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15.02-19 魔神19

 その日の夜。


 テレサが作った、見た目はともかく味の良い料理を中心に、パーティーが開かれた。歓迎会兼、再会の祝い兼、新しい旅の門出を祝うパーティーだ。参加メンバーは、ワルツ、グランディエほか、ルシアたちの合計5人。一部の料理は魔物たちにも振る舞われていたが、彼らが城の中に入ろうとする気配は無い。野生の魔物らしく、警戒しているらしい。振る舞われた料理を前にして、命の危険を感じているのかも知れない。


「美味しそうです!」きらきら


「うむうむ。そうじゃろう?」


「イブもお料理を手伝いたかったかもだし」


「お主が料理を作れば、うどんかパンだけになるゆえ、今回は遠慮して貰ったのじゃ。知っておるか?イブ嬢。お主が通称【小麦娘】と呼ばれておることを」


「いや、それ、テレサ様が勝手に言ってるだけかもだし。それにイブ、おうどんとパンだけじゃなくて、お好み焼きとかクッキーとか、他にも色々、作れるかもだし!」


「イブちゃん……それ全部、材料が小麦……」


 食堂の机の上に並んでいた料理は、様々である。所謂、オードブルだ。ルシアがいれば、材料はほぼ一瞬で集まり、また、調味料などは薬屋のグランディエが所持していたので、料理を作るテレサとしては、特に苦も無く調理ができたようだ。なお、ルシアがどうやって材料を集めたのかについては、ここでは詳しく触れない。文字に起こすと、あまりに残酷だからだ。


「それにしても、すごいですね。ルシアちゃんが高いところに立ったと思ったら、次の瞬間には、お肉を持っているんですから」


「……グランディエ殿。できれば、食事前にその話は……」


「あっ、す、すみません。薬屋の生活が長いせいか、怪我人や病人と接する機会がよくありまして、血や肉を見ることになれてしまっていました。皆さん、そういう話って苦手なのですね」


「う、うむ……。そういうわけではないというか、あの惨状を思い出すだけというか……」

「かも……だね……」


 テレサとイブは、遠い視線を、食堂の天井へと向けた。その先には一枚岩の天井しか無いが、2人の心の目には、何か違う景色が映っているのかも知れない。具体的には、遠距離攻撃魔法を駆使して魔物を狩り、そして血の滴る肉を手にしながら満面の笑みを浮かべる黄金色の狐娘の姿が……。


「そんなこと良いから、早く食べよ?お寿司が乾燥しちゃう」


「ア嬢……。お主やはり、寿司しか食わぬつもりじゃな?」


「えっ……それしか食べないのですか?!」


「(グランディエ様……。ルシアちゃんはお寿司しか食べられない人かもだから、そっとしておいて欲しいかもだよ?)」ぼそっ


「(えっ……)」


 和気藹々(?)とやり取りをするテレサたち4人とは対照的に、ワルツはずっと静かだった。皆と同じ食卓に着いてはいるものの、一人だけ何かを考え込んでいるといった様子だ。


 食事が始まり、皆が思い思いに料理へと手を付ける中、ワルツはやはり険しい表情を浮かべていた。そんな彼女に、ルシアが問いかける。


「お姉ちゃん、大丈夫?お腹が痛いの?」


「えぇ、大丈夫。痛いのはお腹じゃなくて、頭の方かしら。まぁ、痛いって感覚は無いのだけれど、色々と悩ましいことがあるのよ」


 ワルツのその言葉を聞いて、ルシアは推測した。


「王様に渡す薬のこと?」


「そうそう。グランディエの言い分と同じで、飲んで寿命が短くなるような薬を王様に渡すのは、私も反対ないのよ。みんなが幸せになる方法って何かないか……って悩んでる」


「うーん……」


 ルシアは軽く考え込んだ後、言った。


「王様のことは、放っておけば良いんじゃないかなぁ?」


「えっ?」


「だって、放っておけば、王様の寿命は縮まないんでしょ?困るのが、見た目だけだっていうなら、お化粧をすれば良いと思うし」


「そうねぇ……。聞いた話だと、成長して身長が高くなるわけじゃなくて、見た目だけが年相応の姿に変わるだけらしいから、放置するのはアリだと思うわ?だけど、それをやったら、グランディエは二度と、この国に戻って来られなくなると思うのよ」


「うーん。そうかなぁ……。大きな国の中で、人一人を探すって、かなり難しいと思うけどなぁ……」


 と、家出したワルツを全世界の中から直感だけで見つけたルシアが話す。そこに、説得力は無い。


 ただ、ワルツとしては、ルシアの言葉に、同感だったらしい。彼女は、グレンに薬を渡さないという選択肢が正しいのではないかと考え始めた。


 そのリスク、バックアップ、プランBは無いか……。ワルツがそんな事を考え始めた——その瞬間。


   ドォォォォン……


 という小さな地響きがワルツたちのいた食堂に響き渡ってきた。



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