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6後-19 3度目の脱出4

「・・・このままここにいたらどうなっちゃうんだろ?」


天井を見上げながら、そんなことを口にするイブ。


「・・・・・・分からぬ」


同じく天井を見上げていた飛竜も呟いた。


「なんか、近くの檻か部屋から、魔物の鳴き声が聞こえてくるじゃん?あの魔物ってどうなるんだろ・・・」


もしも、飛竜を捕まえた者が、飛竜を単なる魔物としか思っていなかった場合、最終的な扱いは、他の魔物たちと同じになるはずである。

そして、わざわざ生かして捕まえているのだから、食肉に加工されることも無いはずだった。

魔物たちがどうして鳴いているのかは彼女には分からなかったが、あるいは飛竜なら分かるかもしれない。

イブはそんな期待を込めながら、飛竜に問いかけたのである。


しかし、飛竜は・・・


「・・・それも分からんな」


短く、それだけ答えた。


「・・・だよねー」


もしも分かっていたなら、最初の問いかけで答えていたのである。

・・・イブもそれは理解していた。


だが同時に考える。

1週間もの間、ここに閉じ込められていたというのに、何も知らないというのは果たして本当なのか、と。


「(もしかして、何か私に隠してる・・・?)」


言い難いことなのか・・・それとも本当に知らないだけなのか・・・。

多くを語らない飛竜と、姿の見えない魔物たちの鳴き声だけでは、彼女にそれを判断することは出来なかった。


・・・だた、いずれにしても、いつまでもここにいたのでは碌な事にならない。

それだけは明白なことであると言えるだろう。


「まぁいっか・・・。じゃぁ、逃げよ?」


そんなイブの言葉に・・・どこか安堵したような様子を見せながら、飛竜は口を開く。


「・・・そうか。ようやく逃げる気になってくれたか・・・ならば上まで送ろう」


そんな飛竜に対して、イブは、ニッ、とした笑みを見せながら言った。


「もちろん、ドラゴンさん達も一緒だよ?」


「・・・いや待て。どうやってだ?まさか、あの太い柱を壊せるとは思ってはいまい・・・」


「え?別に柱を壊す必要はないよ?一応、選択肢は2つあるんだけど・・・」


「・・・?」


そんなイブの言葉に怪訝な視線を向ける飛竜。

人間と違って表情豊かではないが、彼の視線は表情以上に語るものらしい。


「ちなみに、どんな風にここに入れられたの?入り口っぽいものは見えないけど・・・」


「・・・すまぬ。何か魔法のようなものを掛けられて気絶させられておる内に、首輪を着けられて放り込まれておったから、詳しくは分からん。・・・恐らく、転移魔法か・・・それに類する魔法で押し込まれたはずだ。ここに入る前、我らと戦った者がそれらしき魔法を駆使しておったからの・・・」


