6後-09 ユキたち(小)2
ドゴォォォォン!!
「ぐあっ?!」
ユキF(小)の指先で魔法が弾け、吹き飛ぶ。
ダンッ、ダンッ・・・ドシャン!!
小さな身体が何度か地面でバウンドして、王座の間の端に寄せてあった長机をへし折った所で、ようやく止まった。
「かはっ・・・こ、小娘・・・・・・なかなかに、姑息な手を使いまちゅね・・・」
「えっと・・・ユキちゃんのお姉ちゃん?私、何もしてないよ?」
苦笑を浮かべながら、頬を掻くルシア。
どうやら、ユキFが放とうとしていた魔法が、ワルツに気を取られたために暴発して、勝手に自爆したらしい。
それからユキFは、腕を力なくダラーンとしながらも、どうにか己の足で立ち上がり、再びルシアに向かって指先を向けた。
そんな時、ワルツが問いかける。
「・・・何してるの?」
「鍛錬・・・でちゅ。身体が小しゃくなってしまった今、いちゅ何時、何が起こるとも分かりましぇんので・・・」
「ふーん・・・まぁいいけど」
と、一旦は戦闘を許容するつもりでいたワルツ。
だが、よく見るとユキFの足はプルプルと震え、身体は傷だらけで、頭部からの出血もあった。
流石に、そこまでして鍛錬するというのは如何なものか、と思ったワルツは、彼女の治療のために声を上げた。
「はいはーい。ちょっとタンマー。カタリナ?治療をお願いできる?」
と、カタリナに対してワルツは声を掛けるが・・・
「・・・」
彼女はワルツの言葉に反応を示さなかった。
それどころか、見る見るうちに顔が青くなっていく。
(・・・はぁ。ようやく、子どもたちがユキAの片割れだと気付いたのね・・・)
ワルツはカタリナの反応に苦笑を浮かべた。
この部屋にルシアとユキFしか居なかったことから、ユキFと同じ顔をユキたちの正体を察した、と思ったのである。
・・・しかし、そういうわけではなかったようだ。
「な、なんてことをしているのですか!」
『えっ・・・』
突如として声を上げたカタリナに、思わず驚きの視線を向ける一同。
彼女はユキFの側に走り寄って、腕の調子を確認すると・・・
「あー、折れちゃってるじゃないですか!ダメですよ!子供がそんな無茶な遊びをしたら!」
ペシッ
「あいたっ!」
・・・弱い(?)デコピンをお見舞いする。
それから、
「いたいのいたいのとんでけー」
などと言いながら、カタリナ本人にしか原理が分からない超回復魔法を行使すると、一瞬で骨折や全身の炎症、さらには切り傷などを修復し、元通りの姿に戻してしまう。
「?!」
「はい、お仕舞い。もうこんなことしたらダメですよ?」
そう言ってカタリナは、ユキFの頭を優しく撫でた。
そんな彼女に、
「び、ビクセンしゃま・・・?!」
・・・これまでのユキたちと同じ反応を示すユキF。
「・・・お返事は?」
問いかけに対して返事を返さなかった彼女に、凄むカタリナ。
「えっと・・・はい・・・しゅ、しゅみませんでした・・・」
「うん。いい子ですね。ではこれを上げましょう」
そう言ってカタリナは、頭を下げるユキFの口に、乾物を突っ込んだ。
「もがっ?!」
と、短い悲鳴(?)を上げるも、直後に嬉しそうな表情を浮かべるユキF。
彼女たちは甘いものではなく、塩辛い乾物が好きなのだろうか・・・。
「ルシアちゃんも、こんな小さな子を相手に手をあげたらダメですよ?」
「え・・・う、うん。ごめんなさい・・・」
どうして自分が・・・、と納得できない様子のルシアだったが、えも言われぬ空気を読んで、カタリナに謝ることにしたようだ。
・・・その際、カタリナは、ルシアに対しても乾物をちらつかせるが、彼女は苦笑を浮かべて断った。
「はい。これで一件落着ですね」
「いやいやいや・・・なんかおかしいことになってるわよ?っていうか、何も終わってないわよ」
・・・というわけで。
このまま放っておいても、カタリナがユキたちの正体に気づくことは無さそうだったので、ワルツはユキたちのことについて、結局、説明することにしたのである・・・。
