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15.02-12 魔神12

「じゃぁ、次、そこの人」


 ワルツの指名した相手は、明らかに敵意むき出しの人物だった。軍務大臣が大人しくワルツの問いかけに受け答えしている様子を見てからは、さらに態度が悪化していて、まるで「裏切り者!」と表情で語っているかのような人物である。


 ワルツが彼のことを宙に浮かべても、彼の表情は大きく変化しない。常にワルツやグランディエのことを睨み続けている様子だ。


 そして彼は、ワルツたちの前へと降ろされ、一方的にしか伝わらない音の障壁を解除された。その直後のことだ。


「陛下!惑わされてはなりませぬぞ!この者たちは、凶悪な魔物たちを操る怪しげな術を使う者たち!我ら人間を惑わす術をもっているやも知れませぬぞ!」


「誰?このうるさい人?」


「んなっ!煩いとは何だ!バケモノ風情め!発言を弁えろ!」


「ちょっと煩いから黙ってて」


 ワルツは再び音の障壁を展開した。すると、彼の声は聞こえなくなる。ただ、その口はひたすらに動いていて、ワルツたちの事を罵倒しているようだった。


 とはいえ、それだけの理由で、ワルツは彼のことを排除するようなことはしない。グレンの返答を待つ。


「……この者は、財務大臣だ。こう言ってしまっては何だが……口は煩いが、やることはやる男だ」


 その瞬間、財務大臣と呼ばれた男は顔を真っ赤にして何かを喋る。どうやら、国王に対しても物言いをする人物らしい。


「ふーん。ただの過激な思想家かと思っていたけれど、意外とやり手なのね。まぁ、でも、落ち着きは身につけるべきかしら。それ以外は悪くない人材そうね」


 ワルツはそう言うと、財務大臣を元の位置に戻した。やはり排除はしないらしい。


 それが意外だったのか、財務大臣の動きが止まる。どうやら彼は、自分が排除されることを前提に、言うベき事を敢えて口に出していただけらしい。すべては国のために。


 そんな財務大臣の様子を見て、ワルツは感心する。


「中々に良い人材が揃っているじゃない?この国。じゃぁ、次」


 ワルツは次々と似たようなことを繰り返していく。その相手は魔法大臣であったり、農務大臣であったり、交通大臣であったり……。その殆どの者が、変わり者である反面、大臣として恥じない思考を持っていたようである。


 そんな中で、一際、目立つ人物がいた。ワルツが最後まで残しておいた、面倒臭そうな人物だ。


「……この老いぼれめに、何かご用ですかな?魔王殿」


 その場において、最も高齢な人物。数十人と貴族たちが揃う中で、最もギラギラとした目をワルツたちに向けていた人物である。


「面接よ?貴方は何者?」


「儂は、国王陛下の補佐をしておる、しがないジジイよ」


「……宰相だ」


「ホント、あなたの国って、変わり者が多いのね?」


 自らをジジイと名乗るその人物の眼光は鋭い。まるでワルツたちのことを、逆に値踏みをしているかのようだった。


 そんな彼の視線が気になったのか、ワルツは問いかけた。


「貴方は私たちを見て、どう思う?ただ邪魔なだけか、共存できる相手か、魔物と同様の危険人物か」


「ふむ……。その質問では、まるで、儂の方が面接をしているかのようですな。しかし、答えましょうぞ。儂から見た其方らは、魔物と同様の危険な存在。何をするか分からぬ、暴走寸前の魔道具と同じよ」


「そう。貴方も素直なのね?」


「老い先短いただのジジイじゃ。今ここで消されようが、生かされようが、儂の寿命などあまり変わらん。儂一人の命で数百数千数万の民が生きながらえるというのなら、いくらでもこの命、差し出そうぞ」


「良いわね……うん。ウチの議長も、このくらいの男気があっても良いと思うのだけれど……(むしろ、女気?)」


「「んん?」」


「いえ、独り言よ。でも、困ったわね……」


 ワルツは不意に頭を抱えた。面接は宰相で一通り終わったのだが、会議室にいる誰もが、信念のある思考をしており、皆、優秀な人材に見えたのだ。処分したほうがいいと思える人物は、誰一人としていない。


 国を変えるために、まずはトップから変えてみよう……。そう思っていたワルツの計画は、早速躓くことになった。


 ただ、それは、決して悪い事ではなかった。


「これだけ優秀な人たちが集まっているなら、対話だけで問題は解決出来そうね」


「「「……えっ?」」」


 一体、何の問題を解決するというのか……。皆が首を傾げる中、ワルツは会議室の中に展開していた音の障壁をすべて取り去った。


 しかし、音は無い。いつの間にか、皆が口を閉ざしていたからだ。


 そんな者たちの中で、ワルツは告げる。


「この国を、彼女(グランディエ)のような"人間"が、安心して住めるような国にしたいのよ」


 ワルツの言葉が会議室の中に響き渡るが、部屋の中は静かなまま。どうやら皆が考えているらしい。しかも同じ事を。


 ……そのためだけに、町中まで魔物を呼び込んで、更には"城"の建設までしたのか、と。

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