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15.03-03 薬屋3

「せ、先生……可愛い……!」きらっきら

「いやいや、待つのじゃ、ア嬢!人形とは違って、生きておる人間なのじゃ。扱いに気を遣わねば!」

「んー、薬の効果を聞く限り、中身はハイスピア先生かもなんだよね?」


「ばぶばぶ!」


「首は据わっていないけれど、本人も肯定しているかもだから、赤ちゃんとして扱うのはどうかと思うかも?」

「でも、普通の食べ物は食べられないよね?歯も無いっぽいし」

「しばらくは流動食かのう」


「ば、ばぶぅ……」


 ハイスピアは、見た目が赤子の姿になってしまっても、中身は紛れもなく大人だったようだ。彼女は、歯がないために流動食しか食べられないことを心底悲しんでいる様子で、普通の赤子では絶対に見せないような遠い視線を、馬車の窓の向こう側へと向けていたようである。


 そんなハイスピアの様子を見ながら、ワルツはグランディエに問いかけた。


「この状態って、ほんとに1ヶ月も続くの?」


「最大1ヶ月ほどは続きます。ハイスピア先生に飲ませた薬は、心と身体が反転する薬。心が幼ければ、身体は幼くなり、逆に身体が老いていれば、心が老いてしまうという薬です。さすがに、ここまで極端に変化するとは思いませんでしたが……」


「……つまり、見た目と心の年齢が一致していれば、何も起こらないけれど、不一致があると、ハイスピア先生みたいに、あべこべになってしまうってことね?」


「そういうことです。ですから、ハイスピア先生の心が癒えたり成長したりすれば、今の幼子の姿も段々と成長していき、早ければ1ヶ月も待つこと無く、元の姿に戻る事が出来ます」


「ふーん。でも、それって矛盾してない?今は身体の年齢が心の年齢に反映されている状態だと思うのだけれど、この状態でも心の年齢が成長すれば、身体も大きくなるの?」


「心と身体が完全に入れ替わっているわけではありませんから、心が成長すれば、その影響は身体にも繁栄されます。もしも完全に心と身体が入れ替わってしまったとすれば、それはまったくの別人になってしまいますので」


「思ったよりも複雑なのね。まぁ、理解出来なくはないけれど……」


 ワルツはそこで、一旦、思考を止めて、周囲を見回した。今そこにいる人物の大半は、少女ばかり。赤子化したハイスピアの面倒を見るには、少しばかり不安が残る者たちが殆どだった。まぁ、しっかり者のイブ辺りは、うまくやるのかもしれないが。


 そんな中で、1人だけ例外的な人物がいた。


「ルシアちゃん!赤ちゃんを抱っこするときは、こっちの手をこうもってきて、ここを押さえて……」


「う、うん。……こう?」


「そうです。あと、頭が安定していないので、ちゃんと支えてあげてください」


「あ、うん」


 と、ルシアに指示を出していたアステリアである。その場にいた人物の中では一番年長——というわけではないが、身長は高く、また、赤子の扱いに慣れている様子なので、実際の年齢よりも大人びて見えていたようだ。心が幼児退行していたハイスピアとは真逆と言えるのかも知れない。


 そんなアステリアの様子を見たワルツは、即座に決めた。


「うん。ハイスピア先生の面倒は、アステリアに見て貰いましょ」


「えっ?!」


「だってほら、私たち、赤ちゃんの扱いとかよく分かってないし」


「えっと……」


 アステリアも周囲を見渡した。するとその視線の先では、苦笑するルシアたちの姿が……。やはり、皆、赤子の面倒を見られる自信は無いようだ。


 ただ、イブだけは——、


「イブも手伝うかもだし?」


——と自ら名乗り出てきたようである。彼女自身が好奇心旺盛だったこともあるが、以前、赤子の面倒を見た経験があるのだろう。


 結果、当初は困惑していたアステリアも——、


「……分かりました。ハイスピア先生が元に戻るまでの間、先生をお世話いたします」


——と折れて、ワルツの頼みを受け入れることにしたようである。


 ちなみに、その場にいる者の中で最も年齢が高いと思しきグランディエは——、


「赤ちゃん……可愛いのは可愛いのですが、どう接して良いのか、分からないんですよね……」


——森の奥で引き籠もり生活を送っていたためか、赤子の面倒は見たことが無いらしい。人の身体を治す薬屋とはいえ、人に対する豊富な知識を持っているわけではなく、育児などとは無縁だったようだ。



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