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15.02-21 魔神21

 ワルツの思考は加速した。ただし、思考が効率化したとか、次から次へとアイディアが浮かび上がってきたわけではない。単純に、処理速度だけが加速したのだ。


「(グレンが狂った?!乱心ってやつ?どうしよう……。拉致ってどこかに閉じ込めておく?それにしては、目撃者が多すぎるし……。いや、この際、グレンはどうでも良いわ。一番に被害を受けるのは、貴族たちの方よね……)」


 今、被害を受けているのは、貴族たちと、彼らを守ろうとして戦っている、彼らの騎士たちや私兵たちだ。


 戦況は、国王側が明らかに優勢だった。王の命令で、国軍が動いているのだろう。あるいは、政治的な制約——例えば、クーデターを防止するような法律があって、貴族たちが王都の中で保有できる兵士の絶対数が決まっており、碌な防衛が出来ないような仕組みになっているのかも知れない。


 ゆえに、今、危険なのは、グレンの身よりも、国軍側に攻撃を受けている貴族や兵士たちの方だった。彼らが命を落としたところで、その責任はすべてグレンにあると言えたので、ワルツは何も心を痛める必要はないのだが——、


「(グランディエがこの国に留まらないって言った事が、この乱心騒ぎの原因だとすれば、私たちも対応しなきゃダメよね……)」


——グレンの乱心の原因が自分たちにあるかもしれないと考えると、高みの見物、というわけにはいかなかった。


 ゆえに、ワルツは行動に出る。


「(とりあえず、戦闘を止めさせる!あ、でも、片方だけ戦闘が止まったら、もう片方が反撃しちゃうから、喧嘩(?)両成敗ね!)」


   ドゴゴゴゴッ!!


 ワルツは重力を操り、人々の間を凄まじい速度で駆け抜けた。空気抵抗も、慣性も無いので、まさしく目にも留まらぬ早さだ。彼女はその移動の間に、人々の急所を突いて、彼らの意識を刈り取っていく。


 結果、ほんの1秒足らずで、国軍は全滅した。文字通り一瞬の出来事だ。人々にとっては、突然、国軍兵士たちや近衛騎士たちが崩れ落ちたように見えたに違いない。尤も、その様子を見ることが出来た者がいれば、の話だが。


 そう、彼女が意識を刈り取った対象には、グレンも含まれていたのだ。彼を放っておくと、次々と別の兵士たちに指示を出しかねないので、真っ先に彼の意識を刈り取っていた。


 そして、その場に立っている者はいなくなった。しかしワルツは止まらない。


 彼女は次に、部屋に立てこもる貴族たちや、彼らの護衛をしていた騎士たちへの対処を始める。彼らを放っておけば、グレンに報復する可能性を否定できなかったからだ。


   ズドンッ!!


 ワルツが部屋の扉に近付いた瞬間、扉が鍵や蝶番、かんぬき、その他諸々を含めて、すべてが吹き飛んだ。これも一瞬の出来事。扉が未だ宙に浮かんでいるうちから、ワルツは行動を始めていて、部屋の中にいた人々全員を、丁寧に眠らせていく。


   ズドンッ!!

   ズドンッ!!

   ズドンッ!!


 部屋の制圧が終われば、次の部屋の制圧だ。目に入った部屋、目に入った人、目に入ったすべての障害物を、ワルツは次々に制圧した。


「(んー、これ、いつまで続ければ良いのかしら?)」


 老若男女は関係無い。流石に、子どもに手を上げることは出来なかったためか、子どもたちだけは放置状態だが、それ以外は召使いも、コックたちも、庭師たちも含めて、皆、気絶させていく。


「(とりあえず、生体反応があるすべての人を気絶させるのを目標にしよ!)」


 そう判断したワルツは、()()速度を上げた。そう、彼女にとって、部屋を1つ制圧するのに、1秒はまだ長すぎたのだ。


  ◇


 そして、城から人の気配が無くなった。所々で子どもや赤子が泣いているくらいで、それ以外に音は無い。これが戦争なら、ラルバ王国は陥落した、と言えるだろう。


「で、どうする?」


 今なら目撃者はいない。グレンを誘拐することも可能だ。


「でも、誘拐したところで、何をすれば良い?説得する?グランディエを諦めろ?薬を諦めろ、って?」


 ワルツは考えた。乱心したグレンを正気に戻すためにどうすれば良いのかを。


 そして思い付く。


「……あっ、そういえば、ちょうど良い人材がいたわね」にやり


 そう口にするワルツは、この時、妹たちに感謝していたようだ。……よくぞ、自分の事を追いかけてきてくれた、と。



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