表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
337/3387

6後-16 3度目の脱出1

『2度あることは3度ある』


先人たちは、己の経験からそんな(ことわざ)を残した。

大抵の場合は、地震災害のように、悪いことが何度も起こることなどを表現する際に用いられる諺だが、一方で、良いことが続いた際にも用いられる便利な言葉でもある。

良くも悪くも、フラグの一つと言えるのかもしれない。


さて、もう一つ、3という数字を使った諺を紹介しようと思う。


『3度目の正直』


2回失敗して、3回目の試行をする前に使ったり、あるいは成功した際に使われる言葉である。

今度こそは・・・そんな意味が込められている諺であると言えるだろう。


今回、何故、この2つの諺を紹介したのか。

・・・それは、これから、3度目の挑戦を行う少女の話をするためである。


そう。

彼女は、既に2度、失敗してしまっているのだ。

・・・誘拐犯たちの手からの脱出を・・・。




「・・・」


暗い洞窟のようなの穴の中に作られた牢屋の片隅で、一人、膝を抱えながら(うずく)る少女がいた。

・・・垂れ耳の犬の獣人、イブである。


彼女はロリコンと名乗る人物(?)から服をもらって、一応、身に付けてはいたのだが、それでも身体を暖めるような姿勢で小さくなっていた。

これまでに彼女の身に降り掛かった様々な災難を考えるなら、身を縮こませていても仕方のないことだと言えるだろう。


中でも、特に大きく彼女の心を傷つけたのは、前回の逃走の際に、目の前で憧れの魔王シリウスを()()()()()()()()ことであった。

それがあってから4日間。

毎日一日3食、ロリコンからは食事が支給されていたが、一切それに手を付けず、ずっと塞ぎこんでいたのである。


今の着ている服も、ロリコンに『風邪を引くから』と無理やり着せられたものであって、彼女が自ら進んで着たものではなかった。

一応、彼は、本人の発言通り紳士(?)だったらしく、乱暴するようなことは無かったが、イブの心は既に陵辱されたも同然の状態で、最早、人らしい反応をみせていなかったのである・・・。


ポタッ・・・ポタッ・・・ポタッ・・・


牢獄の天井から滲み出るようにして落ちてくる水滴。

それが地面に落ちた時に生じる小さな音だけが牢屋の中に響き渡る。


「・・・」


ずっとそんな音だけを聞いていたのなら、普通なら精神を病んでしまいそうになるものだが・・・・・・しかし、彼女の心は死んではいなかった。

・・・いや、死ぬことが出来なかったのだ。


「・・・・・・っ」


徐ろに、痩せこけた顔を上げると、ギラギラとした眼光を牢屋の入り口にあった鍵へと向けるイブ。

それから彼女は暫く動かしていなかった身体に鞭を打って、震えて思い通りに動かない手足を無理矢理に動かしながら、睨んでいた場所へと近付こうとする。


「・・・・・・・!」


ドシャッ・・・


・・・しかし、長い間、食事を取っておらず、その上、大して動くことも無かった身体が直ぐにいうことを聞くわけもなく、バランスを崩した彼女は、地面へと倒れ込んでしまった。


「くぅ・・・・・・」


その際、彼女は膝と肘をぶつけてしまうが・・・しかし、痛みや身体の軋みに顔を歪めながらも、まるで何かに操られているように・・・あるいは突き動かされるようにして、地面を這いずりながらゆっくりと進んでゆく。

そして、ようやく目的の場所にたどり着いた時には・・・彼女は全く身動きが取れないほどに疲れてしまっていたのである。


「・・・・・・」


たった、数メートルの距離を移動しただけで動かなくなってしまった自分の身体に、イブは不甲斐なさを感じながら、どうにか仰向けになって、天井を見た。


ポタッ・・・ポタッ・・・ポタッ・・・


すると水滴が顔に落ちてきたが・・・衰弱した彼女が、それを避けることはできなかった。

・・・そしてイブの意識は、そのまま闇へと吸い込まれていってしまったのである・・・。




次に彼女が意識を取り戻した時、最初に気付いたのは、喉に異物が詰まったような感覚だった。


「・・・!ゲホッゲホッ・・・!」


咳き込むと、何か透明な液体が口から吹き出してくる。

どうやら、天井から漏れてきた水が、口の中に溜まっていたらしい。


「はぁはぁ・・・」


彼女はそんな荒い呼吸をしながら、ボーっとする頭を押さて、()()()()()()()