「そっか・・・なら入り口爆破は難しそうだね。じゃぁプランBで」


「プラン・・・B?」


「簡単な話。あの柱を上から下まで、満遍なく加熱すればいいだけだよ?」


そんなイブの言葉に、飛竜は残念そうに首を振った。


「溶かすというのか?流石の我でも、それほどの火力は生み出せぬ。・・・それに何より、この首輪を外さぬ限り、魔法もブレスも使えぬからの・・・」


「じゃぁ、まずは、その首輪からだね。ちょっと見せて?」


「・・・?あぁ・・・構わないが・・・」


それから飛竜は、イブの手が首輪に届く位置まで、首を下げた。

そんな首輪に、彼女は両手を掛けて、ぐるぐると回しながら様子を見始める。


「ふむふむ・・・」


彼女が見る限り、その首輪は、何か高度な魔法のようなものが掛かった金属の塊であった。

特に鍵穴のようなものは付いておらず、2ピース式で、一度嵌めこむと特殊な方法でなくては取ることが出来ない・・・そんな構造である。


それから彼女は、何か納得したように頷くと、飛竜に問いかけた。


「・・・ちょっと聞きたいんだけど」


「何だ?」


「ドラゴンさんって、火魔法と氷魔法をかけても大丈夫?怪我したりしない?」


「・・・何だ、唐突に・・・。我に魔法を掛けるというのか?おそらく主の魔法では、傷一つ付けられぬはずだが・・・」


「じゃぁ、掛けるよ?」


「あ、あぁ・・・」


それからイブは、首輪に対して、右手で火魔法をかけ始め、左手で氷魔法の準備をした。


ジューッ・・・


「・・・本当に、熱くない?」


「なに。皮の表面が焼けてるだけで、痛みは全く無いから安心するが良い」


「ならいいんだけど・・・」


そして、一部分が赤熱した所で、


「とうっ!」


・・・氷魔法を行使した。

すると、音もなく一気に冷えていく金属。


「はい。これでおっけー。あとは、ちょっと痛いかもしれないけど、この首輪を、壁かどこかにぶつけてもらえる?」


「・・・そんなことで外れるなら、とうの昔に外しているんだが・・・」


「とりあえずやってみて!」


「・・・分かった」


飛竜には、イブの言葉を素直に聞く必要は無かったが、特にやることなかった上、彼女には肉を焼いてもらった恩もあるので、戯れに従うことにしてみた。

それから、彼は徐ろに立ち上がると、壁に寄って・・・


ドゴォォォォン!!


頭がぶつからないように、首輪だけを壁に叩きつけた。

その瞬間、


バキン!・・・ゴトン・・・


何かが折れるような音が聞こえて、地面に首輪が落ちてしまった。

どうやら、イブが加熱していた場所から、首輪が割れてしまったらしい。


「・・・!」


「ね?言った通りでしょ?」


「何をしたのだ!?」


「んー、前にとーちゃんと一緒に実験してたら、鉄がボロボロになっちゃう条件があって・・・それを再現してみた?」


そう言って、ニカッ、っと笑みを浮かべて飛竜を見上げるイブ。

そんな小さな少女に、飛竜はどこかその身体以上の何かを感じ取っていた。


ちなみに、イブが行ったのは、金属に対する単なる焼入れだった。

焼入れに対応した適切な金属でもない限り、単純な焼き入れは、金属の組成を脆くして、ガラスのように割れやすくしてしまうのである。

それ以外にも、彼女の焼き入れの方法にも特徴があったのだが・・・まぁ、細かいうんちくは省いて、少々乱暴だったとだけ説明しておこう。


とはいえ、元は金属。

そうそう簡単に割れることは無いはずなののだが・・・飛竜の剛力の前では、脆いガラスと変わらなかったようだ。


「それでー、ブレスは使えそう?」


「あ、あぁ・・・では、ゆくぞ?」


そして飛竜は大きく空気を吸い込むと・・・


ゴォォォォォ!!


と、口から魔法で出来た炎を勢い良く吹き出した。


「おぉ、いける!助かったぞ、主よ!」


「どーいたしまして。じゃぁ、あの柱も加熱してくれる?できれば様子を見たいから1本ずつね」


「あぁ。任せろ!」


そう言ってから火竜は、どこか嬉しそうに、柱を加熱し始めた。




・・・しばらく経って。


「んー、そろそろだね」


飛竜の影に隠れながら、ブレスの熱線に耐えていたイブが呟いた。

すると・・・


バキン!


そんな何かが弾けるような音が聞こえてきたのである。


「じゃぁブレスを止めてもらえる?」


「あぁ。何の音だ?」


イブの言葉に、ブレスを吐くのを止める飛竜。


「あんねー、よく分かんないけど、金属を温めるとぼーちょーっていうのが起こるみたい。今回の場合だと、柱は天井と床に完全に固定されているから、そのぼーちょーに床と天井の材料が耐え切れなくなって、柱を埋めている場所にヒビが入って壊れた・・・的な?」


「ほう?」


そんなイブの言葉を受けて、飛竜が15m上の壁で柱を固定していた硬そうな土台に眼を向けると・・・


カラカラカラ・・・


そんな小さな壁のかけらを落としながら、広がっていくヒビの様子が眼に入ってきた。


「なるほど」


「でも、1本だけじゃ、大きく壊すのは難しそうだね」


「ならば、2本、3本とやればいい!」


・・・そして飛竜は、加熱した柱の隣りにあった柱も、同時に加熱し始めたのである。




更にそれからしばらく経った頃。

・・・その瞬間は突然訪れた。


バキン!


