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15.01-26 ふたり12

 外周をくり抜かれた町が、轟音と共にマグマの中へと沈んでいく……。その光景を見ていた冒険者たちや兵士たちが、ワルツたちの事をどう見たのかは分からない。ただ彼らは間違いなく、こう思ったに違いない。……自分たちの手に負える相手ではない、と。


 このまま放置しておけば、数万、数十万の人々が、マグマの中に消え去るのは確実だった。ゆえに、グランディエは、ワルツの背中に向かって、声を上げようとする。……やり過ぎだ、と。


 だが、その声がグランディエの口から発せられる前に、ワルツが口を開く。


「デプレクサったら、ストレンジアにどんな改造を施しているのよ……。おかげで、面倒な作業が増えちゃったじゃない」


 ワルツの呟きを理解出来なかったグランディエが眉を顰めていると、ワルツはポケットの中から青色のクリスタルを取り出した。


 青く透き通ったクリスタルだ。魔石ではない。魔道具でもない。まるで、大きな宝石のようなその物体を見たグランディエは眼を丸くした。彼女は気付いたのだ。


「(なんですか?あれ……。魔力の……固まり……?私、知らないですよ……そんな物質……)」


 ワルツが持っていたそのクリスタルのようなものは、魔力を視覚できるグランディエにとって、異常と言える物質だった。まるで魔力そのものが固形化したような物質。人には作ることできない、まるで神が作り出した宝石(アーティファクト)のよう……。グランディエは率直にそう思った。


 アーティファクトを見たグランディエは、恐怖を抱いた。アーティファクトは"超"が付くほど高圧縮状態の魔力なのである。それはまさに爆弾と同じ。ちょっとした衝撃で弾けてしまうのは想像に難くなかったのだ。


 だが、ワルツは、然して気にしていないようだった。その魔力の結晶のようなものと銀色のインクを宙に浮かべて、彼女は淡々と魔法陣を構築していく。


 空に巨大な銀色の線が走る。銀色のインクは、まるで生きているかのように自ら動き回って大きな円を描くと、今度はその中心に向かって、複雑な模様を形成していく。


 一通り魔法陣のようなものが完成すると、今度は上下に厚くなっていく。遠くから見れば分厚くなっているだけのように見えるが、実際には、何層にも積層した魔法陣が組み上がっているらしく、模様が重なり、次第に光柱のような見た目に変わっていった。


 不思議だったのは、ワルツが小瓶から取り出したインクの量と、宙に浮かぶインクの量が一致しないことだ。質量保存の法則を完全に無視していると言えた。


 それもそのはず、ワルツは転移魔法陣を使って、新しくインクを生成しているからだ。最初の小瓶は、ある種の呼び水。巨大な魔法陣を作るインクを生成するための、最低量のインクでしかなかったのだ。


 そんなインクのマジック(?)が空に広がって数秒後。


「……自分ルールを破るのは心苦しいけれど、緊急事態だから仕方ないわよねー」


 ワルツはそんなことを口にしながら、構築した魔法陣を起動した。


 直後、マグマの中に沈みつつあった町全体が光り輝く。転移魔法陣の影響を受け始めたらしい。


 とはいえ、町がどこかに転移するわけではない。その場から動くこと無く、ただ光に包まれているだけ。他に異変があったとすれば、多少傾いていた町が、水平に戻ったくらいだろうか。


 さらに数秒後。今度は町を取り囲んでいたマグマが、より一層、輝きを増す。そして、直視できないほど眩く輝いて……。光が収まったとき、巨大な魔法陣の柱も消え去っていた。


「はい、終わり」


 ワルツの言葉を聞いて、グランディエは眼を開ける。余りの眩しさに、彼女は今まで眼を閉じていたのだ。


 グランディエが眼を開けたとき、景色はガラリと変わっていた。傾いていたはずの町は元の位置に戻っていて……。そして、町を取り囲むようにして湧き出していたはずのマグマに、透明な蓋のようなものがされていたのだ。


 遠目から見れば、マグマはまるで静かな湖のように真っ平らになって輝いていた。ただし、マグマそのものが真っ平らになっていたわけであはない。


「あれ……なんですか?赤く光っている液体のようなものが……何かに閉じ込められている……?」


「あぁ、あれは石英の蓋よ?放っておいたら町がマグマに沈むし、人が出入りできなくなるからね。あ、石英っていうのは、水晶のことね?1km位の厚みの水晶で、マグマに蓋をした、ってわけ」


 【女神の涙】によって切り抜かれた大地の隙間に、ワルツは石英の塊を詰め込んだらしい。転移魔法陣によって、マグマから二酸化ケイ素を抽出し、それが一塊(ひとかたまり)の結晶になるよう緻密に位置を調整しながら転移を繰り返したのだ。結晶の構造が理解出来ている上で、原子レベルの位置調整ができて、初めて実現出来る芸当である。もはや、人間業ではない。


「デモンストレーションとしては、こんなものでしょ」


「…………」ぽかーん


「驚くのはまだ早いと思うわよ?さぁ、行きましょ?あの水晶の上までいったら、もっとすごいものが見られると思うわよ?」


 ワルツは馬車を進ませた。馬車を引っ張る魔物も唖然としていたようだが、ワルツが重力制御システムを使って少し突くと、すぐに我を取り戻したらしく、馬車を引っ張り始める、


 そして、ワルツたちは、自分たちを取り囲もうとしていた人々の真ん中を、何事も無かったかのように突っ切った。人々はまったく動かない。上級の冒険者も、あるいは経験豊富な老兵も、ワルツたちの馬車を素通しだ。……いやむしろ、気付いていないというべきか。


 皆、それほどまでに、町の大変動に眼を奪われていたのだ。


???「……!」


???「ん?どうかしたのかの?ア嬢?」


???「今、あっちの方で、私と同じ魔力を感じた……」


???「ワルツかの?」


???「分かんない。多分、アーティファクトが使われたんだと思う」


???「アーティファクトを使うなど、ワルツしかおらぬじゃろ……」


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