「あれ・・・少し身体が軽くなってる・・・?」


4日間、飲まず食わずだったために、彼女の身体は脱水症状を起こしていた。

それが、天井から落ちてきた水を、寝ている間に飲み込んだためか、多少改善していたようだ。


「(・・・・・・っ!)」


それから彼女が入口の方を振り向くと、眼に入ってきたのはロリコンが差し入れた食事だった。

前回持ってこられたものがそのままになっているところを見ると、眠っていた時間はそれほど長くはないらしい。


「(・・・・・・)」


食事を前にして、眼を瞑りながら渋い表情を浮かべるイブ。

彼女は、このままこの食事を食べてしまったら・・・


「(死んじゃったシリウス様にもうしわけがたたないかもだし・・・)」


と考え、必死になって食欲と戦っていたのである。

だが、同時に逆のことも思う。


「(・・・ここで死んじゃったらそれこそ、ごめんなさい、じゃ許してくれないかもだし・・・)」


そして、先立っていった父とシリウス(?)の顔を浮かべるイブ。


そして悩んだ末に彼女は・・・


「・・・・・・は、はむっ!」


・・・食欲に耐え切れなくなって、ついに食事に手を付けてしまったのである・・・。




そして、結局、全ての食事を平らげた後。


「・・・ぐすっ・・・」


イブは泣いていた・・・。


「(シリウス様のこと裏切っちゃった・・・)ぐすっ・・・」


自分の行為が、魔王に対する背信であると思ったようである。


「(でも、食べないと、死んじゃうかもだったし・・・)」


どうにか罪の重さ(?)に耐えられるように、言い訳を考えるイブ。


それから暫くの後、彼女は・・・


「うん!(助けようとしてくれたシリウス様のためにも、無事にここから逃げ出してみせるんだから!)」


・・・開き直ることにしたようだ。


摂取した食事の栄養がまだ十分に身体に行き渡っていないためか、身体のふらつきは残っていたものの、彼女は身体を起こすと、牢屋の扉に付いていた鍵を調べ始めた。


「(・・・これ、随分シンプルな作りをしてる・・・)」


鍵の機構自体は金属で出来ていたが、堅牢というわけではなく、鍵が入るシリンダーや、ロック機構を動かすためのカムなど、回転部品を固定するための軸がケースの外側にむき出しになった作りになっていた。

そんな機構から推測すると、この軸のどれかを回せば、鍵は開きそうだが・・・。

とはいえ、曲がりなりにも牢の鍵。

軸が出っ張っていたわけではないので、特別な工具がない限り、直接回すことはでき無さそうであった・・・。


しかしイブには、その軸を回すつもりは無かったようである。


「(・・・この軸かなぁ・・・)」


彼女は軸の一つに目星をつけた後、先程まで食事が乗っていた木製の食器に眼をやった。


「(これと・・・あと何か硬くて尖ったもの・・・あ、これが良いかな?)」


それから彼女が手にしたのは、壁から剥がれて落ちていた、石の欠片だった。

そしてイブはその石の角を、目星を付けていた鍵の軸にあてがうと、


ゴンッ!


食器の裏側を石に叩きつけて、軸を無理矢理に外そうとしたのである。


「(・・・これじゃないかなぁ・・・)」


ゴンッ!


もしも軸と内部の部品が一体に作られているものだったら、外すことができない・・・。

そんな懸念を抱きつつも、何度か軸を叩いていくイブ。


しばらくすると彼女が叩いていた軸は、徐々にケースの中へと埋まっていった。


「(やっぱ、これでよかったみたい!)」


そんな凹んでいく軸に、笑みを見せるイブ。


・・・そんな時であった。


五月蝿(うるさ)いぞ!何をしている!」


牢を管理している看守が現れたのである。


「(まずっ!・・・何て言い訳を・・・・・・そうだ!)」


これまで、一度も見たことのなかった看守が突然現れたことに、一瞬は面食らうイブだったが、自分が手に持っていた食器に気づくと声を上げた。


「足りない!もっと食べたい!」


この食事を持ってきたロリコンは、自分が食事を取らないことを心配していたようなのである。

ならば、そのことを知っているだろう看守に『空腹で暴れていた』と思わせることができれば、なんとか誤魔化せるのではないか・・・と彼女は考えたのだ。


実際それが功を奏したようで、


「ほう。食事を摂ったか・・・。いいだろう。新しい食事を用意させよう」


そう言って、看守は牢の前から立ち去っていったのである。


「(はぁ・・・バレるかと思った・・・)」


その様子に、ホッと胸を撫で下ろすイブ。


だがこれからは、大きな音を立てて、作業を続けることが難しくなりそうであった。

・・・尤も、看守が食事を手配しに行って戻ってきてからは、という但し書きが付くのだが。


「(・・・今しかない!)」


看守が扉を開閉して牢屋のある部屋から外に出て行った音を確認すると、イブはこれまで以上の速度で、文字通り必死になって、鍵の軸を叩き続けた。


・・・それから数十秒後。


バキン!


