15.02-17 魔神17
「でしたら、こうしましょう。ワルツ様が帰りたくなったら、その時は帰る。それまでは私と一緒に旅をして頂けませんか?」
グランディエのその申し出は、ワルツにとって、とてもありがたい事だった。まるで発言を誘導したかのような状況に、ワルツは少し心を痛めていたものの、結果としてはこの上なく良好。
「そう言ってもらえると助かるわ?」
ワルツは安堵して、ホッと息を吐いた。
するとルシアたちも揃って口を開く。
「私は、ずっとお姉ちゃんの側にいるから、ミッドエデンに帰っても、帰らなくても良いよ?」
「ア嬢?それは少しばかり病んだ者の発言なのじゃ。というか、ミッドエデンに帰らねば、美味い稲荷寿司が食えぬではないか?」
「……この場面であまりこういうことを言うのもどうかと思うかもだけれど、多分、ルシアちゃん、ミッドエデンに帰らなくても良いように、テレサ様を連れてきたかもじゃない?テレサ様がいれば、お寿司を作ってくれるかもだから」
「……妾は寿司製造機か?」げっそり
テレサの問いかけに対し、ルシアからの否定は無い。どうやら、テレサに寿司を作って貰いたいという理由で、彼女の事を連れてきたというのは、強ち間違いではないらしい。まぁ、本心は不明だが。
その代わり、ルシアは話を誤魔化すようにして、グランディエに対してこう言った。
「じゃぁ、新しい旅仲間を歓迎するために、パーティーを開かなきゃね!」
と口にするルシアの前には、パーティーにも使えそうなほど、皿一杯に盛り付けられた食事が置かれていた。ただし、すべてが稲荷寿司。しかも、そのすべてを彼女は軽く平らげることが出来るので、パーティー用の稲荷寿司というわけではなかった。時間帯的に間食、だろうか。もしもパーティー用に提供すると申し出があったとしても、周りの者たちが拒否することだろう。……主にテレサ辺りが。
「仕方ないのう……。妾が料理を作るかの。……ワルツよ?」
「ん?」
「料理を作るのに、食材が無いのじゃが、城の外におる魔物たちを使って良いのかの?」
「ちょっ……」
ワルツは魔物たちについて説明していなかったので、テレサは魔物たちを非常食か、偶然紛れ込んだ獲物と勘違いしているらしい。
挙げ句——、
「解体すの、久しぶりかもだし!」じゃきん
——イブがメイド服の中から、大きなマグロでも解体できそうな、長い卸包丁を取り出した。長さを考えれば、スカートの中に収納する事は物理的に不可能なはずなので、服自体に空間拡張のエンチャントか何かでも掛かっているのだろう。
そんなやる気満々の2人を前に、ワルツは首を横に振った。
「あれ、ペットだから、食べちゃダメよ?」
「えっ……」
「ペットかもなの?!」
「いや、正確にはペットとは言わないのかも知れないけれど、なんとなく餌付けをしてたら、付いてきちゃってさ?ちょっと愛着が湧いちゃったから、食べるのは勘弁してあげて?」
「そっかぁ……。もう少しで危ないところだったよ?」
ここまで静かにワルツたちの話を聞いていたグランディエは、ルシアの発言を聞いて、感慨深げに頷いていた。ワルツが餌付けした魔物たちは、殆どが幻獣と言われる類いの魔物たちばかり。もちろん、ニクも例外ではない。そんな獣たちが"城"の中にいれば、いつ襲われるとも限らないのだから、危ないところだった、というルシアの発言には、グランディエも同意見だったのである。
ただし——、
「うっかり、焼肉にしちゃうところだったんだから」
——その余計な発言を聞くまでの話だが。
「えっ?」
「うん?えっと……さっき、お城の中を探検していたら、たくさんの魔物たちが一緒にくっついて小さくなっているのを見つけたんだけど、出会い頭で急のことだったから、反射的に消し飛ばしそうになっちゃったんだよね。そうしたら、スリスリ、ってすり寄ってきて……。あれが無かったら、今頃、あの子たちは、焼肉になっちゃってたかなぁ、って」
「いや、ア嬢?それは焼肉ではなく、灰になるのじゃ」
「そんなこと…………」
「……否定しないかもだし。イブも、灰になると思うかもだし」
と、和気藹々(?)とした様子で、魔物たちのことを思い出しながら語らうルシアたち。
その一方で、グランディエは違うことを考えていた。
「(え、えっと……私……大変な方々と旅をすることになってしまったのでは……)」
そう思うグランディエだったが、後悔先に立たず。今更、前言を撤回できない彼女は、思い悩むのをやめて、ワルツたちとの旅に出ることを決心するのであった。
……その考え事態が、まだまだ浅はかすぎるとも知らずに。




