6後-21 3度目の脱出6
ドゴォォォォン!!
『うわぁぁぁぁ!!』
兵士たちをものともせず、ひたすらに走り続ける飛竜。
イブはその背中で、兵士たちの持っている武器の性質について考えていた。
「・・・ドラゴンさん!もっと姿勢を低くして!そうすれば、飛んでくる攻撃が少なくなるはずだから!」
「うむっ!」
小さく頷くと、イブの言葉通り、姿勢を低くする飛竜。
すると、彼の前方で展開していた最前列の兵士たちが邪魔になって、後列にいた兵士から攻撃が飛んでこなくなった。
どうやら、相手の武器は、直線でしか攻撃できないものらしい。
それから、再び、先程出てきた部屋の前を通過すると、最初のT字路が見えてきた。
そこでは、何か障害物のようなものを設置して、その影から攻撃を加えようとしてくる兵士たちの姿があるようだ。
「・・・そこの角を左!」
「左・・・左?!どっちだ?!」
・・・どうやら飛竜は、左右が分からないらしい・・・。
文明的な生活を送っているようには思えないので、こうした知識には疎い、ということなのだろう。
「とりあえず、曲がればいいの!」
「う、うむ!分かった!」
イブの言葉を聞いた直後、角を曲がる前から、身体を傾け始める飛竜。
そして彼は、足についた巨大な爪を、硬そうな床に無理矢理に食い込ませて、進んでいる方向を強引に捻じ曲げようとした。
すると、床材が剥がれて出来た細かな塵が、飛竜の移動によって出来た風の流れに乗って、彼の身体を包み込む。
その様子を例えるなら・・・超高速でドリフトをするレーシングトラック、といったところだろうか。
そんな様子で飛竜が兵士たちの鼻先すぐの所を通過していったために・・・
『おわぁぁぁ?!こ、こっち突っ込んでくる!!』
『すげー迫力・・・』
『どうしてここで曲がろうとする!』
彼らは攻撃どころではなく、唖然とするしかなかったようである。
ドゴォォォォン!!
障害物があれば、吹き飛ばす・・・。
そんな戦車のような機動力を発揮しながら、廊下を曲がることに成功した飛竜。
引き飛ばされる側としては、とんでもない光景だったが・・・、乗っている側としては、嘸かし痛快な景色に見えていたことだろう。
「頑張って!ドラゴンさん!」
「大丈夫だ!主のおかげで、余計なキズは負っておらぬ!」
そんなやり取りをしながら、だだっ広い廊下を疾走していく2人。
それからも、兵士の多い所、多い所と選びながら、廊下を進んでいくと・・・急激に、金属の玉の飛来数が減ってきた。
どうやら、件の武器を持っている者達は、限られた人数しかいないらしい。
「それで次は・・・・・・えっ・・・?」
「・・・!」
・・・そして見えてきた光景に飛竜は思わず立ち止まった。
「・・・行き止まり?」
「らしいな・・・」
2人の目の前に見えた来たのは、何も無い行き止まりだった。
どこかに部屋への入り口らしきものがあるわけでもなく、ここまでの通路と同じ色をした壁が、ただ静かに広がっていたのだ。
それでも強いて突き当りの壁の特徴を言うなら・・・壁の真ん中に縦の線が入っていた・・・それくらいだろうか。
「・・・戻るか?」
そんな飛竜の問いかけに、イブは首を振った。
「ううん、待って。・・・どうして、こんなところを兵士たちが守ろうとしてたんだと思う?何も無いのに、守るわけ無いじゃん?」
「確かに、そう言う見方もあるか・・・」
「ちょっと、あの壁の様子を見てみようか?」
「うむ」
そして、壁へと近づいていく2人。
そして壁まであと5m程・・・そんな距離まで近づいた時のことだった。
ガシュゥゥゥ・・・
何か空気の抜けるような音が周囲に響き渡ると・・・
ゴゴゴゴゴ・・・
・・・突然、縦に入った線に沿って、突き当りの壁が左右に割れ始めたのである。
『?!』
その光景に身構える2人。
しかし、その中からは・・・・・・特に何も出てこなかった。
単に、その先にあった部屋へと繋がる大きな扉だったようである。
「・・・?何だこの部屋は・・・」
「ドラゴンさん、一応、気をつけてね」
「あぁ・・・」
もしかするとその部屋は玄関のような場所で、その先は外へと通じているかもしれない・・・。
心のどこかにそんな期待を抱きながら、2人は部屋の中へと入っていた。
だが・・・
「・・・何もない?」
イブが飛竜の上から部屋の中を見渡すかぎり、これといって目立つものは何もなかった。
床と天井は真っ白で、先程までの廊下と違ってオブジェも何も無く、代わりに、模様のような無数の穴が壁に開いている・・・そんな部屋である。
もう少し詳しく言うなら、大きさは直径50mほどの円形で、高さは10mほど。
