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15.02-11 魔神11

 ワルツは本当に国を壊して、作り替えるつもりなのか……。そんなグレンの疑問を裏付けるように、ワルツは行動を始める。


「この中で、軍務に関わる人って誰?」


「……あの者が、軍務大臣である」


「なるほど。見た通りの人物ね」


 軍務大臣は、体格の良い中年男性だった。服の上からでも鍛えていることは容易に察せられることから、日々、彼自身も、鍛錬を欠かしていないのだろう。悪く言えば、脳筋、と言ったところだろうか。本来、軍人は制服組になれば、書類や情報との戦いに身を置くことになるので、鍛えているような時間など無くなるはずだからだ。


 そんな軍務大臣のことを、ワルツは宙に浮かべると、自分の前へと連れてくる。それだけで、つい直前まで無音のまま騒いでいた軍務大臣の表情が強張った。


 そしてワルツは、彼の周りから音の障壁を取り去ると、こんなことを言い出す。


「それじゃぁ、これから、面接を始めます」


「は?」


「まぁ、そんな緊張しなくても良いわよ?大した事を聞くわけじゃないから」


 などと言いつつ、ワルツは宙に映像を浮かべる。3Dのホログラムだ。


 そこには惑星アニアの全体像が映っていて、大陸や海、それに大気なども細かく表現されていた。まるで、実際に撮影された映像かのように。


 そんな惑星アニアの映像が段々と拡大されていき、とある大陸の上空で停止する。そこには光点が一箇所。その隣には、"現在位置"と書かれていた。


「一応、確認するけれど、"地図"って知ってる?」


 馬鹿にしているのか……。と、ミッドエデン人なら怒り出す者もいるかも知れないが、その場にいる者たちが、ワルツの発言に怒るようなことはなかった。ワルツが表示していた惑星アニアの映像は、この世界の殆どの人々が一生知り得ない情報だからだ。皆、航空写真のように鮮明なホログラムを、食い入るように見つめている様子だ。


 軍務大臣も、怒りや恐怖を通り越し、一回りして我に返ったらしく、冷静な様子でこう答えた。


「知っている。だが、私の知っている地図は、そこの机の上にあるような、もっと稚拙なものだ。このように……細かく鮮やかなものではない」


「うん。良い返答ね。これはこの世界を実際に空から写した地図。それも、いま実際に空から見て、映している映像よ?」


「実際に空から?一体どうやって……いや、そもそおも"えいぞう"というのは——」


「あー、色々疑問はあると思うけれど、質問は後。貴方が、私のお眼鏡に適ったら、その時に色々と教えてあげるわ?」


 そうこれは面接。今、質問を出すのはワルツであり、軍務大臣が返答するという場なのである。


 ここで軍務大臣が怒るようなことがあれば、面接は失格。ワルツはそんな基準を面接の合格基準としていたようだ。今のところ、軍務大臣が怒るような様子は無い。見た目は筋肉一筋のような人物だが、しっかりと頭も使うことが出来るらしい。


 そんな軍務大臣の反応に、ワルツは高評価を出しながら、面接を続けた。


「そこの机の上にある地図によると、今、貴方たちの国は、多分、こんな形をしていると思うのよ。ちょっと歪んだ円形ね。北方はには山脈があって、南西と南東の方角にある山も少し高め。海は無し。南方の国を超えて、海から吹き抜けてくる風が、北の山々にぶつかって停滞するから、周辺諸国に比べれば雨は比較的多い……って感じかしら?」


「…………」


「雨が多いことで河川も多く、山からのミネラルが適度に多いおかげで、土地は肥えていそうね。そのせいで、北を除いた三方を囲んでいる国には、事あるごとに妬まれていて、歴史的に戦争が多い……。そんな認識であってる?」


「……一部、分からない単語があったが、概ね、今の説明の通りだ」


「そう。じゃぁ、質問。北方は山脈があるから、北の国が攻め込んでくることは無いと思っているわよね?実際、山道らしき山道も無さそうだし。もし、その前提が覆って、南方からも、東西からも、そして北方からもこの国が攻め込まれるような事があったとき、貴方ならどう対処する?」


「そんなことは……」


 ありえない……。と口に仕掛けた軍務大臣だったが、直前でその言葉を飲み込んだ。目の前の魔王たち——ワルツたちであれば、難なく山を越えてきそうな気がしたのだ。……まぁ、つい最近、どこかの誰かが、王都から見える遠くの山を蒸発させたばかりなわけだが、そのことについては、部屋の隅にでも置いておこう。


「……」


 文字通り四面楚歌。救いは無い。逃げる場所もなければ、籠城してもそう長くは耐えられない。そんな状況の中で、国を生かし、民を守る手段があるとすれば——、


「……その時は、あなたたちに助けを乞うしか無いだろうな」


——ワルツたちに助けを求めるしか無い。軍務大臣にとって、すぐに回答できる答えは、それしか無かった。


「うん。賢明な判断ね。私たちが助けるかどうかはまた別の話だけれど、それは交渉次第の話だもの」


 終始、大人しく受け答えをしていた軍務大臣に対するワルツの評価は、それなりに高かったようである。どうやら彼女の軍務大臣に対する面接は合格らしい。


 それからワルツは値踏みをするように貴族たちを見回した。そして次のターゲットをグレンに対して告げる。


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