1.2-04 町への旅4
「(どうしよう……。こっちから挨拶すべきか、それとも向こうが挨拶してきてから答えるべきか……)」
と、前方から歩いてくる5人組の冒険者たちの様子を見て、そんなどうでもいいことで頭を悩ませるワルツ。
それから彼女が、狩人から一歩だけ遅れて、その後ろを歩き始めたところを見ると……。
どうやらワルツは、先に歩く狩人の様子を見て、それを真似ることにしたようである。
一方で。
そんな彼女の前にいた狩人は、冒険者達とおよそ50mほどの距離まで近づいた所で、なぜか足を止めると……。
どういうわけか、自分たちと同じようにして、足を止めた冒険者たちに向かって、こんなことを言い始めた。
「…………っ!お前たち、何者だ?!」
「(……あ、あれ?もしかして……これが、異世界なりの挨拶だったりするのかしら?)」
双方が揃って足を止めたために、ワルツは本気でそんなことを考え、結果、狩人と同じ言葉を口にしようとするのだが……。
その前に、相手側から、返答が戻ってきた。
「……その言葉、そっくり貴様らに返させてもらおう!この殺気……さては貴様ら、人ではないな?!」
「(え?あ、はい。その通りです…………やっば!もしかして、バレた?)」
その言葉を聞いて、内心で、慌てるワルツ。
その際、彼女は、自身の機動装甲に光学迷彩がかかっていないかを確認するのだが……。
システムは正常に動作していて、機動装甲は透明な状態だった。
彼女の隣りにいたルシアが、ワルツの姿を見ても、首をかしげる以外の反応を見せていないのが、その証拠と言えるだろう。
その間にも、狩人と、冒険者たち――正確には、冒険者たちの先頭に立っていた青年との会話は続いていた。
「お前たち――さては、冒険者に化けた盗賊か?!」
「違う!俺たちは、この森に巣食っているという盗賊と魔物たちを討伐しに来ただけだ!貴様らこそ盗賊ではないのか?!」
「そんなわけ無いだろ!見ての通り、私たちは、単なる女3人の旅人…………いや、ちょっと待て貴様!まさか、さっき道端で死んでいた魔物は、お前たちの仕業か?!なんて勿体ないことを……」ぷるぷる
「魔物を倒して何が悪い!我々は狩りをしているわけではないのだ!まさか貴様は、人を害する魔物をのさばらせたまま、罪もない旅人たちに犠牲者を出せろと言うのか?……まさに鬼畜、外道の思考ではないか!」
と、平行線を辿る、狩人と冒険者の青年との会話。
自分たちが盗賊ではないことを狩人が説明しようとするが、冒険者側がそれを信じようとしない、といった雰囲気である。
その後も暫くの間、狩人と青年との押し問答が続いていくのだが……。
それも終わりが見えてきたようである。
「……埒が明かん!ビクトール!リア!力ずくで事情を吐かせるぞ!」
「おうよ!」
「……仕方ないわね」
5人の内、前にいた3人がそんな言葉を交わすと、冒険者たちの陣形が変わった。
会話した3人が更に前進して、残りの2人が逆に後退を始めたのだ。
前衛と後衛。
攻撃と守備。
5人はそれぞれ、自身の役割が予め分かっているかのように、立ち振る舞った。
いや、実際、分かっていたのだろう。
これまで、決して短くない時間、戦いの場をくぐり抜けてきたに違いない。
まぁ、最後尾で戸惑ったような表情を浮かべていた人物も一部にはいたようだが、それは些細なことで……。
紛れもなく彼らは、一流の冒険者パーティーだったようである。
なにより……。
メンバーの中で、こんな会話が飛び交っていたことが、その確固たる証拠と言えるだろう。
「あの殺気……間違いなく只者じゃないわ!レオ。気を抜いちゃダメ。殺られるわよ?あなたには魔王を倒すっていう大切な目的があるんだから、それを忘れないで……」
「その通りだ、勇者レオよ。まさかとは思うが、この気配、魔王の回し者かもしれん……気を抜くな!」
そんな言葉を、先頭にいた青年へと向ける彼の仲間たち。
その言葉が向けられた青年は、腰の鞘に仕舞われていた自身の剣に手を置くと……。
そこから、精細な彫刻が施された刃を引き抜きながら、ワルツたちに向かって宣言した。
「……エンデルシア王国第10代”勇者”が、これよりお前たちの化けの皮を剥がしてくれよう……!」
そして、手に持った剣を、ワルツたちの方へと向ける青年――勇者。
一方、その剣が向けられた3人の間では、動揺が広がっていた。
「ちょっ……ルシア?!今の聞いた?”勇者”ですって!あれ、自分で言ってて、恥ずかしくないのかしら?」
「お、お姉ちゃん……そういう問題じゃ……」
「待て!私たちに敵意など無い!」
と、森の中で”盗賊たち”ではなく、まさか”勇者たち”に襲われることになるとは思ってなかったのか、戸惑うワルツたち。
結果、狩人が、必死に誤解を解こうとしたものの……。
それは徒労に終わってしまったようである。
「……問答無用!!」
ズサァァァァァ!!
そして、その声を合図にして、一斉に動き始める歯車。
こうして、ワルツたちと、勇者たちは、図らずして邂逅を果たしたのである。




