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15.01-33 ふたり19

 結論から言って、ワルツが思っていたような出来事は起こらなかった。難癖を付けてくる大人もいなければ、貨幣が使えないということも無く、食事の内容も——、


「美味しかったわね……」

「あんな美味しい料理、初めてかも知れません」


——と、2人とも満足出来る内容だった。


 食事を終えた2人は、直接"城"には帰らず、町の中をフラフラと散策していた。町の中は、ワルツが建てた城がある町の中心部に向かうにつれて人だかりができ、逆に、町の外に向かうにつれて人が疎らになる、という人の分布になっていたようである。皆、ワルツたちが建てた"城"に興味があるのか、あるいは"城"を守るように屯する魔物たちに興味があるのかは不明だが、兵士たちだけでなく、町の人々も、町の中心部に集中していたようだ。逆に、町から逃げ出そうとする者は、ほとんどいなかったようである。


「この町の人たちも、案外と強かなのかもしれないわね……」


 ワルツがポツリと呟くと、グランディエが不思議そうに問いかけた。


「あの、ワルツ様?」


「ん?」


「ワルツ様はこれからどうされるのですか?」


「どう、とは?」


「あのような大きなお城を建てて、町に定住される……わけではありませんよね?」


「えぇ、そのつもりは無いわ?町から出た後、どうするのか、って?」


「はい。町から出ても、結局は、人間たちに追われる生活が続くだけです……。短い間ですが、この数日間、旅をしてみて、そう思いました」


「そうねぇ……」


 ワルツは人が疎らな町の中を歩きながら、空を見上げて考えた。空は曇天。ストレンジアに顔を見られる恐れは無い。


「例えば、町を作っちゃう、とか?」


「えっ?」


「場所さえあれば、国も作れると思うわよ?」


「そ、それは……」


「住人は人間じゃないかも知れないけれど、国民は意外と簡単に集まると思うのよ」


 ワルツはそう言うと周囲を見渡して……。そして、路地裏に姿が見えていた浮浪者のような人物に向かって話しかけた。


「ねぇ、そこの貴方?」


「へ?」


「貴方……人間じゃないわよね?」


 ワルツがそう口にした瞬間、浮浪者は血相を変えて後ずさると、慌てて逃げていった。それも蜥蜴のような尻尾を揺らしながら。失礼極まりない問いかけなので、普通であれば激昂されるはずだが、そうではないとなると、図星だったのだろう。


 その様子を見て、グランディエが眉を顰める。


「ワルツ様?今のは……」


「あの人は、多分、人の姿に化けた魔物ね。差し詰め……地竜、ってところかしら?」


「えっ……地竜?!」


「まぁ、本当に地竜かどうかまでは分からないけれどね?ドラゴンもそうだけど、魔物たちは、マナを飲むと、人に化けることがあるのよ。すべての魔物が人になれるとは限らないのだけれど、人になりたいと願う魔物たちが、マナを飲んで、あんな風に人に化けて、町の中に入り込むことがあるわ?」


「き、危険ではないのですか?!」


「いま言ったとおり、人になりたい、人として生きてみたい、と思う魔物たちだけが変化(へんげ)するみたいだから、多分、大丈夫じゃないかしら?町の中に入って人を狩りたいと思う魔物がいても、不思議と人に化けられないみたいなのよね……。少なくとも私は見たことが無いわね」


「不思議ですね……って、なぜそのような事を知っているのですか?」


「そういうのが知り合いに多いから。案外、貴女の薬屋に来ていたお客さんも、正体は魔物だったりしてね。……ま、それはさておくとして、魔物たちを手懐けて、マナを飲ませれば、一応、町のようなものを作る事は出来るわよ?住んでいるのは人間じゃないけれどね」


「……それ、私が町の長……っていうか、国王様をやるって事ですよね?」


「"魔王"って種族なのだから、ちょうど良いんじゃない?それが嫌なら、森の中でひっそりと暮らすか、町の中で目立たないよう気を使いながらビクビクとしながら暮らすか……」


 ワルツはそういって町の中を歩いて行く。グランディエも彼女の後ろを追いかけるが……。不思議と、2人の間には、会話が無くなってしまう。


 話す事が無かったわけではない。グランディエには聞きたいことがあり、そしてワルツの方も、その質問が飛んでくることを待っていた。


 町の中を1ブロックほど歩いたところで、グランディエが口を開いた。


「……もしも」


「うん?」


「もしも、私が国を作ったとき、ワルツ様は一緒にいてくれますか?」


 その問いかけに、ワルツは首を横に振る。


「……残念だけれど、一緒にはいられないわね」


「そう……ですか……」


 グランディエは見るからに消沈した。もしもワルツが一緒に建国を手伝ってくれるというのなら、王になるというのも悪くはないと考えていたようである。


 そんなグランディエに、ワルツはポツリと呟いた。


「だって、私はもう……国を持ってるから」


「……はい?」


 グランディエがワルツの言葉を聞き返した——その直後。


   ドォォォォン……


 城の方で、何か大きな音が聞こえてくる。空気を揺らす重低音だ。何かが爆発したような、そんな音だった。


???『ワルツ様がいなくなって、もう半月。ルシアちゃんたちもいなくなって……僕は……』


???「……寂しい、のですか?」


???『……この世界がいつ滅びるのかと、ビクビクしながら日々を送っています』


???「はあ……」

???「(あ、はい。その気持ち、分かります)」

???「…………」にこにこ

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