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6後-10 情報収集1

すっかり、ユキFに協力者について説明させることを忘れておったのじゃ。

というわけで、今日の話はそこからなのじゃ。

「・・・!そ、そうでした!」


部屋を出ていこうとするワルツたちを呼び止めるユキF。


「私の・・・協力者にちゅいて、まだお話していませんでしたね。身体が小さくなってしまったせいで、頭がちゃんと回っていなかったようでしゅ」


そんな苦い表情を浮かべるユキFに、ワルツは苦笑を浮かべながら言った。


「あれでしょ?河渡しのカペラとかいう人」


するとユキFは、首を振りながら口を開く。


「いえ、違いましゅよ?誰でしゅか?カペラって・・・」


どうやらカペラの名前を知っているのは、旅の際に世話になったユキAだけのようである。


「えっ・・・じゃぁ、ロ・・・ロリコンって名前の犯罪臭のする人?」


「いえ。その方も、聞いたことの無い名前でしゅね」


そう言うとユキFは、テラスに繋がる窓の方へと歩いて行って、ビクセンの町並みに眼を向けながら、ゆっくりと語り始めた。


「・・・この国には・・・いえ、(しゅべ)ての国に共通して言える事だと思いましゅが、政府に対して良い感情を抱いていない者たちが(ちゅど)組織(しょしき)がありましゅ。(しょ)して彼らの矛先(ほこしゃき)は、(しゅべ)てが同じというわけではなく、私たち皇帝に向けられるもの、官僚たちに向けられるもの、あるいは統治システムそのものに向けられるものなど、思想の違いによって様々に分かれていましゅ。その中には、皇帝至上主義とも言える組織もあって・・・私は、(しょ)こにいた古くからの知り合いに、スカー(シュカー)ビクセン、(しょ)してデフテリービクセンの暴走(ぼうしょう)させるようにと依頼しました」


「・・・そう」


ユキの言葉に、目を瞑りながら考えるワルツ。

そしてワルツは、ユキFが語らなかったもう一つの迷宮について、疑問を口にした。


「じゃぁ、プロティーの件は?ユキA・・・アインスのことを助けた場所って、プロティーの迷宮核よね?テレパシーだか、魔法だか何だか知らないけど、ユキAがプロティーの迷宮核に居るって言って私たちを連れてってくれたんだし、間違いないわよね?」


「・・・」


そんなワルツの言葉に、眼と口を閉ざすユキF。

それから彼女は、眼を伏せながら悲しげに口を開いた。


「・・・元々、プロティービクセンを暴走(ぼうしょう)させて欲しいという依頼はしていませんでした。プロティービクセンまで暴走(ぼうしょう)させてしまうと、表に露出しているとはいえ、このビクセンの町を飲み込んで滅ぼしてしまうのは明白でしゅから」


「つまり、ユキFの依頼の範疇を超えて、余計なことをしたってこと?」


「はい、(おしょ)らくは・・・。・・・分を弁えないお願いで申し訳ありませんが、一度そちらの方へ、直接お話を伺いに行っては頂けないでしょうか?」


(・・・?兵士たちを使って強制連行すれば・・・あ、無理か・・・)


唯でさえ人手が足りない現状で、兵士を動かすことは大変なのである。

その上、相手は反政府組織。

唯でさえ、政府に対して反感を持っている者達である。

しかも、ユキFの依頼で行動したのだ。

それも、古くからの付き合いとなると・・・直接、手出しが出来ないのだろう。

あるいは、不安定な今の時期に、変な煙を上げたくないという心理がユキFはあるのかもしれない。

結果として、他の組織の炎に対しても、油を注いでしまうようなことになりかねないのだから・・・。


「ふーん・・・じゃぁ、ユリアたちのところに行った後で、出向いてみるから、彼らの居場所がどこなのか教えてちょうだい?」


「・・・では、こちらもワルツ様が、お付の方々の所に行っている間に、アインス(ユキA)から事情を聞いておきますので、戻ってきましたら地図の代わりに、アインスをお貸しいたします」


