15.01-36 ふたり22
グランディエが人々に受け入れられる可能性……。そこに、ワルツが期待を持っていたかというと、そういわけではない。期待はしていなかったが、対話を望むという国王たちに、少しだけ興味が湧いたのだ。
自分個人の話であれば、ワルツはきっと、積極的に行動することはなかっただろう。彼女は基本的に人見知りが激しいので、見知らぬ相手から手を差し伸べられれば警戒して、自分から離れようとするからだ。
だが、人のためとなると、話は違う。人見知りの激しさを越えて、自ら積極的に人と関わろうとする傾向があったのだ。ルシアの時もそう。カタリナの時も、大体同じ。
今回も同様で、ワルツはグランディエのために、人々の間に割って入る。ぶつかり合っていた騎士と冒険者の間に、突然ワルツが移動した。転移魔法陣ではない。力任せの物理的な移動だ。
ワルツが割り込む直前、騎士と冒険者は、両者ともに、剣撃をぶつけようと、お互いに剣を構えていた。そして、勢いを付けて、剣を振るが——、
スカッ……
「「なっ?!」」
——ぶつかるはずの剣は、お互いの剣に衝突すること無く、そのまま宙を斬ることになる。
いや、正確には、宙を斬ってすらいない。なぜなら、両者とも、剣の柄から先が無くなっていたからだ。
そして、両者の間にいたのはワルツ。彼女は黒い小枝のようなものを、ブォンブォンと振り回しながら、文句を垂れる。
「少女相手に剣を振り下ろすとか、大人の風上にも置けないわね……。まぁ、それは冗談だけど……双方、引きなさい」
黒いローブを纏ったまま、ワルツは騎士と冒険者を見上げた。
しかし、両者とも、その場から動かない。剣を振りきった体勢で固まったまま、身動きせずにピタリと静止していた。2人の視線はワルツへと真っ直ぐに向けられたままだ。まるでその場の時間が止まっているかのように、2人とも動かなかった。
その原因は、2人の剣にあった。騎士側も冒険者側も、国内の有名な職人によって鍛え上げられた剣を使っており、雑に使ったり、余程のことがあったとしても、そう簡単には折れないほどの強度を持っているはずだった。
ところが、ワルツは、その剣を、いとも簡単に切断してしまったのである。2人にとっては何かの冗談のように思えたに違いない。
しかし、2人の剣が同時に消え去ったので、冗談だと言っていられなくなってしまったらしい。しかも、折れたはずの剣先は、その場のどこにも無いのだ。混乱しない方が難しいと言えた。
「「(いったい何だ?この少女は……)」」
そして、騎士と冒険者は確信した。
「(間違いない……)」ごくり
「(バケモノだ……)」たらぁ
目の前の少女が人間ではない"何か"である、と。今、下手な動きを見せれば、殺されかねない……。2人はそんな確信を得ていたために、身動きが取れなかったのだ。
まぁ、当然、そんな事はないのだが。
「あ、返しておくわね」こねこね
ワルツは小枝のようなものを虚空に消し去ると、どこからともなく金属の塊を取り出した。原料は、騎士と冒険者の剣を切断して一塊にした鉄塊だ。ワルツは小枝のようなもの——超重力刀で2人の剣を切断し、一塊の材料に戻していたのである。
彼女はそれを細長く伸ばし、途中でブツッと千切って2本にすると、固まっていた騎士と冒険者の柄の先にくっつけた。
コツン、コツン……
「はい、元通り」
「「えっ」」
その刀身は、紛れもなく、一瞬前まで失われていたはずのものだった。細部の装飾や長さまでまったく同じの剣だ。そんな自分の得物を見た騎士と冒険者は、再びピタリと固まってしまう。今度もまた、何が起こったのか、理解出来なかったらしい。
そんな2人の事を置き去りにして、ワルツはスタスタと城の方へと歩いて行った。その途中でグランディエを——、
ブゥンッ……
「え゛っ……ちょっ?!」
——と転移魔法で呼び寄せて、そしてクルリと後ろを振り返り、騎士たちに向かって問いかけた。
「ウチの城に何か用かしら?」
そう言って笑みを浮かべるワルツの事を、町の人々は、後世にこう語り継いだという。
……空気を固める魔法がこの世界にはあったのだ、と。




