15.02-44 魔神44
ドゴォォォォン!!
ズドォォォォン!!
「煩い、煩い!煩いっ!!やめさせなさい!」
連続して爆発音が響くようになってから、王妃は尚更にヒステリックになっていた。恐らく王妃だけではないだろう。町中の者たちが同じ状態にあるはずだ。
ゆえに、王妃が叫んでも、誰の耳にも届かない。皆、混乱状態にある上、彼女の声は爆発音の中に消えてしまうからだ。
「どうしてこうなるの?!」キッ
王妃は爪を噛んだ。ワルツたちが来てからというもの、思い通りにならない出来事ばかりで、ストレスが最大にまで達しつつあったのだ。
人というものは、ストレスが溜まってくると、見るべきものが段々と見えなくなってくる生き物である。そしてストレスが最大になると、最も大切なことすら出来なくなるのだ。
王妃カレンも例外ではない。連続した爆発音という異常事態の中で、溜まりに溜まったストレスが、彼女にある事を忘れさせてしまう。
「うぅ……」
国王グレンに掛けていた睡眠の呪いだ。彼に掛けていた呪いは、簡易的なもの。ある程度は放置しても効果が持続するものの、対象者の近くで掛け続けなければならないタイプだった。ゆえに、今回のように高いストレス状態にあるために、長い時間集中が切れている場合などでは、呪いを持続させることは困難。結果、グレンの目が覚めてしまったのだ。
「拙っ!」
グレンの様子に気付いたカレンが、再び呪いを掛けようと試みる。しかし——、
ズドォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
——という爆発音が、彼女の集中を妨害してしまう。夜に眠れず、徹夜をしている事も集中を乱した理由の1つだろう。
「何だ……この音は……」
グレンが完全に目を覚ます。もはやカレンにはどうすることも出来ない。
「あ、あぁ……」
カレンは必死に考えた。今、グレンに目を覚まされれば、ワルツたちを追い出すという算段も、グレンに再び呪いを掛けるという算段も、すべてが水の泡になってしまう……。かといって、グレンを眠らせる方法は無く、万事休す。もはや、彼女にできることは何も無い。
カレンは、目の前が真っ暗になった。むしろ、黒い炎が燻っていたと言うべきか。嫉妬と恨み、怒りの炎だ。ワルツたちというイレギュラーが王都に来さえしなければ、計画はすべて上手くいっていたはず……。そんな逆恨みがカレンの中で沸々と沸き上がってくる。
と、そんな時。
「……カレン」
国王グレンが、カレンの名前を呼ぶ。その声は酷く落ち着いていて、カレンの耳にも、嫌にハッキリと届いた。
「私に呪いを掛けたのは、お前だな?」
「————」
カレンの喉で空気が詰まった。今の今まで隠していたことが、グレンにバレていたのだ。
そして彼女は考える。なぜグレンにバレたのかを。
「あの魔王たちっ……!」
カレンの怒りは頂点に達した。彼女はこう考えたのだ。……誰がどんな呪いをグレンに掛けたのか、ワルツたちが喋ったのだ、と。
しかし、グレンは首を横に振る。
「それは違うぞ。カレン。我はずっと前……そう、国王になる前から、其方に呪いを掛けられることは知っておったのだ」
「……えっ?」
「歴代の王が皆、同じ呪いを掛けられてきたのだぞ?調べなど疾うの昔に終わっておる」
グレンのまさかの発言にカレンは絶句した。自分の仕業だと知られているとは、微塵も思っていなかったのだ。
結果、カレンの頭の中は真っ白になった。最早、嫉妬も怒りすらも残っていない。ワルツたちに関係無く、グレンが何も知らないという前提が、根底から覆されてしまったからだ。
そんな彼女は、この時、気付いていなかったようだ。……つい先ほどまで耳障りなほどに聞こえていたはずの爆発音が、まったく聞こえなくなっていたことを。




