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15.03-05 薬屋5

 ハイスピアの心を鍛えて、現実逃避しないようにする術などあるのだろうか……。赤子化したハイスピアを特訓するなど不可能ではないか、あるいは可愛そうではないか、などとやり取りをしながら、一行は道なき道を切り開きつつ、大地を真っ直ぐに横断していく。


 街道を移動していなかったために、道中は障害物で一杯だ。草木が行く手を遮るのは当然で、ルシアの魔法によって燃え尽くされる。岩や地面の凹凸なども、ルシアの魔法によって融解させられて、真っ平らに変えられた。山も同じ。ルシアの魔法によって、トンネルのように穴が穿たれるか、あるいは山ごと吹き飛んで消し飛ばされる。


「…………」にへらぁ


「あ、先生が笑った!可愛い!」

「いや、これは……」

「現実逃避かもじゃない?」

「いっそのこと、外の景色を見せなければ良いのでは?」

「いやー、それじゃぁ、現実逃避を乗り越える訓練にならないし……」

「ただ外の景色を見ているだけでも、十分な訓練になると思います。受け入れがたい景色でも、見続けていれば、そのうち慣れますから」


 グランディエとしても、馬車の外で繰り広げられている光景は、受け入れがたいものだったらしい。ただ、彼女の場合、元々"常識"から外れた生活を送ってきたためか、ハイスピアよりは衝撃を受けていない様子だった。世の中にはルシアのような魔法使いもいるのだろう——という程度の認識だったようだ。


「変な"教育"にならなければ良いのだけれど……」


 一方、その"非常識"の()()()()にいるワルツとしては、笑みを浮かべるハイスピアが、変に耐性を付けないか心配していたようだ。今のハイスピアは赤子。そんな彼女の精神構造が、赤子と同じか、そうではないかは、ワルツにも分からない。しかし、赤子と似通っているとした場合、ハイスピアは、今のルシアの魔法を"常識"だと認識してしまう恐れがあるのである。そうなると、後々厄介になるのは明らか。薬もそうだが、何事も、過ぎたるはなお及ばざるがごとし、なのだから。


 一方、他の者たちは、ワルツほど深くは考えていなかったようだ。特にルシアは、魔法を見て喜ぶ(?)ハイスピアのために、どんどん非常識な魔法を連発する。


「ふふん?谷があるね。ほいっと!」


   ズドォォォォン!!


 虚空に岩が現れ、進路上の谷に挟まった。そこに、超蒸気魔法(?)が穴を穿ち、簡易的な橋を作り出す。その工期、およそ3秒。世の中の土木業者も現実逃避を起こすレベルの作業速度だ。


 その他にも——、


「崖かぁ……じゃぁ、こうだね」


   ズドォォォォン!!


——下りの崖が現れれば、やはり虚空から岩塊が現れ、そこを別の魔法が削ることで、下り坂を作り出す。


 それがエスカレートしていき——、


「ただ岩を落とすだけじゃ芸が無いから、こんなのとか!」


   ズドォォォォン!!


——今度は岩塊ではなく、最初から完成した石橋が現れた。


 石橋だけではない。平らな道にも、等間隔で柵が生えたり、地面がむき出しの土や岩肌ではなく石畳のようになったり、道路(?)脇に謎のオブジェが出来上がったり……。もはや、街道以上に街道と言えるような立派な道が出来上がっていく。


 ちなみに、ルシアたちを乗せている馬車は、ワルツが餌付けした魔物たちが交代で引っ張っていたわけだが、彼ら彼女らも、ハイスピアのような死んだ眼をしていた。逆らえば死が待っていると思っているのか、逃げられないと思っているのかは不明だが、色々と諦めているのは明らかだろう。


 ハイスピアも、最初は静かに笑みを浮かべるだけだったが、その内にキャッキャと嬉しそうに声を上げ始めた。とても嬉しそうな様子で手を叩いており、事情を知っているルシアたちから見ても、本物の赤子のように見えていたようである。そのことが尚更に、ルシアの魔法の高度化に繋がっていたのは、ある意味、皮肉と言えるのかも知れない。


 そんなハイスピアの様子を見ていたワルツは、段々と居たたまれない気分になってくる。


「ル、ルシア……?ちょっとやりすぎじゃない?」


「そうかなぁ?」


「多分、先生……現実逃避を通り越して、赤子のままでいることを受け入れ始めていると思うわよ?」


「えっ?」


 姉はいったい何を言っているのか……。ルシアは頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げていたようだ。やはり、自分の行動について、深く考えていなかったらしい。


 それから間もなくして馬車が止まる。ハイスピアに見せる魔法の使用方針を決めるという理由もあったが、大分、日が傾いてきていたのだ。野営の準備が必要だった。


 そして、一日の反省会が終わり、ルシアがしょんぼりとしたその数時間後。すっかりと夜の帳も降りて、皆が簡易的な(?)コテージの中で眠り始めた訳だが……。一行のところに、予想だにしない来客がやって来ることになる。


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