「えっ・・・もしかしてボクってモノ扱いですか?」


・・・なお、そんなユキAの抗議は誰にも聞き入れられることは無かった・・・。




さて。

玉座の間を出たワルツたちは、玄関ホールに再設置された転移魔法陣へと向かっていた。

その際、階段を降りていた所で、カタリナがワルツに向かってジト目を向けながら口を開く。


「・・・ワルツさん、詳しい説明をお願いします」


「・・・うん・・・ちゃんと説明してなかった私が悪かったわ・・・」


それからワルツは、カタリナに無線機を耳に付けるように促すと、口には出さずに無線通信システムから直接、彼女の無線機に音声を飛ばして説明を行った。

不特定多数の者たちが行き交う王城の中を歩きながら、ユキたちの正体に関する極秘情報についてのやり取りをするためには、この方法が最適だと思ったようだ。


・・・そして、ユキたちや迷宮、その他、ワルツ達が前回滞在していた3日間であったことについての一通り説明が終わると、カタリナは難しい表情を浮かべながら口を開いた。


「・・・街をこんなにしたのはワルツさんじゃなかったんですね・・・」


「そっちの話?!違うわよ!」


・・・どうやら、カタリナは、ワルツが街を破壊したものだと思っていたようである・・・。




ブンッ・・・


(ミッドエデン風)王城の正面入口に設置されていたデフテリービクセン行き巨大転移魔法陣がいつの間にか撤去されて、代わりに設置されていた複数の小さな魔法陣。

その中で、封鎖されている第5王城行きの魔法陣の前で警備していた兵士たちを、()()()()()に重力制御で黙らせてから、普段と変わらぬ何気ない様子で乗り込むワルツ、ルシア、そしてカタリナの3人。

・・・なお、彼女たちがビクセンの王城内を自由に行き来できていたのは、ユキAに通行の許可を貰っていたから・・・というわけではないことを記しておく・・・。


さて。

光りに包まれた彼女たちが、次の瞬間に目撃したのは・・・


ブワッ・・・


「・・・砂漠ね・・・」


「砂漠ですね・・・」


「・・・砂ばっかり・・・」


灼熱の空気に包まれた、まるで砂漠の中にあるオアシスのような場所だった。

空では2つの太陽が遠慮なく輝いているところを見ると、どうやらここは、デフテリービクセンの街とは違って、表の世界とほぼ同じ時間帯で一日が進んでいるらしい。


「ユキたち、こんなところに来たら、即死するんじゃないの?」


「でもユキちゃん、ここにある美味しい料理を食べに、たまに来るって言ってたよ?」


「・・・」


口には出さなかったが、ユキが温度属性(?)のマゾヒストだとしか思えなかったワルツ。

彼女が黙ってそんなことを考えていると、


「それにしても、この3人で行動するなんて、久し振りですね」


太陽に照らしだされて妙に肌の白さが際立ったカタリナがそんなことを口にした。

どうやら、長い間、部屋の中に引きこもっていたために、肌の色素が薄れてしまったらしい。


「そういえば、そうだね!」


と言いながら(はしゃ)ぎ回るルシアの方は、健康体そのものといった様子だ。


「ねぇ、カタリナ?少しは太陽の下に出ないと、病気になっちゃうわよ?」


そう言いながらカタリナの白い手に視線を向けるワルツ。


「・・・そうですね。もう少しで、リアの治療法が確立できるので、それが終わったら、好きなだけ肌を焦がそうと思います」


「・・・あまり真っ黒になるものどうかと思うけどね・・・」


ワルツは、カタリナが赤ギツネではなく、顔黒(ガングロ)の銀ギツネの獣人になってしまう様子を想像した・・・。


そんなやり取りをしながら彼女たちが遠くに見える王城に向かって道を歩いていると、


「・・・ワルツさん?あれ何でしょう?」


カタリナが、王城の前に2列に並んだ大量の杭のようなものに気づく。


「・・・・・・?!」


その光景を望遠レンズで拡大したワルツは驚愕して・・・それから、頭を抱えた。


「あの娘たち、何やってんのよ・・・」


「・・・あの・・・一体何が?」


「行けば分かるわ・・・あまり、分かりたくないけど・・・」


・・・そしてワルツは、王城への道のりを、重々しい足取りで進んでいく事になったのである・・・。




ゴォォォォォ!!


