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15.02-30 魔神30

「「…………」」ぽかーん


 アステリアとハイスピアは、口を開けたまま固まった。それはそうだ。地下から外に出ると、本来であれば、そこにはダミーの家があって、その外には見慣れた村の光景があるはずだったからだ。


 ところが、地下からの階段を上がった先で彼女たちが見た光景は、窓の無い石作りの城のような場所。そこに、ワルツやルシアなど、自分たちを置いて家を出て行った者たちがほぼ勢揃いしていたのだ。なんだこれは、と疑問に思うのを通り越して、固まってしまうのも無理は無いと言えるだろう。


 そんな2人に対し、ワルツはすぐに謝罪した。


「……ごめん!」


 ワルツはそのまま頭を下げた。2人をレストフェン大公国に置いてきたのは、ワルツ個人の都合。口に出来る言い訳は存在しなかったのだ。


 できることは、ただ頭を下げることだけ。謝罪して怒られるというのなら、素直に受け入れるだけ……。ワルツは、2人から罵声や怒声が飛んでくるかも知れないと覚悟しながら、頭を下げ続けた。


 そんなワルツに対して、2人が何かを言おうとしたとき——、


「ルシアちゃんとテレサ様も、かもだよね?」


——イブがそんな事を口にする。どうやら、ワルツたちと合流するまでの道中で、何かやり取りがあったらしい。


 ルシアたちもワルツを追いかけるために、何も言わずにアステリアたちの前から姿を消したのである。アステリアたちからすれば、ワルツもルシアたちも、同じような行動をしたように見えたはずだ。即ち——自分たちを見捨てて、出ていったのだ、と。


 それは、ワルツの事を探す旅の道中、イブが想像で語ったものであり、本当にアステリアたちが、見捨てられたのだと思ったのかどうかは定かでない。それでも、ルシアたちもまた、ワルツと同じように謝罪すべきではないか……。それが、イブとルシアたちの間で交わされた会話だったようだ。数週間というワルツ探しの旅は、ただの無駄な時間ではなく、自らの行動を見直すための時間でもあったらしい。


 結果、ルシアとテレサも頭を下げる。彼女たちも、ただ一言——、


「「ごめんなさい」なのじゃ」


——と口にして。


 ちなみにイブも頭を下げている。ただし、彼女の場合は、自身の行動に悪いと思う点があったから、というわけではない。ましてや、空気に流されたわけでもない。


 イブが頭を下げたのは、どうしようもないミッドエデンのメンバーを代表してのこと。ワルツやルシアたちがいなくとも、コルテックスたちミッドエデン関係者が支援の手を差し出そうと思えば、アステリアたちは、未来に不安を感じる事はなかったはずなのである。それを申し訳ないと思い、イブは頭を下げたのだ。


 結果、皆に頭を下げられることになったアステリアとハイスピアは、しばらく戸惑っていたようだが、間もなくして我に返り……。そして、状況を理解する。彼女たちは思い出したのだ。ワルツたちのことを"常識"の尺度で考えてはいけない、と。


「えっと、皆さん、頭を上げてください」


 ハイスピアが口を開く。その表情に怒りは無い。


 アステリアは、黙ってハイスピアの言葉を聞いていたようだ。彼女はチラリとハイスピアに視線を向けたとき、目配せで、ハイスピアにすべてを任せたのである。アステリアは、ハイスピアと共に行動することを決めており、そしてハイスピアはアステリアよりも、ずっと年上。今後の方針を任せる相手として、これ以上無いくらいに頼もしいと言える人物だった。


 ハイスピアもまた、アステリアの期待に答えるべく、代表して問いかける。


「状況がよく飲み込めていないのですが、もしかして……いえ、もしかしなくても、地下の空間ごと、どこか遠くに転移させました?」


 その問いかけに、ワルツが返答する。


「えぇ。惑星の裏側……私たちが家出している国まで、転移させたわ?」


「…………」ゆらり


 ハイスピアの身体が左右に揺れる。現実逃避の前兆だ。


 そんなハイスピアのことを見ているうちに、段々と心許なくなってきたアステリアは、ハイスピアの代わりに口を開こうとするが……。その直前で、ハイスピアは、どうにか現実逃避を踏みとどまって、再び口を開く。


「さすがは、ワルツ先生。状況は分かりました。しかし、これだけは聞かせて下さい」


 そしてハイスピアは核心に触れた。


「なぜ私たちを呼び寄せたのですか?」


 対するワルツは、頭を上げると、胸を張って言った。


「放置することが間違いだと気付いたから。気付かされたから。今度は、絶対に手放さないから……」


「「え゛っ」」


「申し訳ないけれど、また私たちの我が儘に付き合って貰うわね?でも今度は途中で放置したりしない。嫌だって言うまで、付き合って貰うんだから」


 果たしてそれは謝罪なのか……。その場にいたほぼ全員が同じ事を思ったようだが、ワルツとしては一応謝罪のつもりだったらしい。


 そしてもう一人、垂れ耳の獣人の少女も、頭を下げたままで、ニコリと笑みを浮かべていたようだが……。一番背の低い彼女の表情に気付いた者は誰もいなかったようだ。


あと1年で終わらせようと思えば終わらなくもないのじゃが……果たしてどうしたものか……。

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