15.02-41 魔神41
ワルツは、グランディエに説明した話——ラルバ王国の王妃が暴走して、国王を眠らせ、国を操ろうとしている、という話を、ルシアたちにも話そうとした。ちょうど、外では爆発音が上がっているのだ。その爆発音がどうして上がることになったのか、説明するには良いタイミングだと言えた。
しかし、ワルツが説明を始める前に、何を思ったのか、ルシアがこんなことを言い始める。
「もしかして、お祭りでもしてるのかなぁ?」
テレサが問いかけた。
「……いったいなぜ、そう思ったのじゃ?」
ルシアたちは、昨日、冒険者たちが"城"の壁を攻撃している様子を見たのである。ゆえに、ルシアは壁を補強して、壊れないようにしたのだ。にもかかわらず、お祭りをしているなどとなぜ考えたのか……。テレサには理解出来なかったらしい。まぁ、それは他の者たちも同様だが。
ルシアが理由を説明する。
「だって、"お城"の壁をなかなか壊せないっていうのは、みんな知っているはずだよね?それでも攻撃してるんだもん。みんなで力比べみたいなお祭りをしてるんじゃないかなぁ?って」
「たしかに、ア嬢の作った壁を壊すのは、人間には不可能なのじゃ」
「……ちょっと、そこまで言ってないんだけど?」じとぉ
「まぁ、細かい事は気にしてはならぬのじゃ。そうじゃのう……夜もドンパチやっておった理由までは分からぬが、力比べのような事は、確かにしておるのかも知れぬ」
と、テレサはルシアの予想に納得した。
ワルツとしては、「そんなわけないじゃない」と否定したかったようだが、その前にイブが口を開く。
「すぐに壊れる壁とか的とかだったら、壊すのを競えないかもだもんね」
すると今度は、アステリアが特殊能力を使って、周囲を見渡した。
「壁の外には……ざっと見て、2251人の人が集まっていて、その内、魔力量の多い人たちが、順番に魔法を撃っているみたいです。でも、殆どの人が弱い魔法しか使えないみたいで、たまに強い人がいたりすると——」
ズドォォォォン!!
「……って音が聞こえてくるみたいですね」
「さすがはアーちゃん。壁の向こう側まで見えるって、やっぱりすごい!」
「……たまに、見たくないのに見なきゃならないものもあるんですけどね……」ちらっ
「む?何かの?」
「いえ、何でもありません……」
アステリアはチラリとテレサの方に視線を向けた。恐らく昨晩、彼女はテレサから逃げる際、透視能力を最大限利用して、テレサから逃げ切ったのだろう。その際、壁の向こう側に見えたテレサの姿が、アステリアにとってどう見えたのかは不明だが、決して楽しいことではなかったのは間違いないだろう。
そんなアステリアに、ほとんど何も覚えていないテレサが声を掛ける。
「ふむ……。困ったことがあったら、何でも言うのじゃ?」
「多分、(聞くようなことは)無いと思います」
「う、うむ……」
何となくアステリアに嫌われているような気がしたのか、テレサはしょんぼりとするが、他の者たちには関係無い。
「じゃぁ、お祭りの見学に行こっか?」
「良いかもなのかな?」
「良いのではないか?尻尾と耳を隠せば、バレぬじゃろ」
「私たちはこの顔なので、仮面も必要ですね」
「お祭りなんて、何年ぶりだろ……」
と、ルシアやアステリアたちが話す中——、
「お祭りですか……私は見たことが無いです」
——などとグランディエが口にする。
そこでようやく、ワルツがツッコミを入れた。
「いやいや、お祭りなんかじゃなくて、これ、王妃からの嫌がらせだからね?グランディエには説明したわよね?」
「「「「「……えっ?」」」」」
「……そうでしたね。お祭りなら、どれほど良かった事か……」
ズドォォォォン!!
外から聞こえてくる爆発音が、妙に重々しい音だったのは、魔力の大きい術者が攻撃したから、というわけではなさそうだ。




