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15.02-20 魔神20

「まーた、誰かが壁に穴を開けようとしているのかしら?無駄な事を……」

「無駄なのじゃ」

「無駄かもだし」

「無駄なのですか?無駄なのですね」


「無駄かなぁ?」


 壁を補強したルシア自身は、壁を破壊される事に自信は無いらしい。というのも、ルシア自身は、自分で作った壁を、自分の魔法で貫くことが可能だからだ。自分と同じくらいの強さの魔法使いがいれば、突破される……。彼女は、そんな()()()()()想像をしているらしい。まぁ、ごく一部に例外はいるので、可能性はゼロではないが。


「でも、この振動……壁じゃなくて、もっと遠くから響いてきたやつじゃないかなぁ?」


「ほう?ついに、振動だけで、その震源を当てられるようになったとな?」

「ルシアちゃん、爆発する魔法をよく使ってるかもだからね……」

「すごい技術ですね……」

「たしかに、壁よりも、もっと外の方から響いてきた振動みたいね」


「なんか……褒められているようで、褒められていないような気がする……」


 と、ルシアはつぶやくものの、誰も取り合おうとしない。皆、どこで起こった振動なのか、気になったのだ。壁を攻撃したのではないとすれば、振動は王都のどこかから響いてきたことになるのだ。地震である可能性も否定はできないが、そうでないとすれば、相当大きな魔法が爆発した可能性が高かった。


「ちょっと、上の階に行って見てくるかの。……ほれ、イブ嬢。行ってくるのじゃ!」


「言い出したのはテレサ様かもだし!テレサ様が行くべきかもだし!」


「いや、だってほら、妾、体重がとても重いじゃろう?しかもエレベーターなんぞないゆえ、人力で登らねばならぬのじゃ。イブ嬢と妾では、消費する位置エネルギーがまるで違うゆえ、体重の軽いイブ嬢が行くべきなのじゃ」


「大丈夫かもだし。上から下がってきたときに、位置エネルギーは回収出来るかもだから、イブとテレサ様で、消費する位置エネルギーの差は無いかもだよ」


「くっ……イブ嬢が知恵を付けおったのじゃ……」げっそり


 イブに言い返せなかったのか、テレサはゲッソリとした表情を見せて立ち上がり、そして、食堂を出て、上階へと向かおうとした。


 すると、どういうわけか、ワルツも立ち上がる。


「私も見に行くわ?」


「む?妾だけで十分なのじゃ?それとも、妾の足腰を気遣って——」


「じゃぁ、先に行ってるから」ブゥン


「ちょっ、まっ!」


 ワルツはテレサをその場において、転移魔法陣を使い、どこかへと跳躍した。やはりテレサは、自力で階段を登らなければならないようだ。


  ◇


 ワルツが建てた"城"の中で、本当の意味で町を見渡せる場所は無い。"城"の周囲を取り囲む城壁が高いために、たとえ最上階に登ったとしても、視界の大半が壁で塞がっているからだ。


 ゆえに、ワルツがやってきた場所は、ラルバ王国の王城。その屋根の上だった。王城の周りに城壁は存在しないので、すぐ近くに立っているワルツの"城"の方角を除けば、町を隅々まで見通すことが可能だった。


 しかし、結果から言って、ワルツのその行動は無駄だったと言えるかも知れない。振動の発生源は——、


「城が……燃えている……」


——ラルバの王城そのものだったからだ。


「なんで?」


 兵士たちは走り回っているが、町の外部から襲われているような雰囲気はない。ただ、所々で——、


   ドーンッ!!

   キンッ!カンッ!


——と、戦闘と思しき音が聞こえてきた。それも王城内から。


「クーデター?あの面子で?いえ、あり得ないでしょ」


 ワルツの目から見る限り、ラルバ政府の上層部には、優秀な人材が多く集まっているように見えていた。会議の場にも殺伐とした雰囲気は漂っておらず、ワルツとしては、まったくの寝耳に水状態だった。


「(クーデターの中心人物は誰?いえ、それよりグレンは無事なの?)」


 ワルツの脳裏に、つい数時間前に顔を合わせたばかりの国王の顔が浮かび上がる。


「(まずは、彼の安全確保が最優先かしら?第三者でしかない私たちが、クーデターに首を突っ込むのは避けるべき事なのでしょうけれど……放置したら死んでいた、ってことになったら、寝覚めが悪すぎるし……)」


 結果ワルツは、大きく悩むこともなく、再び転移魔法陣を展開すると、グレンの生体反応が存在する場所へと転移した。


   ブゥン……


   キンッ!

   カンッ!


「逃がすでないぞ!必ず全員仕留めるのだ!」


 転移した先では、グレンが兵士たちに対し、直接指示を出していた。誰かを捕まえようとしているらしい。


 そんな彼に対し、ワルツは話しかけた。


「グレン?貴方、何しているの?」


「おぉ、ワルツ殿。さすがは反応が早い。今、反逆者どもを捕まえておるところなのだ」


「反逆者?」


 ワルツは思わず聞き返す。いったい、誰が反逆したのか、前述の通り、彼女には予想が付かなかったからだ。


 結果、返ってきた答えは、ワルツの予想の斜め上を行く内容だった。


「昼に顔を合わせた者たちがおるだろう?あやつら全員だよ」


「……え」


 グレンは何を言っているのか……。ワルツは思わず固まった。


 むしろ、この時の彼女は混乱していなかった、と言うべきか。グレンの話を聞いた彼女は、ほぼ瞬間的に、答えに辿り着いていたからだ。


 すなわち——、


「(ヤバい……。グレンが乱心したみたい……)」


——薬を作って貰えないかも知れないと考えたグレンが、自暴自棄になって暴走した、という状況に。



"王"とは、乱心する存在なのじゃ。

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