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15.02-27 魔神27

「私……薬師ではない、別の人生を探してみたいです!」


 ワルツとテレサの説明を聞いたグランディエは、吹っ切れた様子でそんな事を言い出した。ワルツたちの行動に、よほど大きな衝撃を受けたらしい。……魔法で病気が治るのなら、薬師など必要無いのではないか、と。


 それを聞いていたワルツは、グランディエの茶を啜りながら、難色を示す。


「多分、薬師のままでいた方が良いと思うわよ?ウチの知り合いには、色々な魔法使いとか、技術者とかはいるけれど、薬師はまだ2人……いや、3人くらいしか知らないし……(カタリナは薬師で良いのかしら?でも何となく違うような……)」


 ワルツが知っている薬師は、グランディエの他、レストフェン大公国に残してきたハイスピア、そしてカタリナの3人だけだった。ただ、カタリナの場合は、薬をあまり使わず、魔法を使って力技で病の類いを治してしまうので、薬師とは言えないだろう。


 そうなると、実質的にワルツが知っている薬師は、グランディエとハイスピアの2人だけとなる。貴重な薬師だ。彼女たちがどんな力を持っているのか未だよく知らなかったワルツとしては、もう少しグランディエの力を見てみたかったようである。


「まぁ、旅をしながら薬師以外の道を探すっていうのは止めないけれど、薬師の道ももうしばらくは続けて欲しいところね」


「かしこまりました」


「かしこ……いやいや、別に、かしこまらなくてもいいから」


 グランディエは、何故、恭しく頭を下げているのか……。その理由考えたワルツは、頭が痛かったようだ。


 グランディエとワルツがそんなやり取りをしていると、ルシアが不意に、2人の会話に割り込んでくる。


「そういえば、お姉ちゃん?えっと……ハイスピア先生とアステリアちゃんたちのことなんだけど……」


「…………えぇ、うん。分かっているわ……」


 ワルツはレストフェン大公国を去る——もとい、家出をする際、同居人であるハイスピアやアステリア、それにマリアンヌのことを、学院の取り残してきたのである。ワルツが家出をしてから半月。いま、彼女たちがどこで何をしているのか、ワルツは()()気にしていた。


 ただ、ワルツは、彼女たちに対して、申し訳ない、という感情を抱いていたためか、3人のことを、ルシアたちに聞けないでいた。


「(あまり聞きたくないけれど……みんなを拾って一緒に暮らしていたのだから、3人に何かあったら、責任は私にあるわよね……)」


 と、アステリアたち3人の事だけを考えるワルツ。彼女がレストフェン大公国に残してきたものは、国そのもの、大公ジョセフィーヌ、学院、そのトップであるマグネア、月面研究所計画など、上げればキリがない。ゆえに、3人だけに(かま)けるというのは、少々偏りが過ぎると言えた。


 ワルツがレストフェン大公国について、いっさい触れようとしないことについては、ルシアたちも気付いていたようである。しかし、そのことを指摘すると、ワルツがまた逃げると思ったのか、ルシアたちは敢えてレストフェン大公国の話を口に出さなかったようである。ルシアも、テレサも、そしてイブも、ワルツに合う前に、3人で話し合って決めていたのだ。……レストフェン大公国のことは、ワルツが言い出すまで、触れないでおこう、と。


 今回は、薬師——もとい薬学科の教授であるハイスピアのことが会話に出てきたので、ルシアは思い切って、ハイスピアなど近しい人物についてだけ、口に出してみたらしい。その結果は、ワルツの表情が物語っていた。なんとも表現しがたいくらい表情だ。それを見たルシアは、少し後悔していたようである。同様に、ワルツのことを近くで見ていたテレサとイブについても、険しい表情を見せていたようだ。


 やはり言わない方が良かっただろうか、などとルシアが考えていると、ワルツが目を伏せながら、ルシアに対して問いかけた。


「あの3人……あの後、どうしてるの?」


 見るからに、あまり聞きたくないという雰囲気を漂わせているワルツに対し、ルシアは言った。ただし、自信を持って。


「みんな元気だよ?マリアンヌさんは臭気魔法の研究がしたいからって、学院に残ってる。アステリアちゃんは、ハイスピア先生の付き添い。ハイスピア先生、あの姿じゃ表に出られないし、たまにおかしな挙動をするから……」


「……そう。あの3人には申し訳ないことをしたわ」


「それは……どうかなぁ?」


 ルシアは少し楽しそうに、目を細めた。


「みんな、お姉ちゃんと会って、力を付けたから、自分の力で生きていけるようになったんだよ?ハイスピア先生は、ゼロからの出発だけど、アステリアちゃんが付いているから問題無いはず……だよ?でもね……」


「……でも?」


「アステリアちゃんは、もっとお姉ちゃんから色々な事を学びたがってた」


「…………」


 ワルツはルシアの言葉の意味を考えた。彼女には気になる事があったのだ。


 ワルツは学院で、臨時講師をしていたのである。教えていた対象は、特別教室の生徒たちだ。


 しかし、ルシアは、彼らについて一切触れなかった。ワルツの授業をもっと受けたいというのは、アステリアだけでなく、他の生徒たちも同じはずなのだ。にもかかわらず、ルシアはアステリアの話しかしなかったのである。


「(もしかして、私……クラスのみんなに嫌われた?まぁ……そうよね……。いきなり飛び出してきたのだし、好く人なんていないわよね……)」


 ワルツは尚更に寂しげな視線を見せた。


 と、その時だ。


   ドンッ!


 誰かが机を勢いよく叩いた。その音に驚いたワルツが顔を上げると、そこでは何故かイブが怒ったような表情を浮かべていた。


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