2重の円形のような形で配置されるようにして地面に建てられた杭の中心では、何か巨大な(やぐら)のようなものが轟音を上げながら燃えていた。

所謂、キャンプファイアのようなものである。


そして杭の一本一本には・・・


「うあぁぁぁぁ・・・助けてくれぇ!!」

「どうして・・・どうしてこんなことに・・・」

「何も悪いことなんてしてないのよ・・・」


・・・王城の職員らしき、兵士たちと官僚たちが、杭一本に一人づつ縛り付けられていた。

雰囲気としては、焚き火の周りに串ごと立てた川魚の図・・・その大規模版、といったところだろうか。

付近に水たまりはあるのに、木が1本も生えていないところを見ると、わざわざ伐採して杭を作ったようである。


一方、燃える櫓の側では・・・


「ワルツ様の命の元、あなた方にはこれから死よりも辛い拷問を体験してもらいます!そう、私が受けたものよりも、ね・・・ふっふっふっ・・・」


そう言って、腹部を押さえながら、暗い笑みを浮かべるシルビアの姿があった。

どうやら、以前、ワルツに受けた拷問(?)の記憶が、トラウマか何かの形で残っているらしい。

そんな彼女の翼が、真っ白になっているところを見ると、天使の力を使って、兵士を含む職員たちを杭に無理やり拘束したようである。


ところでそこには、一緒に行動しているはずのユリアの姿が無かった。

ではどこに彼女がいるのか、というと・・・


「もがぁぁーー?!」


・・・他の杭よりも櫓に近い位置に、一本だけ建てられた十字架に縛り付けられていたのである。

それも、丁寧に、目隠しと猿轡(さるぐつわ)を付けられて。

まさに、あとは処刑するだけ、といった様子だ。


そんな、声にならない叫び声を上げるユリアに、シルビアは近づくと、眼を細めて、口が裂けんばかりに笑みを浮かべて言った。


()ズハ、オ前カラダ!裏切リ者ニハ、死ヲ!!」


そう言った途端、彼女の翼が赤黒い色に変化していったのは・・・本当の意味で、堕天しているから、なのだろう・・・。

どうやらユリアは、ワルツに吸血(採血)されたことをシルビアに漏らしてしまったようである。


(自業自得ね・・・)


杭ごとユリアを片手で掴んで、今にも火に()べようとしていたシルビアを前に、生暖かい視線を向けるワルツ。

ともあれ、サキュバスの丸焼きを見ても何も楽しくも嬉しくもなかったので、ワルツは重力制御で作ったハリセンで、シルビア比較的強く叩きつけて、地面に沈めるのであった・・・。




「うぅ・・・し、死ぬかと思いました・・・」


「貴女、いつか、背中からサクッと刺されるわよ?」


「は、はひぃ・・・き、気を付けます・・・」


燃やされる間一髪のところで助けられたユリアは、ワルツに縋り付きながら泣きべそを掻いた。

一方、


「〜〜〜〜!!」


赤黒い翼のシルビアはハリセン(?)で叩かれた際に、地面が砂で出来ていて柔らかかったためか、頭から埋まっていて、今では身体の半分しか見えていなかった。

そのまま放置しておこうかとも考えたワルツだったが・・・彼女が窒息すると、後々カタリナに小言を言われるので、ワルツは重力制御で引き抜くことにする。


ズボッ・・・


「ぶはっ?!ゲホッゲホッ・・・す、砂が鼻に・・・・・・あ、ワルツ様!」


「・・・何やってんの?」


「それはもちろん、ワルツアライアンス(同盟)(?)の掟に反した者に対する粛清です。例え、先輩だとしても、法を守らぬものにはs・・・」


「いや、そっちじゃなくて、職員たちの方」


「え?もちろん、拷問ですけど・・・」


「何で・・・」


当然ではないですか、と言わんばかりのシルビアに、頭を抱えて溜息をつくワルツ。

拷問というよりは、どちらかというと、悪魔か何かの召喚の儀式に見えなくもないのだが・・・シルビアとしては拷問をしていた、あるいは、これからするつもりだったようである。