3つ分の柱の膨張に耐え切れなくなったのか、柱が埋まっていた土台の部分に一気に亀裂が入り・・・


ドゴォォォォン!!


・・・上から落下してきたのである。


「ほー!やったね!」


「・・・すごいな・・・」


実際にそれをやったのは飛竜だったが、それを発案したイブに、彼は深く感心した。


「それじゃぁ逃げよっか」


そんなイブの言葉に、


「・・・」


飛竜は眼を瞑って、口を閉ざす。


「・・・あそこで寝てるドラゴンさんのこと考えてるの?」


「・・・あぁ」


「・・・もしかして・・・死んじゃったの?」


これほど大きな音を立てて柱を地面に落としたというのに、全く反応を見せない山のようなドラゴンに、そんなことを思うイブ。

そんな彼女の問いかけに対して、飛竜は・・・少し間を置いてから答えた。


「・・・ここに来る前の戦闘で、毒を受けたようなのだ・・・。それから数日間は意識があったのだが・・・」


「・・・そっか・・・」


「残念だがな・・・。もしも奴のために出来ることがあるとすれば・・・」


その一瞬、飛竜の眼に、何か赤いものが立ち現れるが・・・すぐに消え、


「・・・無事に主を安全な場所に送り届けることだろうかの・・・」


彼の眼は、再び優しげにイブに向けられた。


それから彼は、イブの前に首を下ろしてから言った。


「乗るが良い」


「・・・食べたりしない?」


「食べるつもりなら既に食べておる」


「・・・分かった」


彼女が自分の首のウロコに手や足をかけながら背中へとよじ登って行き、そして登り切ったことを感じた飛竜は、ゆっくりと首を(もた)げる。

そして、隙間の空いた檻を見据えると、裂けんばかりに口を開いて言った。


「・・・では行くぞ!」


「う、うん!」


バサッ!


・・・そしてイブと飛竜の脱出劇が始まったのだ。

「あと2話で脱走劇が終わる予定なのじゃが・・・その先の話を考えると、切れが悪いのじゃ・・・」


「いつも通りじゃない?」


「う、うむ。自覚はあるのじゃ・・・」


「ちなみにその先は、どのくらい続く予定なの?」


「んーそうじゃのう。6後章は・・・予定では、脱走劇が終わってから3か4話ってところじゃないかのう?」


「24話・・・ね。良いんじゃないの?」


「問題はその先なのじゃ」


「『後後』が始まるんだよね?いつも通りに」


「・・・」


「というわけで、あとがきです」


「一体、どういう展開じゃ!?しかも、お主があとがきを書くのか?!」


「ううん。もちろんテレサちゃんだよ?あれだよ、巻ってやつ」


「・・・まぁ、良いがのう。とはいっても、前回からそれほど進んでおらぬから、特に書くことがないのじゃ。焼入れに関して書いても仕方ないしのう・・・」


「なんか、飛竜さんの名前が云々(うんぬん)って言ってなかった?」


「うむ。じゃが、本編で出すかどうかまだ悩んでおるから、ここでは書かないのじゃ」


「・・・なんか、水竜お姉ちゃんの名前も伏せたままだしね?」


「いや、もう、水竜は水竜で良いかと思ってるんじゃがのう?」


「・・・そして、また、狩人さんの名前みたいに、複雑になっていくんだよねー?リーゼさんとか、エリザベスさんとか、狩人さんとか・・・」


「ぐ・・・ぐぬぬぬ・・・」


「今日はこんなところですね。それじゃぁ、おやすみなさい」


「ま、また逃げおったな・・・。やれやれなのじゃ・・・。さてと、2-2の修正を始めるかのう・・・」

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