そんな甲高い音が鳴って、軸がはまっていた穴から内側にズレ、彼女の思惑通りに外れたのである。


「(後は、このロックを・・・)」


内部の機構を破壊することには成功したが、扉から壁に向かって出っ張っている突起(ロック)を引っ込めない限り、扉を開けることは叶わなかった。

何か細く硬いもので(こじ)ることができれば、良いのだが・・・


「無い・・・ちょうどいいものが無い・・・」


そう呟きながら、少々焦り気味に、使えそうなものを探すイブ。

扉と壁の隙間の大きさは5mm程度開いており、それほど精度の良い作りにはなっていなかったが、その隙間に入るような薄っぺらく硬い物が見つからなかったのである。


「・・・もう戻ってくる・・・!」


看守自ら調理をしていない限り、彼がまもなく戻ってくるのは、ほぼ確実なことであった。

そして戻ってきたのなら・・・今の方法で脱出するのは困難になることだろう。


それだけなら、別の脱出方法を考えればいいので大した問題ではない。

何よりも問題は、鍵を既に壊してしまっていたことであった。

看守やロリコンが食事を差し入れようと鍵を開けようとした時点で、鍵が壊れていることに気づかれたのなら、彼女の脱出はバレてしまうかも知れない。

そして、そうなってしまったら・・・次のチャンスがあるかどうかは分からないのだ。


・・・イブの頭の中では、そんな『もしも』といったネガティブな考えばかりがうずまき始めていた。

そんな時、彼女は、


「んがっ?!」


ガシャァン!!


と、地面に落ちていたものを誤って踏んづけて、転んでしまう。


「間違えて食器を・・・・・・!?」


そして彼女は気付いた。

食器が載っていた金属製の盆。

これ使えば、どうにかなると。


「・・・っ!」


ガンッ!ガンッ!ガンッ!


縁が曲がって中身が落ちないようなデザインになっていた盆を、最早、石で叩いて真っ平らにしていくイブ。

それから余計な部分をひたすら折り曲げては戻し、折り曲げては戻しを繰り返し、金属疲労を用いて切断すると・・・


「で、で、で、できた・・・」


どうにか彼女の欲しかった道具が出来上がった。


そして、疲労のためにプルプルと揺れる手で、扉のロックの部分に差し込んで抉ると・・・


カチャ・・・


ようやく、鍵が外れたのである。


「はぁ・・・」


そのことに安堵の表情を見せるイブ。

・・・そのタイミングで、


ギィィィィ・・・バタン・・・


・・・看守が戻ってきたようであった。


「?!」


その音に、イブは思わず尻尾の毛を逆立た。

どうやら彼女に、一息ついている暇は無いようだ。


イブは鍵が空いた牢の扉を迷うこと無く開くと、ありったけの力を振り絞って、恐らく看守が来るだろう方向へと走った。

もしも、逆に逃げたとしたら・・・自分が牢屋にいないことに気付いた看守が、周囲を探しまわったり、この牢屋のある部屋自体を閉鎖するなどした際に、逃げられなくなってしまう・・・彼女はそう考えたのである。


