15.01-27 ふたり13
ワルツたちがマグマの上に差し掛かる。
「うわぁ……綺麗……」
グランディエは、足下に広がる地獄のような光景に眼を輝かせた。実に"魔王"らしい発言——というわけではない。
「本当に水晶のような透明な蓋がされているのですね……」
「そ。あの下の方に見えているのは、私たちがいるこの星の中心部……のごく表面辺りよ?」
「星……なるほど。この世界も月のように丸く、地面の奥深くでは灼熱の海が広がっていると……」
といったように、町の周囲の地面が水晶に置き換わっていて、地下奥深くに広がるマントルの姿まで視認することができたのである。高所恐怖症を患っている者にとっては、垂涎もの(?)の光景だ。一方、グランディエには怖がっている様子はないので、彼女は高所恐怖症ではないらしい。
彼女たちの後ろから付いてきていた魔物たちも、高所恐怖症ではなかったらしく、皆、水晶の上を越えられない、といったことは無かったようだ。一部には、水晶の上で、なぜか羽ばたいていたり、なぜか死んだ魚のような眼をしている魔物もいたようだが、足を止めるような魔物はいない。……ワルツたちに取り残されると、周囲にの人間に狩られるかもしれないので必死だった、というわけではないはずだ。たぶん。
「さすがは魔神様です」
「……はぁ。もう何も言わないわ……」げっそり
魔神ではないといっても、なぜか誰も信じてくれず、話も聞いてくれない……。内心でそんな憤りを感じながら、ワルツは馬車を進めた。
そして、水晶の上を越えて、町へと辿り着く。町には巨大な門があって、ワルツたちの侵入を拒んでいた。
「さて、せっかくだから、町の観光でもして行きましょうか?」
「えっ?」
グランディエから疑問の声が上がる。観光とはなんなのか、魔物がいるのに町に入れるのか、ワルツは一体何を言っているのか……。グランディエは混乱していた。
そんな彼女の疑問と混乱は、ワルツの行動によって、物理的に払拭されることになる。
ゴゴゴゴゴ……
町の門の前まであと少し、といったところまで馬車が進むと、なぜか門が開き始めたのだ。町の者たちが門を開けている様子はない。彼らは唖然として固まるだけ。そう、ワルツが重力制御システムを使い、力技で門を開けたのだ。
「さぁ、町に入るわよ!」
「えっ……どうして……」
「その質問は……どうして門が開いたのか、って質問?それとも、町に立ち寄る理由を聞いてる?」
「りょ、両方です!」
「両方ねぇ……」
ワルツは答えを考え込むような様子で、窓の外に眼を向けた。その内に、町の中の光景が明らかになっていき——、
「うわぁ……」
——その光景にグランディエは目を奪われる。
ワルツからすれば大した光景ではない。どこにでもあるような少し大きめの町だった。強いて言うなら木造建築が多いことが特徴だろうか。
この世界にある町のうち、ワルツが知っている最大の都市は、彼女たち自身が拡張したミッドエデンの王都。それから比べれば、いま彼女たちがいる町は、村のような大きさでしかなかった。
しかし、グランディエにとっては違うのだ。そうでなければ、彼女が眼を輝かせることなどありえないからだ。
ゆえに、ワルツは言う。
「門を開けた原理は話せないけれど、町に立ち寄った理由は……グランディエに、町を見て欲しかったからよ?貴女、多分、ずっと家に引き籠もっていて、町とかに来たことなんて、殆ど無いのでしょ?」
「……はい。今までずっと人里離れた場所で生きてきたので、こうした人の多い町には、初めて来ました。一生は入れないものだと思っていたくらいです」
「やっぱりね。だから連れてきたのよ。町ってどんなところなのか、見て回るためにね?」
「は、はぁ……あ、ありがとうございます(でも……人の視線が……)」
町の中を移動するワルツたちの馬車は、町の人々の視線を集めていた。魔物にひかれる黒塗りの馬車だ。しかも、その後ろからは大量の魔物たちが行儀良く付いてきているのである。目立たないわけがなかった。
そんな状態で町の観光など出来るのか……。グランディエが疑問に思っているうちに、馬車は開けた場所へと辿り着く。
「取りあえず、今日の宿を確保しましょうか」
ワルツがそういって馬車を降りたその場所は——、
「お、お城……」
——町の中心に立っていた大きな城だった。当然である。ワルツたちは、町の中の大通りを真っ直ぐに進んできたのだから。
しかし、事はそれで終わりではない。まさか、他人の城に勝手に泊まるわけにもいかないからだ。
結果、グランディエは、再び度肝を抜かれることになる。
「ちょうど良いスペースがあるから、ここを今日のキャンプ地としましょうか」
そんなワルツの声と共に空中に魔法陣が現れ——、
ズドォォォォン!!
——という轟音と共に城の中庭に巨大な物体が現れる。それは——、
「お……お城ぉ?!」
「貴女……さっきから、"お城"としかいわないわね……」
——ワルツが野営に使っていた巨大な城そのもの。
ようするに、ワルツは、町の中に新たな城を建ててしまったのだ。
???「遠いなぁ……」
???「のう、ア嬢?誰にもいわずに飛び出してきて、良かったのかの?」
???「良いんじゃないかなぁ?だって、コルちゃんたちだったら、私たちの居場所なんてすぐに分かるはずだし」
???「……まぁの」
???「(イブの事を巻き込まないで欲しかったかもだし……)」




