15.01-40 ふたり26
ワルツたちが東屋に着くと、そこには意外な人物が座っていた。もちろん、知らない人物なのだが——、
「む?おお……。其方らが、あの城の所有者たちか?思っておったよりも、遙かに幼そうに見える」
「それはお互い様じゃないかしら?」
「お若い王様……?」
——東屋に座っていたのは、王様の格好をした少年だった。年齢的には、12歳前後といったところだろうか。
「さぁ、掛けるが良い。すぐに昼食の準備をさせよう」
対話に来たワルツたちは、彼の言葉に大人しく従い、円卓の反対側に移動すると、揃って腰を下ろした。
「我の名はグレン=グラニス=エルビアント=ラルバ。長いゆえ、グレンと呼ぶが良い。親しい者たちもそう呼んでおる」
「紅蓮……(なんか、マグマっぽい名前の王様ね)」
「…………」
ワルツもグランディエも、国王が予想外の姿をしていたためか、言葉は少なめだった。いや、ワルツの場合は、親しくない人物の前だと、元々少ないと言うべきか。
では、グランディエが黙り込んでいたのはなぜかというと、彼女は彼女で、何か気になる事があったらしい。
「……不躾な質問をしても、よろしいでしょうか?」
「ふむ?気にせず申すが良い」
「その手の皺……もしかして、何らかの病に罹っているのではありませんか?」
グランディエがそう口にすると、グレンは顔色も表情も変えること無く、真っ直ぐにグランディエの顔を見つめた。
「ふむ……。やはり分かるか。報告通りの薬師のようであるな」
「私の事をご存じなのですか?」
「当たり前だ。先代の国王も、先々代の国王も、其方の薬に助けられておるゆえ」
「先代と先々代……」
「(あっ、やっぱりグランディエって、見た目通りの年齢じゃないんだ……)」
ワルツは、グランディエのことを、自分よりも遙かに高齢なのだろうと考えていた。しかし、今のところ証拠はなく、直接問いかけたことも無かったためか……。ワルツは、グレンの言葉を聞いて、確信を持ったらしい。
しかし——、
「それでしたら、おそらく、私ではなく、先代の薬師が対応されたのだと思います。私が対応したお客様に、グレン様に似た方はいらっしゃいませんでしたので……」
——グレンの言葉をグランディエは否定する。その瞬間、ワルツの思考は、再び混乱の渦に巻き込まれた。
「ふむ……客の一人一人を覚えておるとな?良い心がけである。しかし、其方らは長寿の種族と聞くが……」
「私など、先代に比べれば、まだ生まれて間もない存在です」
「(……結局、何歳なのよ……)」
グランディエの発言内容を聞く限り、彼女が見た目通りの8歳児ではないことは確かである。だからといって、何百歳というわけでもなさそう……。ワルツは一人、無駄に悩んだようだ。
ワルツが悩んでいる間も話は進んでいく。
「では、其方は、我のこの病気を知っておるのだな?」
「見た目は幼いまま、肉体の年齢だけが年老いていくという病については、先代より学んでおります。名はたしか……"ラルバ成長障害病"でしたか」
「うむ。その通りだ。先代も、先々代も、同じ病を患い、其方……いや、其方の先代に救われておる」
「(この国王様も、年齢を詐称しているの?)」
ワルツが不真面目(?)な思考をしている一方で、グランディエとグレンはシリアスな会話を続ける。
「それは……救いなのでしょうか?病を治せば、見た目がお爺ちゃん、あるはお婆ちゃんになってしまうということですよ?」
「良いのだ。このような見た目では、侮られてばかりゆえ、元あるべき姿になるのが、この国のためなのだ。……一部の女どもには、この幼い容姿を気に入っておるようだが、我としては勘弁願いたいところだ」
「なるほど……」
グランディエの相づちを打った。何か共感できることがあったらしい。
結果、そこで会話が途切れた。すると、グレンは、その会話の間を狙っていたのか、こんなことを言い出した。
「本来であれば、この話をする前に、其方らに言わねばならんことがあったのだ」
グレンはそう口にすると、その場で立ち上がって……。そして、腰を直角に曲げて、頭を下げた。
「この度は、すまなんだ!我が国の民が、我が一族の恩人たる其方らを害した。これは、あってはならぬことだ。我の命を差し出すことは出来ぬが、可能な限り、其方らの便宜を図らせてほしい」
国王が頭を下げるなど、普通はありえない事である。それほどまでに、グレンは、ワルツたちへの襲撃について、責任を感じていたようだ。