そして、最初の角を曲がった所にあった棚の影に、彼女は身を小さくして潜り込んだ。

その際、何やら尖った金属製の道具や所々シミの残った道具が大量に詰められている様子が彼女の眼に入ってくる。

所謂、拷問道具を仕舞っておくための棚のようであった。


「?!」


その様子を見て、思わず悲鳴を上げてしまいそうになるイブだったが、(すんで)のところで口を抑えて、どうにか事なきを得る。

そして、偶然目に入った便利そうな道具(爪を剥がすペンチ)を一つだけ手に取ると、ポケットの中に押し込んだ。


次の瞬間、


コトン、コトン、コトン・・・


折れ曲がった通路の先から黒い鎧を纏った看守が現れ、イブの前を通過していく。

幸いにも、看守がヘルメットを被っていたためか、彼は隠れている彼女に気づくこと無く、そのまま通過していった。


「(・・・今だ!)」


大した距離を走ったわけではないが、既に棒のようになってしまっていた足に、彼女は再び鞭を打つと、看守がやってきた通路を、壁に身体をぶつけながら走っていく。


それから間もなくして、


『いない!?どこに行った!』


そんな声が背中の方から飛んでくるのを耳にしながら、イブは、牢屋のあった部屋から廊下へと、駆け出すことに成功したのである・・・。

テレサちゃんが文を書き終わった後で、寝そべりながらブンブンと尻尾を回してストレッチをしているみたいなので、代わりに私があとがきを書きます。

・・・なんか、ずっと座っていると、尻尾が痛くなるみたいですよ?

私は一本しか尻尾が無いので分かんないですけど、3本あると、座る際のやり場に困るみたいです。


それで、あとがきなんですが・・・私が書いたわけじゃないので、特に書くことがないんですよね・・・。

なので、以前、テレサちゃんが日が落ちる前に外出しないって言った話があったと思うんですけど、その理由について話そうかと思います。


話の前に、前提として、耳や尻尾が生えていると他の人達から奇異の眼で見られる・・・ということを言っておきますね。

実は、普段、私が買い物に行くときも、ちゃんと耳と尻尾を隠して行ってるんですよ?

主さんが『隠さないと政府の機関が(略)』って、いつも口癖のように言ってくるんです。

テレビでも宇宙人が捕まったとかそんな特集があるので、私たちみたいな獣人が居ると別れば・・・実際、捕まってしまうんでしょうね・・・。




・・・ある日の昼頃のことです。


テレサちゃんは、私と一緒に稲荷寿司を買いに行きました。

ただ、スーパーではなく、ちゃんとしたお寿司屋さんに行こうっていう話になったので、主さんの家から少し離れた場所にあった神社の入り口にあるお寿司屋さんに行くことにしました。

流石に、1人で行くのは遠すぎたんですけど、2人なら行けるかな、って・・・。


それから、道に迷うこともなく、無事にお寿司屋さんに着くことができました。

でも、その店の前には、稲荷寿司を買いに来た人たちで、長い列ができていたんです。

ちょうど昼時だったこともあって、店の近くに住んでいた人たちが昼食をとりにやってきたみたいでした。


私は別に並んでいても気にはならなかったんですけど、テレサちゃんは嫌だったみたいです。

でも、テレサちゃんが我儘だったとか、そういう理由ではないんですよ?

テレサちゃんは尻尾が3つあるので、それを無理やり隠しているせいか、背中がふっくらとしてしまうんです。

一応、リュックを背負ってカムフラージュしているんですけど、どうしても違和感を消せないみたいで、それを人に見られるのが嫌なのじゃ、って話してました。


でも、折角来たんだし、買わないで帰るっていうのは私が許せな・・・嫌だったので、テレサちゃんの分も買うって約束して、私一人だけで、列に並ぶことにしたんです。

そして待っている間、テレサちゃんは神社の中で散歩してるってことになりました。


それから、30分ほど並んで、稲荷寿司を無事購入できた私は、テレサちゃんの事を迎えに行こうと、神社の方に足を進めました。

でも、石で出来た鳥居を超えた所で・・・どういうわけか泣きそうな顔のテレサちゃんの方からこっちに向かって走り寄ってきたんです。

そして、理由も言わずに私の手を掴むと・・・主さんの家まで、そのままずっと2人で走って行きました。


・・・後で聞いたんですが、テレサちゃん、耳と尻尾を隠していると暑くなるからっていって、神社の中の誰も居ない所で耳と尻尾を出して涼んでいたいたらしいんです。

それを人に見られて追いかけられたんだとか・・・。

なんか、土下座しながら迫り来るお爺ちゃんや黒い服を着た偉そうな人が怖かった、って言ってましたね。


それからテレサちゃんは、人に姿を見られやすい昼間に出かけることは無くなりました。

あっても、主さんと一緒にドライブか温泉に出かける時くらいです。

多分、相当、お爺ちゃんたちが怖かったんでしょうね。

想像できないですけど・・・。




え?稲荷寿司を買いに行った話が関係ない?

・・・いえ、関係なくないですよ?

だって、門前で稲荷寿司を売っている神社と言ったら・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