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15.01-10 ひとり10

「えっと、魔王って……種族名だっけ?……まぁ、いっか」


「随分と淡泊な反応ですね?!」


「だって、知り合いに魔王を自称する人たちが何人かいるから、今更、魔王の一人や二人が出てきたところで、驚くような事でもないし……」


「……流石は魔神様です」


「いや、"ま()ん"じゃなくて、"マ()ン"なんだけどね?」


「えっ?」


「えっ?」ずずずずず


 コミュニケーションとは、なんと難しいことなのだろう……。ワルツは内心で、言葉の難しさを噛みしめながら、茶を啜った。なお、コミュニケーションが難しいのではなく、細かな説明をするのが面倒臭いだけである。


「で、その魔王様が、どうしてこんなところに一人で住んでいるのかしら?魔王って、王様なのだから、配下の一人や二人くらい一緒に住んでいてもおかしくないの思うのだけれど?」


 たとえ"魔王"という存在が、種族名であろうとも、通り名であろうとも、"王"という単語が付く以上、配下を統べる存在のはずだった。別の文字の"まおう"なら意味は異なるかも知れないが、グランディエからは特に補足は無いので、彼女は"魔()"なのだろう。


 実際、グランディエは、自分が魔を統べる王という意味の"魔王"という前提で話をしていたようだ。


「……母から、私たちの種族は、代々、魔族を統べる種族だと聞き及んでいます。もう魔族自体が、おとぎ話のような存在ですから、本当にいたのかすら分かっていませんが」


「ふーん。ちなみに、魔族ってどんな人たち?」


「話に聞いただけですから、確度はあまり高くありません。一見すると、人のような姿をしている様々な種族の方々の総称、と聞いています。人のようで、人手はない者たち、と言えば良いのでしょうか。背中からコウモリの羽のようなものが生えていたり、頭から角や獣のような耳が生えていたり、口には牙が生えていたり、種族によっては炎を吐くとか……。いずれも、人間種にはない特徴を持っていると伺っています」


「あぁ、そう……。(それ、獣人も一緒になっていない?この大陸じゃ、魔族の分類になるのかしら?)ちなみに、この辺には住んでいないのね?」


「えぇ、いませんが……もしかして、ワルツ様は、魔族をご存じなのですか?!」


 グランディエは、キラキラと輝く目で、ワルツの事を見つめた。話が合う相手を見つけられて嬉しい、といった様子だ。


 対するワルツは、魔族の存在について心当たりがありすぎたが、知っているとは即答しなかった。今、彼女は、家出状態。ユリアたちの存在を説明することに後ろめたい気持ちがあったらしい。


「さてね……。ってことは、やっぱり貴女、普段からここで一人で生活しているのね」


「えぇ……」


 ワルツが話題を変えた瞬間、グランディエの表情が一気に暗くなる。魔族についてはぐらかされたことも理由の一つかもしれないが、それ以上に、ワルツの話題そのものに問題があったらしい。


 急に俯いてしまったグランディエに対し、ワルツが事情を問いかけようとする直前。グランディエが逆に質問する。


「ワルツ様は、私たち"魔王"という種族が、人間種からどのような扱いを受けているか知っていますか?」


「……(仲良く暮らしてる……って答えたら、連れていけ、って言われそうよね……)」


「……その様子ですと、ご存じないのですね……」


「(いや、どうせ答えなんて2つしか無いし、その内、1つは、貴女を見ていればありえないことくらい分かるわよ)」


「私たち、"魔王"という種族は、人から怖がられ、忌み嫌われ、迫害されている種族なのです。魔族こそ近くには住んでおりませんが、魔物を統べる種族として考えられています。……そんな力は無いというのに」


 そう言って、グランディエは苦々しい表情を見せながら、茶を啜った。茶自体は苦くはないが、自身の置かれた環境が苦くて仕方がなかったらしい。


 対するワルツは、グランディエに対して、申し訳なさで一杯だった。グランディエにとっては、もしかすると、楽園のような場所を知っているかも知れないというのに、その場所を説明できないからだ。なお、その場所の名前は、ミッドエデンという。


楽園(エデン)とは良く言ったものよね……」


「えっ?」ずずずずず


 ワルツの呟きに気付いたグランディエが、ふと顔を上げた。その瞬間だ。


「ぶふっ?!」


 突然、グランディエが、口の中にあった茶を、盛大にぶちまけた。


「ちょっ?!危なっ!」


 飛んできた飛沫を重力制御システムで受け止めながら、ワルツはグランディエにジト目を向ける。


 しかし、グランディエの視線はワルツに向けられていない。彼女が見ていたのは、ワルツのさらに後ろの方。窓の向こう側に向けられていた。


 そこには、ギョロリと動く巨大な眼があって、家の中を覗き込んでいたようである。それも、1つや2つではない。窓の向こう側を埋め付くさん限りに、たくさんの眼が、グランディエの家の中を覗き込んでいたのだ。


「そ、そんな……魔物避けの効果が無くなっている?!まさか雨で流されて?!」わなわな


「魔物?(あぁ、あの子たち、付いてきたのね。殺されていなかったんだ……)っていうか、魔王なのに、魔物避けをしていたの?魔物除けの薬?あぁ、薬屋か……」


「だ、だって、危ないではありませんか!」


「魔を統べる王とは思えない発言ね……」


「魔を統べるといっても、魔物を統べられるわけではないですよぅ!」


 と、魔物たちの視線を気にしてか、小声で反論するグランディエ。どこからどう見ても、魔物たちに見つかっているのだから、小声で話す意味は無いはずだが、それでも一応、魔物たちを刺激しないように気を遣っているらしい。


 対するワルツは、魔物たちを気にする様子無く、茶を啜る。


「そんなに魔物が怖いなら、人に紛れて暮らせば良いのに……」ずずずずず


「む、無理なんですよ!すぐにバレてしまいますからっ!っていうか、どうしてそんなに余裕があるのですか?!」


「だって、この子たち、私の事を追いかけてきただけだし……」


「え゛っ」


 淡々と説明するワルツの言葉通り、魔物たちはグランディエの家を壊して無理矢理中に入ろうとするような気配は無かった。ただ、窓から、ジロジロと中を観察するだけ。それだけでも、グランディエとしては恐ろしい光景に見えていたが、涼しげな反応のワルツを見ている内に、段々と慣れてきて……。その内に、おどおどする気も失せてしまったようだ。


「さすがは魔神様ですね……」ずずずずず


「……どうやったら、誤解を解けるのかしら……」ずずずずず


 そして部屋の中を沈黙が包み込んだ。グランディエにしても、ワルツにしても、色々と言いたいことはあったようだが、うまく言葉にできなかったようだ。


???「お姉ちゃんを探す良い魔法が無い……」


???「ユリア辺りの情報網を利用すれば良いのではなかろうか?」


???「もうやってるもん。だけど、網に引っ掛からないんだって」


???「ワルツのやつ、本気で逃げておるな……」


???「もう、新しい魔法を開発するしか無いかなぁ?」


???「新しい魔法?」


???「例えば、世界中に人工太陽を放って、そこから世界を見渡す魔法、とか?」


???「一歩間違えれば世界が滅びるゆえ、やめてほしいのじゃ……」

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