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15.01-28 ふたり14

 町の人々は困惑した。城にいる王家の人々や、貴族、騎士、兵士たちも皆、困惑した。魔物を引き連れた少女たちが、どうして城の横に"城"を建てたのか、どうやって建てたのか、何一つ理解できなかったのだ。


 ゆえに、国の上層部——ラルバ王国の国王たちは、対応を協議する。


「そもそも、あの者たちは何なのだ?」


 元々あった城の中。その3階中央に、国を統治する者たちが会していた。城の隣に"城"ができたので、慌てて会議を招集したのだ。城の中で一番安全な場所だったことも、重鎮たちが集まった理由の一つと言えるかも知れない。


 最初に声を上げたのは、町を管理する所謂市長の立場にあった貴族だ。彼が知っているのは、町とその周辺のことだけ。いきなり現れたワルツたちの事は、少女の形をした"何か"である事以外、知らなかった。魔物が一緒に行動している事から、人間ではないのだろう……。その程度の認識である。


 彼が疑問を投げかけた先は、一人の男性だった。彼に視線を向けたのは、市長だけではない。その場にいた全員の視線が、ある人物へと集中する。


「……私が知っている限りの情報を報告いたします」


 皆の視線を集めた男が口を開く。彼は、国中の騎士団をまとめる立場にある統括騎士団長だ。この国の騎士団は、王都を守る近衛騎士団と、国全体を守る一般騎士団、そして他国との国境を守る国境騎士団を3つに別れていて、統括騎士団長が各騎士団や兵団などからの情報を受け取り纏める立場にあったのである。文字通り軍部のトップだ。


「結論から申し上げて、彼女たちのいずれかが、魔王と思われます」


 その瞬間、部屋の中が騒然となる。……が、再び静かになるまでに時間は掛からない。ワルツたちが魔物を引き連れて移動していることは皆が目撃していたので、魔を統べる存在であることは、誰の目にも明らかだったからだ。


 それでも、会議室の中がザワついたのは、"魔王"という単語が、おとぎ話の中にしか出てこないような言葉だったからだ。現代世界でいえば、UFOやUMAと同じような扱いである。本来であれば、軍議の場で出てこないはずの単語だ。


 しかし、この場において、"魔王"という単語は、冗談にはならなかった。実際、城の目の前には、魔物たちが徘徊する魔王城(?)と思しき建物が(そび)え立っているのである。"魔王"という単語を笑い飛ばせる状況に無かった。


「魔王など……駆除できるのか?」


「…………全身全霊をかけまして、駆除する所存です」


 そう答える統括騎士団長だったものの、ワルツたちに勝てる勝算はゼロ。彼は、たった2人の少女たちが、兵士と冒険者4000人の混成部隊を退けたという報告を受けていたのである。……王都にいる近衛騎士団を全員かき集めて戦えばどうにかなるだろうか……。そう考える統括騎士団長だったが、勝てるイメージは組み立てられなかった。


 そんな彼の厳しそうな表情は、言葉よりもハッキリと彼の心情を物語っていたらしく、その場にいたほぼ全員が悟った。……勝てるかどうか分からないのだな、と。


 一部には、既に見切りを付けて、王都から逃げ出そうと考える者までいたようだ。それほどまでに、統括騎士団長の表情は暗く、自信の無いものだったのだ。


 そんな中、統括騎士団長よりも顔を青ざめさせていた者がいる。基本的に皆、険しい表情だったが、"彼"は険しいを通り越して、苦しそうな表情を浮かべていたのだ。


 その人物に気付いて、玉座に座っていた人物が問いかける。


「ギルドマスターよ。どうしたのだ?先ほどから具合が悪そうだが……」


 おそらく未曾有の危機に怖じ気づいたのだろう……。国王と同様に、冒険者ギルドのギルドマスターの具合が悪そうなことに気付いていた者たちは、皆、同じ事を考えた。何しろ、先遣隊の冒険者たちは、魔王たちに手も足も出なかったというのである。この場における彼の立場は極めて弱く、冒険者の存在意義を疑問視されたとしても仕方がない状況だった。それだけでも、彼の胃は痛んでいたに違いない。


 ただ、国王や統括騎士団長など、ギルドマスターが無能ではなく、極めて優秀な人物であることを知っている者たちは、怪訝そうにギルドマスターを見つめていたようだ。彼はたたき上げのギルドマスター。たとえ窮地に陥ろうとも、冷静沈着に対応が出来るはずの人物だと、国王たちは知っていたのだ。


 そんな彼が、なぜ青い顔をしているのか……。国王たちがギルドマスターの返答を待っていると、ギルドマスターは震える唇を開いて、事情を話し始めた。


「あの者は……魔王などではありません」


「魔王ではない?其方、何を知っておる?」


「あの者の内の1人は……冒険者でございます……」


 その瞬間、会議室の中で、再びざわめきが起こる。彼が口にした情報は、誰も知らない情報だったからだ。


「いったいどういうことだ?」

「冒険者が王都を襲撃したのか?」

「説明せよ!ギルドマスター!」


 有象無象の声が会議室の中を飛び交うが、国王が手を上げると、ピタリと静かになる。国王の発言は絶対優先だからだ。


「……して、その者は何者なのだ?」


 国王の問いかけに対し、ギルドマスターは、青を通り越して土気色の顔色になりながら、こう答えた。


「…………管理者」


「ん?管理者、だと?」


「ランクXの管理者……。つまり……全世界の冒険者に対し、絶対的な命令を出すことの出来る、最高の権力と、最強の力をもった冒険者ということです……。我々はXランクの冒険者のことをこう呼んでおります。……勇者、と」


 その瞬間、会議室の中がシーンと静まりかえる。どうやら皆、ギルドマスターが何を言っているのか、すぐには理解出来なかったようだ。


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