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15.01-24 ふたり10

 朝が明けるまで、結局、グランディエが城の全景を知ることはなかった。これまでの人生で長いあいだ自宅に籠もっていた彼女にとって、ワルツが作った食堂は、十分過ぎるほど広く、野営するどころか、居住しても良いと思えるほどで……。一歩たりとも、食堂の外に出ようとは思わなかったのだ。野営に必要なすべてのものが、食堂に揃っていたことも理由の一つだが、表に出ると、もっと恐ろしい何かを見ることになるような気がして、部屋の外に足が向かったようだ。ある意味、正しい判断と言えるだろう。


   ドンッ!


 朝になって、ワルツの城があった高台に、大きな音が響き渡る。転移魔法特有の重低音を更に大きくしたような、爆発音にも近い大きな音だ。


 その瞬間、ワルツの城は無くなっていた。素材の殆どが元の場所——地中深くの岩盤に戻され、原材料に戻せないような加工品については、微生物が分解できるような物質にリサイクルされて、土へと戻ったのだ。これもすべて、転移魔法陣だけで行われている。


「万能すぎよね、転移魔法」


 ワルツが満足げにそう呟くと——、


「……あの、ワルツ様?」


——周囲の景色を見渡していたグランディエが、戸惑った様子でワルツに問いかけた。


「お城が無くなった理由は、なんとなく分かりますが、人間たちまでいなくなった理由は……」


 そう。自分たちを取り囲んでいたはずの人間たちもまた、城と一緒に消え去っていたのである。


 食堂から出なかったグランディエは、城の外の景色を知ることが出来なかった。当然の事だが、深窓の令嬢という意味ではない。食堂には窓が無かったので、外を見られなかったのだ。


 そして今、彼女たちの周囲に広がっているのは、ワルツが城を作る直の状態の景色。ワルツたちがいて、魔物たちがいて、そして馬車があるという状態だ。ただし、そこには、彼女たちを取り囲んでいたはずの人間の姿はない。いつ消えたのか。どうして消えたのか……。


「あぁ、取り囲まれていると移動出来ないから、全員、グランディエの家が建っていた場所の近くの町に転移させたわ?」


「…………」


 グランディエは黙り込む。とはいえ、コレまでのように唖然としていたり、呆然としていたわけではない。


「もしかして、ワルツ様は……楽しんでおられるのでしょうか?」


 グランディエからすると、ワルツの行動には無駄が多いように見えていたらしい。野営をするのに、わざわざ大きな食堂(城)を建てる必要はなく、そもそも人々を遠ざけたいのであれば、今回のように転移魔法陣を使って、どこか遠くへと移動させてしまえば良いのだ。あまりに効率が悪いゆえに、グランディエはそんな考えに辿り着いたらしい。


 結果、彼女はこう思った。……こんなにも無駄が多いということは、敢えてやっている——つまり、遊んでいるのではないか、と。


「……さてね?」


 ワルツからの返答は、相づちだけで、肯定も否定もない。明確な否定が無いということは、つまり肯定なのだろう。


「……そうですか」


 グランディエは深く考えることをやめた。ワルツの一挙手一投足を一々気にしていたら、キリが無いことに気付いたらしい。ゆえに、グランディエは、ワルツの行動について、()()()()()()()と考える事にしたようだ。


 それが、グランディエの答え。夜中、ほぼ寝ること無くずっと考え続けて辿り着いた彼女の境地だ。


「では、いきますか」


「随分とさっぱりした反応ね?」


「それ、聞いてしまいます?」


「……まぁ、良いわ(何かあったのかしら?同じ部屋の中にいたはずなのだけれど……)」


 グランディエが、前日とは打って変わって、大きなリアクションを取らなくなっている様子を見たワルツは、すこし残念そうに馬車へと向かう。どうやら、ワルツとしては、もう少し、グランディエには驚いていた欲しかったらしい。ある種の我が儘のようなものかも知れない。


  ◇


 そして、山越え、谷越え、森を越え。ワルツたちの馬車は広い大地を真っ直ぐに移動していく。宛先はなく、ただ真っ直ぐに移動しているだけだ。


 馬車を牽引する魔物は、グリフォンだけでなく、頻繁に別の魔物に変わっていた。大きな蜥蜴のような魔物や、一角のバイソンのような魔物、名状しがたい奇妙な形状をした魔物などなど……。グリフォン1体で引っ張るには、大変な道程だったこともあり、複数の魔物を交代交代で繋ぎ替えながら、馬車を走らせていく。


 そんな旅は順調のように思えたが、ひとつ大きな問題が生じていた。


「なんで、また人間たちが集まってきているのかしら?」


「さあ?」


 魔物たちが集まってくるのは、ワルツが暇つぶしに餌付けをしているからである。しかし、人間たちが集まってくる理由を、ワルツは理解出来なかった。当然、人間相手には、食料の提供を行っていない。しかし、気付くとたくさんの人々が集まってくるのだ。


「前と同じ人たちってわけではなさそうね……」


「冒険者様の姿もチラホラ見受けられますが、軍人様のような鎧を着込んだ方々もそれなりに見受けられますね……」


「なんで付いてくるのかしら?っていうか、どこから湧いて出てくるのかしら?」


「さぁ?」


 何人付いてきたとしても、転移魔法陣を使って、またどこか遠くに跳ばしてしまえば良い……。ワルツとグランディエがそんなことを考えながら、旅を続けること2日後。


「「…………」」


 2人は、なぜ人が多く付いてきたのか、理由を知ることになった。


 いま彼女たちが見ている光景。そこには、巨大な都と思しき町の姿が広がっていたのだ。人がいない場所を目指して旅をしていたはずなのにも関わらず、だ。

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