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15.02-03 魔神3

 猛獣を前にした小動物のごとくプルプルと震えるグランディエは、この時だけ年相応の少女のように見えていた。彼女は"魔王"。そして、ルシアは"勇者"。2者の間にある魔力量の隔たりは圧倒的で、グランディエが考える限り、勝てる想像が出来なかったらしい。


 そんな彼女は知らなかったりする。今のルシアの状態は、テレサの幻影魔法によって、大部分の魔力が隠蔽された状態であることを……。


 一方、グランディエの様子を見ていたワルツは、グランディエとルシアの関係性に気付いたらしく、慌ててルシアの"勇者"という肩書きについて説明する。


「え、えっと、グランディエ?ルシアはおとぎ話に出てくるような勇者とは違うわよ?」


「えっ?勇者とは違う……?」


 言ったは良いものの、どう説明すれば良いものか……。ワルツはこの時、悩んでいた。


 適当な言い訳を口に出すのは簡単である。問題は、ミッドエデンについて触れなければならないことだ。


 今までワルツは可能な限り、ミッドエデンについて話してこなかったのである。以前にも述べたことだが、安住の地を求めるグランディエが、ミッドエデンの話を聞けば、行きたい、と言い出しかねなかったので、ワルツは敢えてミッドエデンについて触れなかったのだ。ワルツは今、家出中。帰るつもりのない場所に、グランディエを送り込むわけにはいかないのだから。


 ゆえに、ワルツはミッドエデンのことをぼかして説明する。


「……ある国があって、ルシアはその国に、勇者として認められたのよ。私たちと一緒にいるための、ある種の肩書きとしてね」


「まだ若いからっていう理由で、本物の勇者じゃなくて、勇者候補だけどね?」


 ワルツとルシアのやり取りを聞いたグランディエから、おびえの色が薄れていく。自分たちと一緒にいるため、というワルツの言葉を聞いて、安堵したらしい。本来、勇者の目的は、魔王を討伐すること。しかし、ルシアが勇者として認められたのは、魔王の討伐が目的ではないというのだ。グランディエが安堵する理由としては、それだけで十分だった。


「そう、でしたか……。私たち"魔王"を滅するために"勇者"になったわけではないのですね」


「うん。魔王さんたちは、みんな良い人ばかりだから、もしもみんなを退治しろなんて言う人がいたら、私が逆に退治しちゃうかなぁ?」


「それ……」


 ルシアの方が魔王なのではないか……。その場にいた全員が同じ事を思うが、皆、黙っておくことにしたようだ。触らぬ神に祟りなし、である。


「何かあった?グランディエさん?」


「いえ、何でもありません……」


「そう?まぁ、勇者って肩書きがあるけど、それっぽいことは何もしてないし、しなくて良いって言われてるから、本当に肩書きだけなんだよねー」


「「「「(うん、確かに何もしなくて良い)(かもだし)(のじゃ)」」」」


「なんかみんなの視線が気になるんだけど……」じとぉ


「「「「…………」」」」すぅっ


 皆、ルシアに対して何か思うことがあったのか、彼女から一斉に視線を逸らす。


 結果、その場の空気が妙に重くなったためか、グランディエが空気を誤魔化すように、口を開いた。


「と、とりあえず、事情は理解しました。流石、皆さん、ワルツ様……いえ魔神様に連なる方々なだけあって、すごい肩書きをお持ちなのですね。ところで、先ほどから何度か出てきているミッd——」


「あ、そうそう。忘れないうちに、私とグランディエの目的だけ説明しておくわね」


 グランディエがミッドエデンについて触れそうになったので、ワルツは無理矢理に言葉を挟む。グランディエとしては、途中で言葉を遮られた形になるが、ミッドエデンについて触れて欲しくないのだろうと空気を読んだらしく、彼女は言葉を飲み込んだ。


「私たち、今——」


「この国を乗っ取るのじゃな?妾たちに任せておくのじゃ!」

「魔力を提供するのは私なんだけどなぁ……別に良いけど」

「じゃぁ、イブはまた、メイドさんをするかもだし!」


「いや、別に乗っ取るつもりは微塵も無いのだけれど?」


「「「……えっ?」」」


「どうしてそんな驚いた顔をするのよ……」


 今まで一度たりとも国を乗っ取ったことなどあっただろうか……。身に覚えの無かったワルツは、思わず首を傾げてしまったようだ。


「私たちが今ここにいるのは、旅の中継地点がここだっただけで、特に意味は無いわ?これからどこか人のいない場所を探して、移動するつもりよ?……何も無ければ」


「何も無ければ、の……」

「何かあったんだね……」

「国王様みたいな人とお食事をしていたかもだし」


「……えぇ、なぜか食事に毒が盛られていたのよ」


「「「ふーん」」」


「……そこ、逆に納得して欲しくないのだけれど……」


 なぜ皆、さも当然と言わんばかりの表情を浮かべるのか……。ワルツは重くなってきた額に手を当てるのであった。


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