一通り、ユキたちの正体について説明を終えた頃・・・。
「・・・申し訳ございません・・・」
大理石(?)の床には、三指をついて平伏するカタリナの姿があった。
「いえいえ・・・頭を上げてくだしゃい、ビクセン様!」
・・・ただ、ユキFの方は未だに誤解しているようだが。
「いやー、よく考えると、カタリナって、ユキたち姉妹のこと全く知らなかったのよね・・・」
そう。
カタリナはユキAが唯一の魔王だと思い込んでいたのである。
いや、むしろ、何も知らなかったと言うべきか・・・。
事前知識が無い状態で今のユキたちを見たのなら、彼女たちがこの国の政府首脳であるとは誰も思うまい。
「ワルツさんたちも分かっていたなら、最初から言ってくださればよかったのに・・・」
カタリナは床から立ち上がってそう言いながら、ワルツとユキAに対してジト目を向けた。
「いやいや、私だって、思い出したのさっきのことだったんだし・・・」
「ボクもです。まさか、姉妹の顔を忘れるなんて・・・」
ユキAがそう口にすると・・・
『・・・?』
一斉に怪訝な表情を浮かべるユキたち。
すると、ユキFが代表して口を開いた。
「ところで、ワルツ様?アインシュはどうなったのでしゅか?」
「アインス・・・あぁ、ユキAね。彼女ならそこn」
「ヌル姉様!」
姉の態度が白々しいと感じたのか、ユキAが声を上げた。
「酷いではないですか!無視するなんて・・・」
「・・・あの・・・どちら様で?」
「・・・え?」
姿形(と声帯)が変わってしまったために、姉に認知されなかったユキA・・・。
「ボクです!アインスです!・・・うぅ・・・」
『?!』
・・・そしてようやく彼女の正体に気付いたユキたちは、皿のようにした眼をユキAに向けるのだった・・・。
ペタペタぺタ・・・
「あの・・・みんな?何をしてるんですか?」
何やら、自分の身体を確かめるようにして触ってくる姉妹たちに戸惑うユキA。
「おぉ・・・確かに、アンデッドでは無いみたいでちゅね・・・」
「ちゃんと首も付いていまちゅね・・・」
「前より肉付きが良くなったみたいでちゅね・・・」
「でも・・・相変わらず、胸は無いんでちゅね・・・」
「ん?胸?」
・・・どうやら他の姉妹たちと違って、ユキAは胸の大きさに執着が無いらしい。
「でも本当に良かった・・・」
そう言いながらユキFは、目尻に涙を溜めながら、ギュッ、とユキAに抱きついた。
恐らくその涙の意味は、ユキAが無事だったから・・・それだけではないのだろう。
「・・・心配をお掛けしました」
ユキAも、まるで子供を抱きしめるようにして、ユキFを抱き返す。
「少々見た目は変わってしまいましたが・・・ワルツ様やカタリナ様方のおかげで、なんとか助かることができました」
するとユキFは、その言葉に首を傾げた。
「カタリナ?」
「はい。このビクセン様に似ているお方です」
『・・・』
「・・・」ニコッ
ユキF・・・だけでなく、ユキたちが揃ってジーっと見入ってきたので、カタリナは笑みを返した。
それに対し、ユキたちは一斉に驚いた表情を見せて、
『ビクセン様では無いのですか?!』
と声を上げる。
「はい、もちろん違います。私はカタリナと申します」
そう言って、再び頭を下げるカタリナ。
『・・・』
するとユキたちは、言葉を失った様子で、一斉に残念そうな表情を浮かべた。
唯一、皆と違って苦笑を浮かべていたのは、事情を知っているユキAくらいである。
そんなユキたちに、今度は、彼女たちのやり取りを隣で聞いていたワルツが問いかける。
「そのビクセン様って、今も生きてるとかじゃないわよね?なんか最近も、近くの通りで見かけた、みたいな様子だけど・・・」
それに対し、ユキFが言葉を返す。
「私たちも流石に、ビクセン様を見たことはありませんが、伝説によると、未だご存命らしいでちゅよ?」
「・・・一体、何歳になるのよ・・・」
「生きておられましたら、7000歳は優に超えておられるのではないでしょうか」
