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15.02-43 魔神43

 "城"の壁を攻撃していた冒険者たちは、空を見上げて立ちすくんだ。彼らはラルバ王国に雇われた冒険者たち。定期的にワルツの"城"の壁に向かって攻撃するようにと、国から依頼を受けた者たちだ。


 そんな彼ら一人一人は、激しい爆発音を上げるような大きな魔法を使えない。ゆえに、彼らには、魔道具が貸し出されていた。


 戦争時などで大規模攻撃を行う際に使用する、戦略攻撃用の魔道具だ。大砲のような見た目の魔道具で、魔力をある一定以上つぎ込むことで、大きな一撃を発射するという一品である。


 そこから放たれる魔法の威力は、文字通り100人力。100人分の魔力を集めて、普通の魔法の100倍の威力をもった攻撃を放つのだ。


 ところが、空で爆ぜていた光球は、100倍などという生易しい威力ではなかった。音、振動、まき散らされる魔力の気配などから推測しても、桁違いの大きさの魔法が爆発しているのは明らか。その証拠に、光球が壁に当たって爆ぜる度、爆発音とは別に、壁から——、


   コォォォンッ!!


——と、まるで鐘でも鳴らすかのような音が響いてきていたほどだ。


「なんだあれ……」

「王様が新しい魔道具を下賜(かし)されたのか?」

「いや、あれほど頻繁に馬鹿みたいな大きさの魔法を放てる魔道具なんて、聞いた事がない……」

「あんなものがあれば、今頃、この国は、大陸の覇者になってるだろ」


「「「「ってことは……」」」」


「あの"城"の中の連中が、自分でやってるんだろうな……」


 まるで、お前たちの魔法など魔法の内に入らない、と言わんばかりの大きな魔法を前に、冒険者たちのやる気は一気に無くなってしまった。大砲のような魔道具を使って攻撃してきた彼らは、頑張れば壁に傷が付くかも知れないと淡い希望を持って、攻撃を繰り返してきたのである。ところが、その魔法よりもはるかに強力な魔法が、より短時間にポンポンと壁を攻撃しているというのに、壁はビクともせず、傷1つ入らないのである。冒険者たちの心が折れてしまうのも無理はないと言えるだろう。


「これ……このまま続ける意味、あるんだろうか?」

「無いだろうな……」

「即答じゃなくて、もう少し考えて言えよ……」

「……無いだろうな」

「…………」

「いずれにしても、お(かみ)がやめろと言うまで続けるしか無いだろう。そういう契約だ」

「無意味だなぁ……」


 そんな会話をしつつ、冒険者たちは再び魔道具に魔力を込め始めた。


  ◇


「へぇ?頑張るね?」

「冒険者にもプライドとか、契約とか、色々あるのじゃろ」

「ルシアちゃんが攻撃する度に、塔が揺れてる気がするかもだけど、大丈夫?」

「えへへ〜」

「せ、先生!お気を確かにっ!」


 ルシアたちは、"城"の一番高い場所にある展望台から、冒険者たちの行動を眺めていた。壁の向こう側で起こっていることを確認するためには、高い場所から見下ろすか、壁の向こう側で民衆に混じらなければならないからだ。内、後者の方は見つかるリスクが高いので、今回は高い場所から眺めていた、というわけである。


 そんな展望台の上から見える眺めに、グランディエは心底感動していたようである。


「これが……ワルツ様のお力……」


 まるで世界のすべてを見渡せるかのように背の高い"城"を一瞬で作ってしまう力。ルシアが放ったとはいえ、見たことも無いような超強力な魔法。そして、すべての敵を退けてしまう強固な壁……。森の中で引き籠もるように薬屋を営んでいたグランディエにとっては、そのすべてが初めて見るものばかり。


「やはり、世界というものは、思っているよりも広いのですね……」


 もっと知らない事がたくさんある……。そんな考えが、グランディエの口から零れた。


 それを聞いていたルシアは、皆と顔を見合わせてからコクリと頷いた。


「そうだね……。世界にはもっとたくさんの事があるよ?きっと、お姉ちゃんがきっと教えてくれると思う」


「ワルツ様が……」


 と、口にしたところで、グランディエは気付く。


「あれ?そういえば、ワルツ様は?」


 ワルツはつい先ほどまで皆と一緒に行動していたというのに、今はどこかへと姿を消していたのである。


 そんなグランディエの疑問に、ルシアがラルバの王城に視線を向けながら、こう言った。


「多分、あっちのお城に行ってるんだと思う」


「あっちのお城……」


 塔から見下ろした場所に、ラルバの王城があった。国王グレンと、彼を眠らせて政府を牛耳っているという王妃カレンが居るはずの場所だ。上から見る限り、王城の中で何が起こっているのかは分からない。少なくとも、人が動いている姿は見て取る事が出来なかった。


「大きな事件にならなければ良いのですが……」


 グランディエは心配そうに王城を見下ろした。何か、大変な事が起こる……。そんな予感がしていたのかもしれない。


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