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15.01-37 ふたり23

 ワルツがシレッと騎士たちの剣を元通りにした瞬間からか、あるはそれよりも前からか……。その場の空気は固まっていた。皆、下手に動けなかったらしい。ワルツという謎の存在が突然現れたことは、周囲の者たちにとってあまりにも予想外の事だったらしく、皆、対応出来ずに頭が真っ白になってしまったのだ。その上、彼女は、騎士と冒険者の剣を一瞬で直してしまったのだから、尚更である。


 場の空気が物質的に固まる(?)寸前で、ようやくワルツは、場の空気の変化に気付くことになる。


「(……はっ?!ヤバっ!)」


 グランディエのためを思って行動に出たはいいものの、ワルツとしては、その場の空気まで固まらせるつもりはなかったのである。空気を固めるということは、そこから話を繋げるために、何か新しい話題を自ら提供するか、誰かが話し出すのを待たなければならないということ。見知らぬ人々との会話があまり得意ではなかったワルツに選べる選択肢は、その内の後者しか選べなかった。


 ゆえに、しばらくの間、空気が固まり続ける。ワルツは騎士や冒険者たちが話し出すのを待っているため。他の者たちはワルツが話し出すのを待っているため、お互いに口を閉ざす。ある意味、デッドロックだ。


 そんな無限ループとも言える状況を打破したのは、その場にいた冒険者の1人だった。彼は、グランディエが被るフードの奥で、怪しく光る2つの赤い光点に気付いてしまったらしく——、


「んなっ?!バ、バケモノ?!」


——と、思わず口にしてしまう。皆が黙り込んで静かになっていたその場においては、その不穏な発言は不思議と響き渡り、固まっていた空気が再び動き始めた。


「何者だ!」


 剣を振るった冒険者が我に返って、ワルツとその後ろにいるグランディエに向かって誰何する。それから遅れて、同じく剣を振るった騎士も問いかけた。


「まさか、この城の主か?!」


 その問いかけを聞いていたグランディエは、人生が終わったような気がしていたようだ。気付くと、彼女は、ワルツの転移魔法陣によって、皆の前に立たされているのである。剣を持った人々に囲まれているのだ。まさに絶体絶命だ。


「(もう、ダメかも知れません……)」


 グランディエが人生を諦めかけたその時。ワルツが口を開いて、2者の問いかけにこう答えた。


「私?ただの町娘よ?」


 その瞬間、再び空気が固まる。理由はいうまでも無いだろう。


 騎士と冒険者が、皆の言葉を代弁した。


「「お前のような町娘がいるか!」」


「し、失礼ね……」


 なぜ信じてもらえないのだろう……。ワルツは本気で不思議に思っており、首を傾げていた。なにしろ、ミッドエデンでは、町娘の所業により、王都の中に謎の建造物が突然建つなど、良くあることなのだから。


  ◇


 ニクなどの魔物たちを守るための厩舎を建築し、魔物を討伐すべきと考える冒険者たちをぞんざいに扱って追い払った後。ワルツは"城"の食堂に、騎士たちを招いていた。


 理由は単純。この国の王が何を伝えたいのか確認するためだ。


「そ、粗茶ですが」カタカタ


 震える手で、グランディエが茶を配膳する。緊張しているらしい。


「グランディエの淹れたお茶は美味しいわよ?」ずずずずず


「「「……いただきます」」」


 ワルツは半ば脅迫するかのように、騎士たちに茶を勧めた。その副音声は——この茶が飲めなかったら敵対行為と見なす、といったところだろうか。


「あぁ……たしかに美味しい……」

「このような美味しい茶は、初めて飲みました」

「ふむ……良い香りだ」


 代表して食堂にやってきた騎士たちは3人。それぞれ、立派な甲冑を身につけていることから、高位の騎士たちなのだろう。


 そんな騎士たちに対し、ワルツが問いかける。


「それで、今日はどのような要件かしら?まぁ、城の隣に"城"を建てるな、とか、敵対するつもりか、とか、そんな文句を言いに来たのは大体分かるけれどもね?」


 ワルツの発言に、騎士の1人が口を開く。冒険者と剣を交わしていた騎士だ。


「王より3点、お言葉を賜っております。1つ目は、あなたがたの正体について。何者なのかをご説明いただけないでしょうか。2つ目は、なぜこの場所に"城"を建てたのか。ここは王城の敷地内。あなたが仰る通り、敵対の意思を持っていると取られかねません。そして3つ目は……我が王より、もし良ければ直接話し合いたい、との言葉を伝えるようにと」


「まぁ、そうなるわよね……」ずずずずず


 ワルツは茶を啜って、対応を考えた。今のところ、ワルツたちは、一方的に要求を受けている状態であり、自分たちの要求は伝えていない状況である。回答如何により、不利益を受ける可能性が考えられた。


 とはいえ、伝える事も、要求する事も最初から決まっているので、ワルツは大人しく、自己紹介から始めた。


「そうねぇ……まず、正体については、魔王ってことにしておきましょうか」


 ワルツがそう口にすると、グランディエが目を白黒させながら慌てる。


「ちょ、ちょっと、待ってください、ワルツ様!それを仰るのであれば、ワルツ様は魔神様ではありませんか!」


「いや、だから、魔神だと濁点が多いって。あと、"様"はいらない……」


 というワルツたちのやり取りを見ていた騎士たちは、耳を疑っていた。それはそうだろう。目の前で、自称魔王と自称魔神が言い争っているのだ。その上、彼女たちは一瞬で町を滅ぼしかけたり、城を建てたりしているのだ。もはや、"自称"という言葉を付ける意味は無いと言えた。


 つまり、目の前にいるのは、正真正銘の魔王と魔神。そんな認識が、騎士たちの顔を青く染め上げていった。



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