中は、魔法のような・・・しかし魔力を感じない不思議な光で満遍なく照らされていた。
その様子が何に似ているのか例えるのは難しいが・・・・・・特別な理由があって、こういった形状の部屋を作ったのは間違いないだろう。
「ん?なんだこれは?」
何かに気づいた様子で、床に眼をやる飛竜。
彼の眼には、薄っすらとだが、床に何か幾何学模様のようなものがびっしりと書き込まれている様子が映りこんでいた。
「・・・魔法陣・・・?」
「えっ?」
彼の言葉を聞いて、イブも眼を細めながら地面に視線を向けた。
そして、その形状が・・・
「あれ?なんか、最近、何処かで見たことがあるような・・・」
彼女の記憶の何かに引っかかった。
・・・そんなタイミングで変化が起こる。
ブワァン・・・
地面にあった魔法陣が急に光りを放ち始めたのだ。
「・・・あ!この魔法陣、アレに似てる!」
はっきり見えたそのデザインに、イブは思わず声を上げた。
「何なのだ?!」
「これはねぇ・・・」
それから彼女は、プロティービクセンの王城を思い出しながら・・・何処か嬉しそうな表情を浮かべて言った。
・・・これで外に出られるかもしれない、と。
「転移魔法陣!」
その瞬間である。
ブゥン・・・
そんな鈍い音がして、部屋の中心に黒いローブを纏った男が現れたのだ。
どうやら、外からここへと転移してきた者らしい。
そして、眼に入ってきた飛竜の姿に気づくと、
「・・・うおっ?!」
・・・驚愕の声を上げた。
「ちょっ・・・何で、実験用の魔物が逃げ出してんだよ!警備の奴ら、装備のチートに飽きて、仕事をサボりやがったな!」
そう言いながら・・・男はローブを脱ぎ捨てた。
そして、左右の腰に身に着けていた、小さな筒のような道具を手にとって、飛竜に向ける。
そんな彼の姿に、見覚えのあった者がいた。
・・・イブである。
「ろ、ロリコン?!」
「なん・・・だと?!飛竜が幼女の声で喋っただと?!」
そんな意味不明な解釈をするロリコンに対して、怪訝な視線を向ける飛竜と、同じく怪訝な表情を浮かべるイブ。
その時、イブは、とあることを思い出した。
自分とロリコン、そして、自分を守ってくれる存在・・・。
・・・そう、似たようなシチュエーションで、大切な人を失った・・・そのことを思い出したのである。
「ど、ドラゴンさん!あいつの武器に注意して!多分、さっきの兵士みたいな鉄の玉を飛ばしてくるはずだから!」
「う、うむ!一気に片付ける!」
飛竜はそう返すと、息を吸うモーションに入ること無く、そのままブレスを放った。
ゴォォォォォ!!
・・・だが、
「うーわ・・・ドラゴンと1対1でタイマンかよ。ハンドガン二丁だけじゃ無理だな・・・」
ロリコンはどういうわけか、次の瞬間、飛竜の後ろへと移動していた。
どうやら、転移魔法の使い手らしい。
それから、飛竜に向かって再び武器を向けるロリコン。
その際、彼は、
「・・・ん?!ドラゴンの背中に全裸の幼女発見!フォーーーッ!!」
イブの姿を見つけると、妙なテンションに変わった・・・。
「断然、やる気が出てきたぜ!せっかく苦労して捕まえた竜だが・・・死んでもらおう。・・・恨むなよ?」
ロリコンはそんなことを口走ると、イブ達の前から・・・
ブゥン・・・
・・・何故か消失したのである。
『・・・?』
言動と行動が一致しないロリコンに、頭を傾げる飛竜とイブ。
・・・そんな時であった。
2つの変化が、2人の前で起こったのである。
まず1つ目は・・・
ガショォン!!
そんな部屋に響き渡るような大きな音が聞こえたかと思うと、部屋への入り口が勝手に閉ざされてしまったのだ。
そして、2つ目は、
ウィィィィン・・・カコン・・・
壁全体の穴から、そんな音と共に、数えきれないほどの筒状の何かが迫り出してきたのだ。
「うわぁっ?!あ、アレ全部・・・」
「ぶ、武器だというのか・・・?!」
これから自分たちを襲うだろう出来事を想像して、2人は恐慌した。
もしも、あの筒が全て、兵士たちが持っていた武器と同じものだとするなら・・・例えウロコの硬い飛竜だとしても、タダで済まないのは明白である。
言うまでもなく、イブ諸共、所謂『蜂の巣』になることだろう。
イブを乗せたまま、飛竜が思わず後退っていると、どこからとも無くロリコンの声が2人の耳に届いてきた。
『おっと、そこのドラゴン。幼女にはケガをさせたくないから、動かないでくれないか?じゃないと、間違って弾を当ててしまっても困る・・・っていうか、そうなると俺が生きていなくなるからな・・・』
バン!
