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15.01-38 ふたり24

「「「(魔王じゃなくて、魔神……)」」」


「ん?3人とも、何だか顔色が悪そうだけれど、大丈夫?」


「「「…………」」」ぷるぷる


 まるで怯える子犬のように、小さくなってプルプルと震え始めた騎士たち。そんな彼らが何を考えているのか薄々察したのか、ワルツが不満げに眉を顰めると、騎士たちは尚更に顔色を悪化させた。


 そんな彼らの反応を一々気にしていられなくなったのか、ワルツは騎士たちからの質問への返答を再開する。


「私は……ワルツ。ただの町娘よ?良い?異論は認めないわ?」


「「「…………」」」


「結構。彼女はグランディエ。貴方たちの国の伝承がどうなっているのかは知らないけれど、魔王なんて呼ばれているわね。まぁ、本当は、ただの薬屋なのだけれど……」


 ワルツの発言に突っ込む者はいない。皆、藪蛇であることを察したらしい。


「で、2つ目の質問。どうして城の横に"城"を建てたのか、ってやつ。それは、場所がちょうど空いてたから、っていう理由と、嫌がらせのためね。だって、ただ町の近くを通過しただけなのに、いきなり攻撃をしてくるとか、頭がおかしいとしか思えないじゃない?だから嫌がらせ。3つ目の質問とも関係してくるかも知れないけれど、その文句を貴方たちの国王様に言うつもりだったから、顔合わせをしても良いわ?」


 だって、冒険者ギルドに行って文句を伝えても、取り合ってくれないのだから……。と心の中で憤るワルツとは対照的に、騎士たちは俯くばかりだった。


 騎士たちにとって、ワルツが会話出来る相手だったことは、幸いな事だと言えた。もしも、会話が出来ない相手であれば、お手上げだからだ。


 問題は、ワルツの抱く、この国に対する印象——ラルバ王国に対する印象が、最悪といっていい状態にある事だった。悪い印象を払拭するには、0から印象を良くするよりも、何十倍も努力が必要になるのだ。国と国との対応だとすれば、国家そのものが傾くレベルでの対応になる事だろう。あるいは戦争になるか。


 先に手を出したのが人間側——正確には冒険者だということは、騎士たちも知っていた。ワルツたちは、ただ真っ直ぐに国を横断していただけだということも知っていた。ゆえに、ワルツの主張が正しいということも揺るぎない事実だと認識しており、自分たちがワルツたちに失礼なことをしてしまったという自覚もあったようだ。


 だが、そう簡単に頭を下げられないのが国家。


「……持ち帰り、検討させて頂きます」


 憤るワルツに下手な返答をすれば、この国が滅びかねないと思ったのか、騎士たちはその場で明確な返答をすることなく、静かにその場を去って行った。まぁ、"城"に出入り口は無いので、結局はワルツの転移魔法陣による送迎なのだが。


  ◇


「結局、あの騎士たち、私たちだけに自己紹介をさせておいて、自分たちの名前すら話さなかったわね……」


「怖がっていたのではないですか?」


「えっ?誰を?」


「……ワルツ様を」


「まっさかー」ずずずずず


 騎士たちを見送った後、ワルツはグランディエと共に食堂で茶を啜る。


「ところで……グランディエはどうしたいと思っているの?」


「えっ?どう、とは?」


「王様への面会が叶ったときに、何か要求する事は無いか、ってこと。要求の内容によっては、その光る目が魔王の証だって伝承を法律で意味のないものに変えてもらえるかも知れないし……っていうか、変えさせるし……。そうなったら、普通の人間と同じように暮らすことだって出来るはずよ?」


「…………」


 自分はどうしたいのか……。グランディエは考え込む。


 彼女が、元の住処を離れて旅を始めた理由は、人間たちから逃げるためだった。自分は、"魔王"という種族であるために、人に追われるのである。1人や2人程度の来客であれば、いくらでも誤魔化しようはあったが、何百人という人々に住処を見られた以上、同じ場所に住むというのは危険だった。ゆえに、グランディエは、ワルツと共に、旅に出たのだ。


 そう、グランディエは目的があって、旅に出たのだ。安住の地を探すという目的を持って。


 しかし、いつの間にか、手段と目的が逆転していた。彼女は、ワルツと旅をする内に、楽しさを見出してしまったのだ。……今まで恐ろしいものだと思っていた魔物たちが、まるでペットのように懐いたり。野営と称して、一瞬で"城"を建てたり。あるいは、押し寄せてくる大勢の人間たちを一瞬で転移させて、どこかに追いやったり……。


「私は……私は……」


 私はもう少し、ワルツと旅を続けたい……。グランディエのその一言は、どういうわけか、なかなか口の外に出てこなかった。


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