15.02-01 魔神1
食事に毒を盛った者や、それを利用してワルツたちを害そうとする者たちに対し、グレンはワルツたちを国家クラスの来賓として扱うことで、牽制しようとした。国家クラスの来賓として扱うということは、つまりグレンのお墨付きということ。彼女たちを来賓ではないと否定すれば、それは国王の決定を否定したことと同義となるので、極刑は免れなくなるのである。彼なりにワルツたちを守ろうとした結果だったと言えるだろう。
対するワルツは、それ自体に忌避感があったわけではないが、その場での返答をせず、回答を先延ばしにする。色々なことが先延ばしになっているが、今日はルシアたちが訪ねてきたのだ。むしろ合流したと言うべきか。ワルツとしては、そんな彼女たちに対し、事情を説明する時間が欲しかったのだ。
というわけで——、
「ここが新しい"王都"かもなんだね……」
——ラルバ王国の王都が一望できる場所に一行はやってきた。王城を含めて町のどこよりも高い場所にあるワルツ城(?)最上階。そこにある展望室である。
イブは、眼下に広がる町を見下ろしながら、どこか遠い視線を見せていた。彼女は、日々、変わっていくミッドエデンの王都の姿を見ていた事もあり、ラルバ国の王都も変わっていくのだろうと考えていたらしい。
「ちょっと、イブ?何か勘違いしてない?」
イブの発言に何か含みがあるような気がしたワルツが問いかける。
「気のせいかもだし」すぅっ
「いや、絶対気のせいじゃないでしょ」
自分から視線を逸らしたイブを見たワルツは確信した。イブもまた、国王グレンのように、何か大きな勘違いをしている、と。
そこにルシアが燃料ならぬ爆弾を投下する。
「じゃぁ、とりあえず、城壁の外側に、もっと大きな城壁を作れば良いかなぁ?」
「いや、私たちは手を加えないわよ?」
ルシアの魔力を使えば、町一つ丸ごと作り上げることすら可能である。ただし、国王や国民たちの同意も得ずに町を作れば、混乱するのは必至だろう。そう言った強引なまかり通るのは、ミッドエデン国内くらいのものだ。
ルシアの発言に問題を感じていたのは、テレサも同じだったらしい。
「ふむ。いきなり魔法で町を作り替えては、国民から反発を食らうのじゃ。ここは、町全体の人々を洗脳……説得してからにすべきではなかろうか?」
「だから、ここは私たちの町じゃなくて、単なる経由地だって」
反発を食らうのであれば、力で黙らせれば良い……。テレサの発言には、そんな副音声が含まれていた。実際、テレサとルシアがいれば可能なのだから、ワルツとしては呆れるほか無かったようだ。
「2人とも、ワルツ様たちは人のいない場所を目指しているかもだし」
「……!そっか!人がいない場所を作れば良いんだね?」
「いやいや、ア嬢?ここを更地にしてはダメなのじゃ?ここは穏便に、皆に立ち退きを勧めるべきなのじゃ。……魔法での?」
「一応言っておくけれど、この場所に未練とか何も無いからね?」
皆、分かっているのだろうか……。ワルツは内心、不安になる。ただ、その表情には薄らと笑みが浮かんでいて、皆との会話を楽しんでいるようだった。
そんなワルツの表情を見ていたグランディエは、どこか寂しそうな表情を見せながら、ポツリと呟く。
「……これが、魔神様のお仲間なのですね……」
「あっ、お姉ちゃん、ここでも魔神様って呼ばれてるんだ……」
「そりゃ、そうなのじゃ。実際、魔神じゃからのう。濁点は多いが……」
「こんなお城を建ててたら、魔神って呼ばれても仕方ないかも?ニクとかの魔物も飼ってるかもだし……」
「……なんか、私が悪い気がしてきた……」
ワルツはようやく、自分がなぜ"魔神"と呼ばれるのか、その理由に気付き始めたようである。まぁ、それも一瞬のことで、次の瞬間には忘れてしまったようだが。
それには理由がある。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「うん?」
「どうしてミッドエデンから距離を取ろうとしたの?」
ルシアが、あまり突いて欲しくない核心を突いてきたからだ。
……今日からまた文量が減るかも知れぬのじゃ。新生活が始まるゆえ、時間配分が読めぬのじゃ……。




