15.01-35 ふたり21
何をどうしたら、人対人の構図が出来上がるのか……。ワルツとグランディエは、家並みの上に身を隠しながら、騎士たちと冒険者たちの様子を観察した。
その結果、分かった事は、冒険者たちが"城"の周囲にいる魔物を狩ろうとしていて、それを騎士たちが防ごうとしている、という構図だ。両者の間には、クレーターのようなものが出来上がっていて、それが爆発音の発生源だったらしい。誰かが魔法を使ったのだろう。
ちなみに、魔物たちに怪我は無さそうだった。そもそも、ワルツに付き従う魔物たちは、強者ぞろいなのだから、当然の事か。
しかし、どうやら、それが原因で、騎士団と冒険者たちの衝突が起こったようだ。
「お前ら!分かっているのか?!その背中にいる魔物は、ただの可愛い小鳥なんかじゃねぇ!一匹で町を滅ぼすくらいの力を持ったニクなんだぞ!」
と声を上げるのは、冒険者と思しき人物である。どうやら彼らは、ニクの恐ろしさを理解しているらしく、たとえ騎士たちを敵に回そうとも、ニクを駆除したかったらしい。ニクと言えば、冒険者からすれば、紛うこと無きバケモノ。例えるなら、家の目の前に、いつ爆発するともわからない爆弾が置かれているような状況なのだから、駆除するのは当然か。
一方、騎士たちも、ニクの恐ろしさについては理解していたようである。しかし、それでも、彼らには、ニクたちを始めとした魔物たちを守らなくてはならない理由があった。
「何度言えば分かる!これは王命だ!魔王と対話し、友交の可能性を模索せよとの達しを受けているのだ!貴殿らは王に背くというのか?それに、ニクといえど、こちらから手を出さねば、襲ってくることはない!」
騎士たちを動かしているのは国王。国王の命令は絶対なのだ。たとえ命を賭したとしても、守らなければならないのが、国王の命令なのだ。彼らが騎士になるとき、その命は、国王のために捧げられたのだ。
しかし、冒険者たちにとっては関係無い。上級ランクと思しき冒険者が、皆よりも一歩前に出て、声を荒げる。
「王など知ったことか!人が魔物に襲われた後じゃ、どうにもならねぇんだよ!なんでそんな単純な事が分からねえんだ!」
その瞬間、冒険者が動く。すると、すかさず騎士団の代表と思しき人物も、一気に動いた。
「退け!押し通る!!」
「退かん!我が命に代えても、ここを死守する!!」
ドゴォォォォン!!
剣技と剣技がぶつかり合い、衝撃波を生む。単に筋力同士のぶつかり合いではない。お互いに筋力強化の魔法を使っているらしい。そうでもなければ、衝撃波など発生しないからだ。
その様子を見たグランディエは、小さく身震いしていた。騎士や冒険者たちの剣技が、いつか自分に向けられるのではないかと想像してしまったらしい。
一方で、ワルツは、困ったように眉間に皺を寄せていた。
「うーん……。ニクを連れてきたのは、やっぱり拙かったかしら……」
ワルツにとっては、ニクが強くても弱くても、関係は無かった。彼女にとって、食物連鎖のヒエラルキーなど関係無く、ニクはただの小鳥でしかなかったのだ。
しかも、某国の某医者が気に入っている魔物で、かつてはペットにしていたこともある鳥だ。その様子を見たことがあるワルツには、ニクに対する恐怖心があるわけもなく……。軽い気持ちで餌付けをしたら、懐かれてしまって今に至る、というわけだ。
ただ、馬車に揺られて景色を見ていただけのグランディエは知らなかったらしい。彼女は、この時ようやく、騎士たちの後ろにいる小鳥たちの存在に気付いた様子だった。
「あの小鳥を巡って、争っているのですか?」
「そうみたい。って……もしかしてグランディエ、あの小鳥のことを知らなかったりする?」
「皆さん、"ニク"って仰っていましたよね……えっ……ニク?ニク……?あの……幻の鳥と言われるニクですか?!」
「幻かどうかは知らないけれど……やっぱり今まで気付いていなかったのね……」
「ニクなんて、おとぎ話の中でしか見聞きしたことのない幻の鳥ですよ?!」
「ああ……そうなの……(なんか、よく見かけるんだけど……)」
そう言いながら、ワルツはここまでの道程を思い出す。そんな彼女の頭の中では、少なくとも1日に1羽、異なる個体のニクを見かけていた記憶が浮かび上がってきていたようだ。
一方、ワルツの淡々とした様子を見ていたグランディエも、落ち着きを取り戻したようだ。
「どうされます?」
「んー、どうしようかしらね?いっそのこと、転移魔法で全部、町の外に出しちゃうのが良いかしら?」
「なるほど!確かにそれなら——」
「でもねぇ……」
「……?なにかお考えでも?」
「ちょっとね……」
ワルツは悩んでいた。騎士たちの話を聞く限り、この国の王は、"魔王"との対話を望んでいるというのだ。つまり、どうにか話に折り合いを付けることができれば、この国にグランディエの居場所を作る事が出来るのではないか……。そんな希望が、ワルツの中で浮かび上がってきていたのだ。
結果——、
「あの争い、どうにか止められないかしら?」
——ワルツは、珍しい事に、騎士と冒険者との小競り合いを止める方法を模索し始めた。普段は人見知りが激しいはずの彼女が、だ。




