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15.02-15 魔神15

 グランディエによるちゃぶ台返しを食らってしまったワルツは、一旦、その場を引き上げて、グランディエに事情を聞くことにした。衝撃を受けたのはグレンだけでなく、ワルツもまた同じだったのだ。


 ラルバ王国の王城から"城"に戻り、そしてワルツたちはそのままの足で、食堂へとやってきていた。食堂の隣にあった厨房では、誰かが食事を作っているのか、食堂にまでその匂いが立ちこめていて、昼食を抜いていたグランディエの食欲を刺激する。


 そのことについてはワルツも理解していたが、しかし、今の彼女としては、それどころではない。


「ごめん、グランディエ。旅して回りたいって……前に言ってたっけ?」


 単に聞き漏らしていただけだろうか……。ワルツは、グランディエとの今までのやり取りを思い出しながら、問いかけた。


 するとグランディエは、どこか言い難そうに、ワルツの問いかけにこう答える。


「……いえ、ワルツ様と旅をしたいと言ったのは、あの場で言ったのが初めてです」


「そうよね……。私も初めて聞いたし……」


「ダメ……なのですか?」


「ダメってことはないけれど……うーん……。どう話せば良いのかしら……」


 ワルツはグランディエに対して、いま自分が家出をしている事を明確に説明していない。ミッドエデンという国があって、そこでは、多種族が仲良く暮らしている、という話も言っていない。


 ミッドエデンでは、人間だけでなく、魔物が人化した者たち、魔物そのものの姿で生活する者たち、そのほか本物の魔王や、この世界を管理している女神と言える者まで、幅広い種族が、それなりに仲良く暮らしているのである。グランディエにとっては、文字通り"エデン"のような場所に違いないだろう。


 しかし、以前にも述べたとおり、ワルツにはミッドエデンの存在をグランディエに明かせない理由があった。


「(いつかは教えなければならないのだけれど、教えたら帰らなきゃならなくなっちゃいそうだから、言えないのよね……)」


 今は家出中。ミッドエデンの話をしても帰れないのだ。もちろん、物理的には帰れるだろう。しかし、彼女にもプライドがあるのだ。短時間ですぐに帰るなどという恥ずかしい真似は出来なかった。


「(でも、言わないと後で問題になりそうだし、どうすれば……)」


 今、ワルツがしたいことは、ミッドエデンに帰らず、放浪することである。それさえグランディエに止められなければ、ワルツとしては問題は無かった。つまりワルツは、可能であれば、グランディエのことを家出に巻き込みたかったのである。


 とはいえ、他人を家出に巻き込むというのは、どうなのか……。


「もう、考えれば考えるほど、ドツボにハマるわね……」


「えっ?」


「いっそのこと、何も考えずに、全部話しちゃった方が良いのかしら?」


「何の話ですか?」


「……そうしよ。あのね、グランディエ」


 と、ワルツが家出のことと、ミッドエデンのことを話そうとした——そんな時。


「あ、お姉ちゃん。帰ってたんだ」


 隣の部屋から、ルシアがやってくる。彼女は大皿いっぱいの稲荷寿司を3つほど宙に浮かべて、満面の笑みを浮かべながら、クルクルと回っていた。


 その後ろから、ゲッソリフェイスのテレサと、疲れ切った様子のイブがやってくる。2人とも、大量の稲荷寿司を作ったいせいで疲れ切っているらしく、足取りがおぼつかない。恐らくは、3皿分の稲荷寿司どころか、10皿分以上の予備の稲荷寿司を作らされたのだろう。


 しかし、そんな2人も、ワルツの姿を見てからは、すぐに明るい表情を浮かべた。そして、ルシアを通り越して、ワルツの所へと駆け寄ってくる。


「おかえりなのじゃ。どうじゃった?この国は。手に入れられそうかの?」


「おかえりなさいかもだし。お城が手に入ったら、またイブ、メイドさんをするかもだし!」


「あ、うん。特に進展はなしよ?」


「「……え゛っ?」」


「ちょっと、何?その反応。そもそも、私は、この国を手に入れようなんて考えていないのだけれど?2人とも知っているでしょ?私が面倒くさがりなこと」


「そういわれれば、そうだったのじゃ。じゃが、この程度の国、簡単に手に入れられるじゃろ?」

「ワルツ様が本気になれば、国の一つや二つ、簡単に手に入れられるかもだし?」


「「ミッドエデンみたいに」」


「ちょっ……」


 今、このタイミングで、どうしてその国の名前を口にするのか……。ワルツが内心で、あたふたと慌てていると、話は良くない方向——むしろ、ワルツが予想していた通りの方向へと転がり初めてしまう。


「あの……"みっどえでん"とは何なのですか?ワルツ様方のお話の中に、よく出てくる言葉のようですが……」


 グランディエのその言葉を聞いた瞬間、ワルツは思わず天を仰いだ。

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