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15.01-16 ふたり2

「…………」あんぐり


「えっと……グランディエ?せっかくの可愛い顔が台無しになっているのだけれど……大丈夫?」


 グランディエのその表情を文章に(したた)めるのは、非常に難しい。所謂()()をしていたからだ。眼を見開いて、口を限界まで開けて、怒りとも悲しみとも言えない表情を浮かべる……。そんな感じの表情だ。悲鳴は無いが、恐怖のあまり叫んでいる表情に近い、とも言えるかも知れない。


 なぜなら、グランディエが30秒で支度してきた間に、馬車に"馬"が取り付けられていたのだが、それが——、


「フンスッ!」


「グリフォン……」


——だったからだ。決して人に懐かず、媚びず、甘えることのないはずの魔物が、"馬"代わりに馬車を引っ張るというのだから、思わず変顔になっても仕方がないと言えよう。


「まさか、空を飛ぶのですか?!」


 グリフォンの大きな翼を見て、グランディエは叫び声に近い素っ頓狂な声を上げた。すると、周囲の魔物たちが、一斉に反応して、ギロリとグランディエに視線を向ける。煩い、と言いたいらしい。


「いえ?すべての子たちが空を飛べるわけじゃないから、地面を行くわよ?最悪、どうしても逃げなきゃならないときは、空を飛ぶしかないと思うけど……その時はグリフォン以外の魔物を使うから、安心して」


 と言って苦笑するワルツの後ろ。馬車の上に、1羽の青い鳥が舞い降りた。


 それほど大きくはない、小さな鳥だ。例えるなら、ハトくらいの大きさ。そんな小鳥が、魔物たちが(ひし)めく人外魔境とも言えるこの場に、不意に現れた。


 しかし、グランディエはその鳥を見て、ピタリと固まり、顔を青ざめる。……そう。その小鳥こそが、森の中における最強種。巨大なドラゴンすらも凌ぐ、究極の強さを持った鳥。


「モ、モリニク……」


 かつて、大きな国をたった一羽で滅ぼしたと言われる幻獣ニク。その内、森に居を構えると言われるモリニクだった。


「へぇ?この大陸でも、ニクはニクなのね……。この子、独り立ちに失敗したらしくて、巣から落ちちゃった所を助けたら、懐いちゃったのよね……」


 ワルツが、ニクとの出会いを思い出して、感慨深げにウンウンと頷いている一方。グランディエは、泣きそうな表情で、確認を取る。


「ワ、ワルツ様……?ほ、本当に……本当に大丈夫なのですよね……?」


「大丈夫って……魔物に襲われないか、ってこと?」


「そうです!その通りです!!ここにいる魔物は、全部、強い魔物ばかり!私なんて、一瞬で食べられてしまいますよ?!」


「まぁ、敵意を見せなきゃ、みんな頭が良い子たちばかりだから、問題は無いと思うわよ?敵意を見せたら、別かも知れないけれどね。あぁ、あと、下手(したて)に出たら、無礼(なめ)られるから、媚びたり、(へつ)ったりしたらダメかもね。でも、グランディエって、魔王なのでしょ?その辺は得意よね?」


「…………(それとこれとは別です、って言いたい……)」


 グランディエの眼が死んだ魚のようになる。内心では、ワルツと共に旅に出ることを後悔している、といった様子だ。


 しかし、彼女が踵を返すことはない。一度、家を出ると心に決めたからだ。


 チャンスは今しか無い……。一人旅の辛さを知っていたグランディエは、覚悟を決めて、ワルツを見た。


「……行きましょう」


「……大丈夫?グランディエ。眼が死んでるわよ?あと、手足がプルプルと振るえているみたいよ?」


 足や腕の関節に振動する棒でも入っているのではないか、と思えるほどに、ぎこちない歩き方をしながら、グランディエは馬車へと向かった。そんな彼女に対して、掛ける言葉が見つからなかったのか、あるいは、理由が分からなかったのか……。ワルツは不思議そうに、首を傾げていたようである。


  ◇


 というやり取りは、馬車に乗る最初の時だけの話だった。


「わぁ……!」


「悪くないでしょ?」


「えぇ!えぇ!速いし、余り揺れないし、馬車って、こんなにも素晴らしいものだったのですね!」


「揺れない……?そ、そう……?(木を使った板バネと、長めのホイールベースを取っただけで、揺れ対策は殆ど無いのだけれど……)」


 ワルツとしては、木製の足回りが壊れないよう、申し訳程度にサスペンションを構築しただけで、乗り心地は二の次のはずだった。しかし、グランディエからすれば、良好な乗り心地だったらしく、それなりに揺れる馬車の中で、テンション高めに、窓に張り付いて景色を眺めていたようである。


 そんな彼女たちが通っていた道は、街道ではない。ワルツがグランディエの家を見つけるまでに通った、人が殆ど通らない獣道に近い道だ。地面に轍は無いものの、凹凸やむき出しの岩などがあって、決して、普通の馬車で走れるような場所ではない。


 それでも、ワルツの馬車は、難なく悪路を走破する。外径が大きく、クッション性の高いタイヤと、高い最低車高、そして、力強いグリフォンの牽引によって、45度くらいの段差であっても、難なく悪路を突き進んでいく。


「んー、確かに想定以上のトルクね。でも、この具合だと、車軸がすぐに壊れそうだから、近いうちに金属製の車軸に変えなきゃダメそうね……」


「えっ?こんなに静かなのに、壊れるのですか?」


「頑丈には作ってあるけれど、金属材料はまったく使ってないからね……。限界があるのよ」


 と理由を説明してから、ワルツはグランディエに問いかけた。


「ねぇ、グランディエ?貴女、金属を精錬する魔法とか使えない?」


 ワルツはダメ元で問いかけた。ここにルシアはいないのだ。もちろん、今のワルツだけで精錬をすることも不可能ではないが、手間が掛かりすぎて、面倒だった。


「金属の精錬ですか?まぁ、すこしであれば出来ますね。薬屋ですから、薬そのものや道具を作るのに、金属を精錬することもありますし……」


「ほほん?」きゅぴーん


「えっと……なんだか、身の危険を感じるのは気のせいでしょうか?」


 眼を()()()()()輝かせるワルツを前に、グランディエは身を引いた。それほどまでに、ワルツの視線が怖かったらしい。獲物を見つけた捕食者の目、といったところだろうか。


 そんなやり取りをすること、およそ30分。ワルツたちは街道へと辿り着く。


 そこでは少なくない人々が往来していたようだ。ただし、商人たちではない。


 街道と小路の接続点。そこに集まっていたのは、武装した人々。どうやら、皆、懲りることなく、ワルツの討伐のために集まっていたようである。


???「おい、コルテックス。例の冒険者ギルドへの指示はどうすんだ?」


???「…………」


???「……コルテックス?」


???「なぜお姉様は、私たちの前から姿を消されたのでしょうか〜?」


???「……気分じゃね?」


   ドゴッ!


???「ゴハッ?!」


???「まったく……お兄様ときたら、困ったものです。少しは真剣に考えていただきたいものですね〜」

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