15.01-31 ふたり17
ワルツにしても、グランディエにしても、顔を表に晒すことができない。
ワルツの場合は、空が見えていると、宇宙にいる戦艦ストレンジアに見つかってしまうから。まぁ、ワルツの場合は、強制介入によってストレンジアの武器を勝手に使用したので、殆ど見つかっているようなものだが、未だ細かい位置までは特定できていないはずなので、まだ顔を隠す意味はあると言えた。
グランディエの場合は、眼が光っているから。人間たちにその目を見られると、あらぬ誤解(?)を生じることになるので、やはり顔を隠す必要があった。
というわけで、2人とも夕方なのにサングラスを掛け、フードつきのローブを頭からすっぽりと被り、顔が直接露出しないようにしてから、町へと繰り出した。あからさまに怪しい2人組だが、冒険者たちの中には更に奇抜な格好をしている者もいるので、意外に町の中に溶け込むことは可能だったりする。
問題は、2人の背格好が低かったことくらいだ。2人とも身長は120cmくらいしかないので、飲み屋の多い繁華街を歩いていれば、声を掛けられるのは必至だった。もちろん、警官や巡回の兵士といった者たちに、ではない。町のごろつきに、である。
「おいおい!子どもがこんなところを歩いてty」すやぁ
「てめえら!なにしやがっt」すやぁ
「ひ、ひぃ?!あっ」すやぁ
「もう、こんな時間から飲んだくれているとか、治安の悪い町ねぇ」
「えっと……今、何を?」
「えっ?バレた?実は、転移魔法陣を使って、強制的に眠らせたのよ」
「ちょっとなにいってるか分からないのですが……」
「そうよねぇ……。私だって、最初は、転移魔法陣がこんなにも便利なものだとは思わなかったもの。具体的には、転移魔法陣を使って、脳の眠りを司る部分をちょっと刺激して——」
などと会話をしながら、ワルツたちは繁華街を進んでいく。2人は繁華街に夕食を食べにやってきたのだ。
ワルツが建てた城の周囲には、当然ながら兵士たちが取り囲んでいたので、2人は転移魔法陣を使って、城の外へと抜け出した。町の中には、ワルツたちの逃走を防止するためか、あるいは犯罪防止のためか、転移防止結界が展開されていたようだが、転移魔法陣を使いこなせるようになったワルツにとってはザルと同義。結界は中和済みである。つまり、ワルツにとって転移防止結界は意味を成さない。
「なんか食べたいものある?」
「こういった場所に来るのは初めてなので、どういったものがあるのか分かりません」
「あら、奇遇ね?」
「えっ」
「じゃぁ、適当なお店を選んで入っちゃいましょ」
と、見た目はグイグイと引っ張っていきそうなワルツだったが、彼女は小心者。美味しそうな匂いがする店を前にして、入るべきか入らざるべきかを悩み始める。
「入っても大丈夫かしら……。見た目が小さいからって言って追い返されたり、実は美味しくなかったり、通貨が使えなかったり……」ぼそっ
「あの……ワルツ様?」
「ああ、うん。なんでもない。なんでも……。さぁ……いきましょう!」きりっ
ワルツは覚悟を決めて店の中に入った。
◇
一方その頃。
「隊長!無理です!どう考えても"城"の入り口まで辿り着くのに、魔物が邪魔です!」
グルルルルル!!
「……だろうな。はぁ……。なんでこんなところに城なんか作りやがったんだ……。そもそも、なんで魔物なんかを番犬代わりにしてやがるんだ……」
王都を守る騎士団が、ワルツの造った"城"の入り口にある郵便受け(?)に、どうにか手紙を届けようとしていた。手紙はラルバ国王からの親書。……そう、ラルバの国王は、ワルツたちとの対話を望んだのである。
しかし、その親書を届けるというのは困難を極めることだった。城の周囲を警備するように屯する魔物たちが、郵便受け(?)まで騎士たちを寄せ付けなかったのだ。まさに、"猛獣注意"である。
「くっ!やむを得ん!ポストまではたったの20mだ。円陣を組んで突撃するぞ!」
「「「「はっ!」」」」
騎士たちは魔物たちが守る20mの距離を、防御を固めて突撃することで、どうにか乗り越えることにしたようだ。戦場でも、魔物狩りでも、似たようなことはしてきたのだから、今回も行けるはず……。まさか町の中で同じ事をする事になるとは思ってもいなかったようだが、騎士たちには成功させる確信はあったようだ。
……その魔物が現れるまでは。
ピヨッ?
1羽の小鳥が現れる。見る確度によって色が変化する青い翼を持った小鳥だ。
ピヨヨッ?
2羽目の小鳥が現れる。血のように赤い翼を持った小鳥だ。
ピヨヨヨッ?
3話目の小鳥が現れる。キラキラと輝く黄金色の翼を持った小鳥だ。
そんな小鳥が3羽揃って、郵便受け(?)の前に舞い降りる。地球なら、なんということはない光景だ。スズメたちがポスト前で戯れているような光景と言えば伝わるだろうか。
しかし、この世界においては違う。
「「「キシャァァァッ!!」」」
「ヤ、ヤマニク……?!」
「モ、モリニクもいる?!」
「黄色いのは……まさかウミニクか?!」
そう、彼らはニク科の鳥類。この世界の食物連鎖の頂点に君臨する最強の魔物たちだ。そんなニクが3羽も現れたのだから、騎士団は大慌て。円陣を組んで郵便受けに突撃するというプランは、早速破綻することになった。
???「コルテックスと連絡が取れません」
???「どこかに出かけているのでは?」
???「いえ、あの者に限って、それはあり得ないでしょう。彼女には、どこでm……"どこにでもドア"があるのですから」
???「やはりミッドエデンで何かあったと?」
???「そう考えるのが妥当ですが……今はワルツ様の上空から離れることは出来ません。ミッドエデンにいるのはコルテックスだけではないのですから、放置しておいても問題はないでしょう」