・・・そして唐突に発砲が始まったのである。
「ガハッ?!」
「ドラゴンさん?!」
連続的なものではなかったが、兵士たちが持つものよりも威力が強いのか、一発で飛竜は地面に伏せてしまった。
『ほー?この防衛システムを使うのは初めてだが・・・やっぱ、固定銃座はつえーな』
パン!パン!
「グハッ!ガハッ!」
2発、3発と身体に金属の弾がめり込んでいく度に、苦悶の声を上げる飛竜。
「もう・・・もうやめて下さい!」
そんな彼の様子に耐えられなくなったイブは、飛竜の身体から降りると、彼を守るようにして、飛竜の頭の前で大きく手を広げた。
しかし、ロリコンには止める気は無いらしい。
『すまんな幼女。実験動物を逃がしておくと、後で上から処分されるのは俺なんだ。俺だって好き好んでこんなことやってるわけじゃないんだぜ?』
そしてロリコンがそう言い終わった途端、周囲の壁にあった武器が、全て飛竜の方へと向けられた。
『んじゃ、あばよ』
そして、ロリコンがそう言い放った・・・・・・そんな時、再び変化が訪れた。
ブワァン・・・
・・・もう一度、床にあった魔法陣が光り始めたのである。
『おっと、攻撃中止!誰か来るみたいだ』
誰かに話しかけるようにして、そんなことを口にするロリコン。
そして、イブ達の前に現れたのは・・・
ブゥン・・・
「・・・あの、シリウス様?考え無しに突っ込むのは如何なものかと進言させて下さい」
・・・白衣の隙間から覗く、真っ赤でふっくらとした尻尾が印象的な女性と、
「いえ。緊急事態なのです。ここで見失っては、ワルツ様に申し訳が立ちません!」
・・・真っ白な髪と赤い瞳が特徴的な、騎士のような女性だった。
『・・・誰だ?・・・あぁ、あれか。本屋んとこに行った時にいた奴ら・・・・・・って、うわっ?!これ、尾行されたのバレたら、大目玉どころじゃねぇ!!』
ロリコンが、どこか慌てた様子でそんなことを言うと、
ウィィィィン・・・
壁にあった武器の10分の1程が、新しく現れた2人の女性へと向けられた。
『ということで、BBAの皆さんもさいなら〜!』
「・・・?」
「・・・?」
突然聞こえてきた声に、状況が飲み込めない様子の女性2人。
そんな部屋の中で、イブはあらん限りの大声を上げた。
「誰か、助けてっ!!」
その声を皮切りに・・・
ドゴゴゴゴゴ!!
・・・一斉掃射と言う名の、処刑が始まったのである・・・。
一体、どれほど、飛竜の背中に生じた気流を『カルマン渦』と書きたかったことか・・・。
じゃが、そんなこと書いても、分かる人間は殆どおらぬよな・・・。
本当、自重という言葉は、辛い言葉なのじゃ・・・。
というわけで、今日もルシア嬢は先に寝てしまったので、妾一人であとがきを書くのじゃ。
まずは、部屋の形状が円形になっておった理由なのじゃ。
ロリコンの言葉にもあった通り、あの無数の銃座は防衛システムの一部なのじゃ。
故に、転移魔法でやって来た招かれざる客に対して向けられるものじゃから、できるだけ効率よく銃弾を浴びせられるような形状にしたかったのじゃろう。
あと、防衛システムに使われている銃器じゃが・・・細かい説明は割愛するのじゃ。
世の中にはいくらでも適切な武器があるからのう・・・。
どこかの王都のように、誰かの趣味でファランクスやゴールキーパーを大量設置したりしないかぎり、説明はいらんじゃろ?
むしろ、そんなに詳しくないから説明を求められても困るのじゃ。
・・・まぁ、王都の防衛システムについても説明しておらぬがのう・・・。
あとは・・・レーシングトラックかのう?
妾も、ネット上の動画でしか見たことはないのじゃが、中々にすごい迫力らしいぞ?
一度は見てみた・・・くもないか・・・。
そんなところかのう。
ところでじゃ。
近々、カタリナ殿が主殿の所にやって来るらしいのじゃ。
その時は・・・もしかすると、カタリナ殿もあとがきに参加するかも知れぬのう・・・。




