15.03-01 薬屋1
見た目が少女と、本当に少女と、機械で出来た少女と、実は獣な少女が、魔物が牽く馬車に乗って、道なき道を進んで行く。……いや、道はある。地図に無いだけだ。道は、彼女たちが歩くことで出来上がっていたのだ。ただし、リアルタイムでだが。
一行が向かう先、20メートルほど離れた場所には、付かず離れず謎の球体が浮かんでいた。某人物が得意な光球——人工太陽ではない。光ると目立つので、人工太陽は使えなかったのだ。
では何が浮かんでいたのかというと、説明は微妙に難しい。複合魔法だからだ。火と水の複合魔法。一言で言えば、超高温の水蒸気の球体が浮かんでいた。
その水蒸気の球体が草木に触れた瞬間、草木は一瞬にして炭化する。炭化の際、草木が燃えて一時的に炎を上げるが、水蒸気の球体は中央部と外部とで温度が違うらしく、すぐに冷却されて、炎は消える。
地面も同様だ。超高温の水蒸気によって加熱され、余計な水分が飛び、歩きにくい湿地ですら一瞬で乾いた土に変わってしまう。
ただ乾燥するだけではない。地面の凹凸も、木の根も、岩、石塊も、熱や蒸気によって溶かされ、削られ……。真っ平らに変わっていく。
まさに、道を作る魔法だ。この魔法が一般的な魔法として出回れば、世界は綺麗に整った道でいっぱいになるに違いない。……まぁ、それだけの強大な魔力をもった魔法使いがいれば、の話だが。
「便利ですねー」棒
グランディエが遠い視線を蒸気魔法(?)へと向けながら呟く。人里離れて暮らしていた彼女であっても、流石に常識外れな魔法だったらしい。
ハイスピアに至っては、ニッコニコと笑みを浮かべながら、ユラユラと揺れ続ける状態だ。彼女たちが乗っている魔物馬車が揺れているわけではない。ハイスピア自身が、自らの意思(?)で揺れているのだ。
「えへへ〜♪」
現在進行形で現実逃避をする教師を横目に見ながら、ワルツはグランディエに問いかけた。
「そういえば、グランディエ?ハイスピア先生と話はできた?」
「えっ?何の話ですか?」
「あれ?できてない?ハイスピア先生って、薬学が専門だから、グランディエと同じく薬に関する知識をたくさん持っているはずなのよ。だから、色々と話が合うんじゃないかと思っていたのだけれど……」
「いえ、今、ワルツ様に聞くまで、知りませんでした。そうだったのですね……」
と言いつつ、ハイスピアに向かって視線を向けるグランディエ。早速、話しかけてみようと思ったらしい。
しかし、彼女の視線の先には、まるで子どものように馬車の旅を楽しんでいる——ように見えるハイスピアの姿が……。
「……ちょっと、今のハイスピアさんとは、お話が出来なさそうですね」
「んー、困ったものね……。現実が受け入れられなくて、たまによく極頻繁に、ユラユラと揺れ始めるのよ」
「ふーん……なるほど……」
「あの状態を治す薬って無い?まぁ、あるわけないわよね……」
と、冗談交じりでワルツが問いかけると——、
「いえ、ありますよ?」
——グランディエからまさかの返答が返ってくる。
「えっ……そんな万能薬みたいな薬、あるの?!」
「万能薬ではありませんが……ようするに、今のハイスピア先生は、混乱のあまり、心が落ち着かない状態なのですよね?ということは、心を落ち着ける薬を作れば良いのです」
「なるほど……。精神安定剤みたいなものね」
「精神安定剤、というものがどういったものかは存じませんが、確かに心を安定させるための薬ではあります。調合して、先生に飲んで貰いましょうか?」
「そうねぇ……」
ワルツは考え込みながら、ハイスピアの背中に視線を向けた。まるで童心に返ったように、笑みを浮かべながらユラユラと揺れるハイスピアの姿を見ているのは、ワルツとしても居たたまれなかったようだ。
「なんか可愛そうだから、お願いしてもいい?」
「えぇ、分かりました。手持ちの薬草で作れると思いますので、少しお時間を下さい」
グランディエはそう言うと、早速、薬の調合に取りかかった。
ワルツとしては、揺れる馬車の中でも調合できるのだろうかと少し心配気味だったようである。しかし、グランディエ本人はやる気満々。結果、ワルツは、彼女の事を信じて、そのまま薬を調合して貰うことにしたようだ。
流れるようにフラグを立てるグランディエ殿なのじゃ。