「職員たちに『子どもの居場所を吐け』と聞いても、分からないとか、居ないとか、逃げ出したとか言うばかりで、口を割らないのですよ。さっさと吐けば楽になるものを・・・」


「・・・結局、情報を吐いたら死ぬのね・・・っていうか、イブはもういないから、子どもの居場所を聞いても仕方ないんだけど・・・」


『えっ・・・』


ワルツの言葉に、固まるシルビアとユリア。


「・・・子どもたちに関する情報を吐かせろとは言ったけど、居場所を吐かせろとは言ってないじゃない・・・」


「・・・あれ、そうでしたっけ?」


(とぼ)けた表情を見せるシルビア。

それと同時に、翼の色が、元の真っ黒な色へと戻っていった。

・・・すると今度は・・・


「・・・後輩ちゃん?」


・・・ユリアが暗い笑みを浮かべたままで、シルビアに告げた。


「・・・ワルツアライアンスの決まりには、ワルツ様の命に背いた者には死を、っていうのもあったよね?」


「・・・あ」


・・・そして、2人の不毛な処刑合戦(?)は大きな変曲点を迎えたのである・・・。


まぁ、そんなどうでもいい話は、端の方に置いておいて・・・。

どうやら、ワルツの欲しかった情報は、ここでも手に入っていないらしい。


「・・・仕方ないわね」


そう言いながらワルツは、広場の中心にあって邪魔だった燃える櫓に手を向けると、ギュッと握りつぶしたような仕草を見せる。

その途端、


グシャッ!!


っと音を立てて、櫓は炎ごと拳大の真っ黒な玉に代わり、さらには黒い煙のようなものに変わって、空へと登っていった。


それから彼女は、全ての杭を、人を載せたまま宙に浮かべると、自分の見やすい位置まで持ってきて、笑みを浮かべながら大きな声で言った。


「はーい、みなさ~ん?ちゅーもくー!このお城で捕まってた子どもたちについて知っていることを洗いざらい話してくださいねー?じゃないとー・・・」


そう言って再び腕を上げるワルツ。


「こうなっちゃいますからー?」


その瞬間、


メキメキメキ!!

「ギャァァァァ!!」

ブシャァッ・・・


・・・そんな音と声が、職員達の後ろから聞こえてくる。

杭が邪魔で誰も振り向けなかったが、その音と声に、何が起こっているかを察して、職員たちは一斉に恐怖の色を浮かべた。


・・・ちなみに、その音は、機動装甲のパラメトリックスピーカーで放った指向性の音を、後ろにあった王城の壁で反射させて後ろから聞こえさせた偽物の音である。

なお、腕を上げた意味も特に無い。


だが、職員たちには十分な効果を持っていたようで、先頭の列にいた兵士のような格好をした男性が思わず口を開いた。


「な、何でも話す!だから、助けてくれ!!」


それに続いて・・・


「お、俺もだ!」

「私も!」

「お願い助けて!」


各々に、職員たちは声を上げた。


「そうねー・・・一人ひとり聞くっていうのも面倒だし、私が質問して、それに答えられる人が手を上げて答えるって感じで行きましょうか。・・・あ、そうそう。当ててもいないのに話したりなんかすると、こうなるから気をつけてね?」


・・・そして、ワルツが眼を赤く光らせて、髪を真っ黒にした・・・その瞬間、


ドゴォォォォン!!


第5王城全体が崩落して、一瞬で更地へと変わったのである・・・。

んー、タイトルを書いておって思ったのじゃが、カリキュラム的な感j・・・いや何でもないのじゃ。

次回の物語でやるとするかのう・・・。


さて。

・・・まえがきにもあった通り、ユキFに証言させるのを忘れておったのじゃ。

昨日寝た後で思い出したのじゃが・・・流石に夢の中で思い出しても仕方がなかったのじゃ。

そのついでに、話の展開に必要な第三者への糸をつけたのじゃ。

・・・やはり、町中でロリコンとばったりとか、嫌すぎじゃからのう・・・。

いや、妾が会うわけではないから、別に良いのじゃがのう?

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