15.01-14 ひとり14
ワルツが、現実逃避をするかのごとく、ぼけーっと外を見つめていると、グランディエがどこか申し訳なさそうにこう言った。
「この家があれだけ多くの人々に見つかったとなると、ここにはもう住んでいられません。ワルツ様?私のような日陰者でも住める、どこか良い場所をご存じではないしょうか?」
「日陰者?堂々と町で住めないって事?」
「はい。例え、自ら種族を明かずとも、何年経っても変わらないこの容姿や、眼が光っている事に対して、何かと因縁を付けて、絡んでくる人々が後を絶ちませんので……」
「難儀ねぇ……。でも、ごめんね。私には、良いアイディアは出せないわ?だって、私自身も、どこか人のいない場所で暮らせないか悩んでいるくらいだもの」
「えっ?ワルツ様の場合は、眼の光を自由に変えられるのですから、定期的に場所を移動していれば、人の町に住んでも問題は無いではありませんか?」
「子どもの容姿のまま、町中で家を持てるか、って問題もあるのだけれど……まぁ、色々あって、人から逃げているのよ。あ、別に、重犯罪者とか逃亡奴隷とか、そういう危ない感じじゃないからね?(まぁ、ある意味、とんでもなく危険ではあるけれど……)」
「……魔神様ですから、私には考えも及ばない大変な出来事があるのですね……」
「……そうね(そうじゃないんだけどなぁ……)」
グランディエの誤解を否定するのが面倒になったらしく、はぁ、と溜息を吐きながら肩を竦めるワルツ。そんな彼女の反応を見たグランディエは、尚更に自分の発言について確信を持ったようだ。すなわち——自分には分からないような大きな悩みを、ワルツは抱えているのだ、と。まぁ、強ち間違ってはいない。
それゆえか、グランディエの思考乗り換えは早かった。
「ちなみにですが、ワルツ様はここを出た後、どこに向かわれるおつもりだったのでしょう?」
「あては無いわね。曇っていたり、雨が降っていたりしたら、何となく移動して……晴れていたら木陰に隠れて時間を潰す、って感じ?それで、人が近くにいなくて、空があまり見えなくて、誰にも見つかりにくい場所があったら、そこに住みつこうと考えていたわ?」
ワルツがそう口にすると、グランディエは面白いことでもあったのか、クスリと笑みを零した。
「なんだか、普通の人たちと逆ですね」
「逆?」
「普通の旅人は、雨に濡れることを嫌いますから、晴れている日に移動して、雨が降っている日はできるだけ動かないようにしますので」
「そうね……。最近は、雨の日に移動するのが普通だと思っていたから、あまり気にしていなかったわ?」
「この後も、曇ってきたら、移動されるのですか?」
「えぇ、そのつもり(まさか、雨雲をすべて降らせることになるなんて思わなかったわ。晴れている日が多かったから、こんなことになるなんて、思い至らなかったのよね……)」
ルシアたちと行動を共にしていた頃は、どういうわけか晴れの日が多かった。雨が降っていた日など、殆ど記憶に無いほどだ。そのせいか、雨雲の下で重力制御システムを使うとどうなるのか、ワルツは気付くことが出来なかったようである。
自ら雨雲を晴らしてしまうなど、なんて間抜けな事をしてしまったのだろう……。ワルツが内心で自嘲していると、グランディエがどこか意を決した表情をワルツへと向けてくる。
「もし、ワルツ様がよろしければ……私もワルツ様の旅に同行させていただけないでしょうか?人がいない場所を探して旅をしているというのでしたら、それは私も同じ。目的地は違うかも知れませんが、一緒に旅が出来ると思うのです」
「…………」
ワルツは黙って、グランディエの眼を見つめた。グランディエが同行を申し出ることは、予想が付いていて、いつ言われても良いようにと覚悟を決めていたのである。
ゆえに、ワルツの返答に迷いは無い。
「別に良いわよ?」
「えっ?」
対するグランディエとしては、ワルツに断られるかもしれないと考えていたためか、ワルツの返答に耳を疑った。それほどまでに、彼女の表情は険しかったらしい。
ただ、ワルツの言葉には続きがあった。
「ただし、場合によっては、私だけ逃げる場合があるかも知れないわよ?一応、人に追われている立場だから。その時、私はグランディエのことを見捨てて逃げるかも知れないわ?それでもいいなら、一緒に旅をしましょ?」
対するグランディエは、一瞬眼を真ん丸に開くものの、すぐに眼を輝かせて頷いた。彼女にとって、ワルツの発言は、大した問題には感じられなかったのだ。
「えぇ、是非ともお願いします!ワルツ様に仇なす者が現れたときは、私が追い払ってみせます!こう見えても強いんですよ?私!」
「あっ……いや……追い払わなくても……」
「フフフ……その時が楽しみです!」
「えっと……んー……困ったわねぇ……」
自分を追いかけてくるのは、大切な身内の者たち。そんな者たちを力技で追い払うというのは、ワルツとしては避けたい事だった。
グランディエの強さは定かでないが、最悪、戦闘に発展した場合、国や大陸といったものが一撃で消え去るような規模に発展しないとも限らないのである。さすがにそんな状況に陥らせるわけにはいかない……。そんな事を考えていたワルツは、グランディエとは対照的に、心配そうな表情を浮かべるのであった。
???「お姉様の痕跡を発見しました」
???「えっ?!どこですか?!」
???「やはり、別の大陸に跳んでいたようですね〜。惑星の裏側にある冒険者ギルドで、管理者権限が付与されたギルドカードを紛失物として見つけた、と連絡を受けました〜」
???「惑星の裏側……ですか。随分と壮大な家出ですね……」
???「お姉様の事です。惑星の裏側なら、まだ可愛い方。もしも、別の惑星に家出をしていたとしても、何ら不思議はありませんよ〜?」




