・・・うげっ?!』
そして、まるでそのついでに、と言った様子で、部屋の中にいた兵士たちを次々に加工していく・・・。
具体的には、生命維持に直接的に関わらない筋肉を全て切断して、同時に、出血で死なないように回復魔法を掛けていったのである。
するとどうなるか・・・。
カタリナのように回復魔法を巧みに操ることのできる術者がいない限りは、回復魔法で回復魔法の上書き修復は出来ないので、誰も直すことの出来ない生きる屍が出来上がる、というわけである。
尤も、外科的な手術で筋肉を縫い合わせることも不可能ではないが・・・全身の筋肉を縫い合わせることのできる人間は、果たしてこの世界にいるだろうか・・・。
・・・表情には出さなかった、それほどまでにカタリナは憤っていたのである。
「あの・・・何をされたのですか?」
糸が切れた操り人形のように不可思議な姿勢で地面に崩れていく兵士たちの姿を目にしたユキが、思わず問いかけた。
「そうですね・・・死んではいないですが、それに近い報いを受けていただいています」
「あ・・・はい・・・」
直接核心には触れなかったが、冷たい声で答えたカタリナの言葉に、自分が予想したことが大体正しいものだと確信したユキは、顔を青ざめさせた。
ユキ自身も、裸のイブを見て、彼女の身に何が起ったのかを想像して深く心を痛めていたが、今のカタリナの様子を見て、逆に冷静・・・を通り越して、兵士たちに同情したようである。
一方。
そんな彼女たちの後ろにいた飛竜と、再びその背に乗っていたイブには、何が起こっているのか分からない様子であった。
血も出さなければ、叫び声も上げずに、失禁や脱糞をして、地面に崩れる虚ろな目の兵士たち・・・。
この場合、人体の構造に対して専門的な知識のないイブたちにとっては、むしろ、彼らに何が起ったのか分からないでいることが幸いなことだった、と言えるだろう。
尤も、カタリナ自身が、それを狙って、流血のない形で報復しているのだが。
「中々、あの犯罪者が見つかりませんね。一体どこに逃げたのでしょうか・・・」
黒いローブを被っていたロリコンの顔を思い出しながら、眼を細くして、頭を傾げるカタリナ。
それから彼女は、わざわざ廊下に出ること無く、直接、部屋の壁を切断していき・・・
『そんな!ありえn・・・ぐはっ?!』
『に、逃げr・・・がっ?!』
『こんな世界が俺n・・・ぎゃっ?!』
・・・その後も、施設に居合わせた者たちを、兵士や非戦闘員に関係なく、眼についた者から手当たり次第に切り捨てていったのである・・・。
こういった回のあとがきには、諸事情により、ルシア嬢は登場させないつもりなのじゃ。
ご了承くださいなのじゃ。
それはそうと・・・うーん・・・もう少し短くするつもりじゃったが、説明の部分で随分長くなってしまったのじゃ。
反省なのじゃ。
え?反省の様子が見られない?
・・・文才の問題じゃから、その辺についてもご了承くださいなのじゃ。
それで、補足なのじゃ。
カタリナの結界魔法について・・・なのじゃが・・・
最近、思うのじゃ。
本文で書いたのか、あとがきで書いたのかが分からなくなって、混乱するのじゃ・・・と。
じゃから、カタリナの魔法に関しては、そのうち、本文の方で説明するのじゃ。
その他は・・・建物の構造かのう?
これについては、次回の話で取り上げるのじゃ。
・・・ところでじゃ。
・・・これ、絶対、あと1話では終わらぬのじゃ・・・。
多分・・・短くて3話は必要じゃろうな・・・。
でも、水曜日は・・・忙しいと思うから、もしかすると、間延びして4話になってしまうかも知れぬのう・・・。
・・・うわーーーん!なのじゃ!