「だとしたら、紛れも無いバケモノね・・・」
と言いながら、シワシワのミイラのようなお婆ちゃん狐を想像するワルツ。
すると今度はユキAが補足する。
「ボクたちが言っているビクセン様の姿というのは、以前にもお話した通り、肖像画のことです。以前はこの城・・・というよりも、以前、ここに建っていた城の玉座の間に飾っていたのですが・・・」
そう言いながら、この部屋の壁に目をやるユキA。
だが、この部屋には、肖像画どころか、装飾品の類は一切存在していなかった。
「ルシアが、城を立て直す時の材料にしちゃったから、無くなっちゃった・・・とか?」
「いえ、特殊な保存の魔法がかかっていたので、壊れたり分解されるようなことは無いと思います。恐らく探せばどこかにあるかと思うのですが・・・」
「そう・・・一度でいいから、見てみたいものよね・・・」
「本当にそっくりですから、もしかすると、見ても仕方ないかもしれませんよ?」
そう言いながらカタリナに、憧れのような色を含んだ視線を向けるユキF。
彼女以外のユキたちも同じような視線を向けているところを見ると、彼女たちにとってビクセンとは、余程、特別な存在のようである。
「さてと。それじゃぁ、この3日間で分かったことについて教えてくれるかしら?」
ユキたちの再会が一段落した後、頭から飛び込んできたルシアを上手く往なそうとして脇腹で受け止めて・・・それも一段落してから、改めて口を開くワルツ。
対して、返答する側のユキFの表情は芳しいものではなかった。
「・・・未だ何も分かってなかったりする?」
「・・・はい。恐らく本日中には、例の『剣』や『種』に関しゅる報告が上がってくると思うのでちゅが・・・」
「そう。なら、ちゃんとした情報が上がってくるまで待つしか無いわね・・・」
そう言って残念そうな表情を浮かべるワルツに対して、ユキFは何か報告できることがないかと考えてから、ハッとした様子で口を開いた。
「そういえば、ワルツ様の付き人のお二方が、昨日から第5王城の方で何かをやっておられるようでちゅよ?兵士や官僚たちの出入りを一切禁じて、一体、何をしているのでしょうか・・・」
「あぁ、私が頼んだのよ。なんか、伏兵・・・っていうか裏切り者・・・っていうか、なんというか・・・不埒な輩が潜んでいるみたいだから調べて、って。・・・もしかしたら第5王城だけの話ではないかもね」
『?!』
その情報が初耳だったユキたちは、一様に驚愕の表情を浮かべた。
「わ、ワルツ様!その話を詳しく教えてくだしゃい!」
ユキFのその言葉に・・・今度はワルツが芳しくない表情を浮かべる。
「・・・うん。ユキA?あとは頼んだわね?」
「えっ?!・・・い、いえ、構いませんが・・・」
「じゃ、私たちはユリアたちのところに行ってくるから、なんか分かったら無線機で教えてね?」
・・・こうして、ユキAから聞いた話の説明が面倒くさくなったワルツは、全ての説明を彼女に任せて、ユリアたちのいる第5王城に向かったのである・・・。
今日は、主殿に連れられて、『えいが』なるものを見に行ってきたのじゃ。
やはり、文と違って、絵や音を使う表現は違う面白みがあるのう。
ん?動く巨大な絵と、大きな音に興奮して暴れなかったか、じゃと?
もちろんじゃ。
たまに主殿が、大きなへっどふぉんや、へっどまうんとなんたらという機械をつけてくるから、もう慣れておったのじゃ。
さて、あとがきなのじゃ。
ユキBからFの赤ちゃん言葉の中で、『し』という単語を『ち』にしようか悩んだのじゃ。
じゃがのう、『しゃ』『しゅ』『しょ』を使った上で、『し』も書き換えると、読みにくくなってしまったのじゃ。
じゃから、『し』は『し』のままで行くことにしたのじゃ。
・・・ルビを振るのが面倒になったわけではないぞ?
あと、同じ理由で『せ』も『しぇ』ではなくそのままなのじゃ。
ビクセンと言う名が出てくる度に、ビクシェンと書くのは面倒・・・じゃなくて、読みにくいからのう。
そう、読みにくいのじゃ・・・。




