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15.02-04 魔神4

 その後、ルシアたちは、城の中の探検がしたい、などと男子のような発言をして、ワルツたちがいた食堂から出て行った。今夜、自分たちの寝る部屋を決めるつもりなのか、町を一望できる展望台に行くつもりなのかは不明だが、ルシア、テレサ、イブの3人で、仲良く行動するつもりのようだ。


 というわけで、食堂にはワルツとグランディエだけが残されることになった。3人がいなくなった食堂の中には、以前のように静かな雰囲気に包まれていたが、話しにくい雰囲気というわけではなかった。元々、ワルツとグランディエは、2人で旅をしていたのである。突然、嵐が来て、それが過ぎ去ったようなもの、と言えるかもしれない。


「あのような種族の方々がいらっしゃるのですね……。あの方々が魔族、なのですか?」


「魔族、ではないと思うわよ?この大陸はどうか知らないけれど、他の大陸にはよくいる獣人ね?」


 そう口にしつつも、ワルツは今いるラルバ王国の首都の光景を思い出していた。


 彼女が思い出す限り、人族以外に獣人はおらず、その他の種族もいないようだった。人に化けた魔物と思しき者たちもいない、純然たる人間だけの町……。そんな印象だった。もしかすると、偶然ワルツが見ていなかっただけの可能性も否定は出来ないが、可能性はかなり低いと言えるだろう。


「この大陸にはいないの?」


「えっと……」


 ワルツが問いかけると、グランディエはなぜか言い淀む。


「たいりく、とは何なのですか?」


「えっ」


 どうやらグランディエは、大陸というものを知らないらしい。


「……ちなみに、海は知っているわよね?」


「もちろん知っています。あの見渡す限り大きく青い()《・》()()()のことですよね?」


「水たまりって表現がちょっと気になるところだけれど……まぁ、大体そんな感じ。大陸っていうのは、四方を海に囲まれた島みたいなものよ?」


「えっ?では、この場所って、島なのですか?」


「そうね……。端から端まで歩くと何ヶ月かかるか分からないくらい大きな島、とも言えるかも知れないわね。でも、それを大陸って言うのよ。どのくらいの大きさまでが島で、どのくらいの大きさからが大陸なのかは分からないけれど、この場所は紛れもなく大陸よ?」


「そうなのですか……。海の向こうには、ここと同じような場所があるのですね……。いつか行ってみたいものです」


「……まぁ、そうなるわよね」


 ワルツとしては、家出をしている以上、大陸を渡って()()わけにはいかなかった。ゆえに、グランディエの願いを叶えることは彼女には出来ない。


 ただ、グランディエ個人が大陸を渡るというのは自由なので、否定するようなことは言わなかった。グランディエは寿命が長いのだから、機会があれば海を渡ってみれば良い……。ワルツは心の中でそう呟く。


 とはいえ、このままでは、海を渡るための具体的な方法を聞かれて、その内、連れて行って欲しい、などと言われかねなかったため……。ワルツは話題を変えることにしたようだ。


「えっと……ところでさ」


「はい?」


「あの王様。グレンなんとか、って人。グランディエはあの人のために、薬を作るの?逆に毒を盛られそうになったわけだけど……」


「そうですね……。ですが、見る限り、あの方が毒を盛るような指示を出されていたようには見えませんでした。あの方、個人だけのことを考えるなら、特に恨みなどがあるわけではないですから、薬を調合しても良いと考えています。もちろん、依頼があれば、ですけれど」


「グランディエは優しいわね」


「薬を渡した結果、あの方は一気に老けることになりますから、薬を渡す事が優しい、とは言えないと思います。むしろ、あの方にとって私は、死神に近い存在かも知れませんよ?」


「そういう考え方もある、か……」


 自分には無い考え方だったためか、ワルツは純粋に感心していた。ワルツは、薬を渡すか渡さないかだけを考えていたが、相手——グレンの気持ちになって考えてみれば、薬を渡されることは決してメリットばかりではないのだ。


「相手の命を奪うことになるかもしれない薬だものね……。私情だけでは決められないか……」


「えぇ。薬は基本、劇薬です。人を生かすこともあれば、死に至らしめることもあります。ですから、私たち薬屋は割り切ることにしています。それはそれ、これはこれ。私情と処方は別物、と」


「どこかの医者みたいな考え方ね……」


 カタリナ辺りも同じ事を言うのかも知れない……。ワルツは茶を啜りながら、遠く離れた場所にいるだろう某医者のことを、ふと思い出すのであった。


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