6後-08 ユキたち(小)1
迷宮一件から4日が過ぎ、落ち着きを取り戻したビクセンの町並み。
そこでは、市民たちがせっせと建材を運んだり、兵士たちが道を直したり、市民たちが寄り添って炊き出しの準備をしていたり・・・と、再建に向けた取り組みが進んでいた。
兵士と市民たちが一緒になって作業に勤しんでいるところを見ると、どうやらユキたち姉妹の政策が順調に機能しているようである。
活気があふれていたのは、再建の現場だけではない。
(ミッドエデン風)王城から伸びるメインストリートに立ち並ぶ屋台も例外ではなく、地方から取り寄せた野菜や果物、肉などの食材などが所狭しと並んでいた。
ただ、ビクセンの外に広がる畑の大半がダメになっていたので、流石に新鮮なビクセン産の野菜はあまり流通していなかったが、プロティービクセンの迷宮内部に保管されていた備蓄分の食料が開放されたために、市民が飢餓に困るということは今のところ無さそうだった。
そんな町の中で・・・どうにか活気づこうとしている人々の空気を壊すように、青いオーラを放ちながら、彷徨う者の姿があった。
「はぁ・・・」
・・・ユキB(市長)である。
彼女は深くため息を付きながら、まるでリストラされたリーマンのような表情を浮かべて、市中を歩き回っていたのだ。
今回の一件の責任を追求され、懲戒免職になって、時間が有り余っていた・・・わけではない。
視察の一環で、市中の巡回を行っていたのである。
ただ、今の彼女の状態だと、本当に街の様子が眼に入っているのかは、怪しいところだが・・・。
では、何故、彼女がそんな身も心もダークサイド(?)に落ちそうな様子なのか。
・・・まぁ、理由ならいくらでも挙げられるだろう。
市長としての立場では、食料調達の問題や街の再建の問題など、すぐに解決しようのない問題が山積みになっていた。
あるいは、シリウス一家(?)の視点では、突然姉が心中しようとしたり、その1つ下の姉が首を刎ねられて魔神に拐われてしまったり・・・など、こちらも頭を抱えてしまうことだらけである。
彼女の今の心境を表現するなら、四面楚歌・・・そんな言葉で表現するのが的確だろうか。
とはいえ。
250年以上の時を生きているユキBにとっては、どうしようもなく危機的な状況・・・というわけでもなかった。
これまでの人生で、似たような危機に直面することが何度かあったために、危機管理のノウハウだけは十分に備えていたのである。
では何故、彼女がウォーキングデッドのような表情で、ふらりふらりと歩いていたのかというと・・・
「・・・元に戻れないでちゅ・・・」
・・・ワルツに熱線攻撃を喰らってから、身長が小さくなったままで、未だ元に戻れなかったからである・・・。
変身するための魔道具をつけていれば、他人からはいつも通りの姿に見えるので、公務で人の前に立たなければならなくなっても問題は無いのだが・・・・・・身体が小さくなってしまったせいか、魔道具に供給できる魔力も減ってしまい、四六時中変身できなくなっていた。
なので今は、魔力を温存するために、身長90cm前後の2〜3歳児の姿のままで、歩いていたのである。
そんな女児が、街のメインストリートを歩いていたら、普通は誰か彼かが声を掛けるか、衛兵に通報するところなのだが、誰も声をかけるどころか近づきすらしなかったのは・・・やはり、彼女が出す、心底疲れきった気配のためだろうか・・・。
「はぁ・・・お空が高く感じまちゅね・・・」
と呟きながら、無事だった建物の隙間から見え隠れしている太陽に視線を向けるユキB。
そこでは2つの太陽から燦々と光が降り注いでいたが・・・彼女の瞳は、まるで、つや消しクリアを吹き付けた窓ガラスのごとく荒涼としていた。
そんな時、
キラッ・・・
彼女は空の彼方に何か光るものを見た気がした・・・。
「・・・ん?」
次の瞬間・・・
ビュン!
「?!」
頭の上スレスレを何か巨大で高速の物体が通過していく。
もしも、彼女の身長がもう少し高かったなら、頭が吹き飛んでいたのではないだろうか・・・。
そしてそれは、
ドゴォォォォン!!
土煙を上げて地面へと落下した。
・・・それも補修したばかりの大通りに・・・。
・・・辺りを漂う土煙。
その中から、
「ふぅ。到着よ?」
「相変わらず、速いですね」
「ワルツ様。否定はなされますが、この力・・・どう考えても、魔神ですよね」
「だから、魔神じゃないって!ルシアだって、シルビアだって、似たようなこと出来るんだから」
「えっ・・・」
そんな聞き覚えのある声と共に、他数名の少女たちの声が聞こえてきた。
そして、土煙の中から出てきたのは・・・
「わ、ワルツ様!」
ワルツたち3人だったのである。
そんな彼女たちに、新しい道路を破壊された憤りも忘れ、近寄るユキB。
・・・だが、
「・・・誰この子?」
「いいえ、ボクは知りませんよ?・・・多分ですけど・・・」
「有名になると、一方的にしか知られないことって、よくありますからね」
誰もユキBだとは気づかなかった。
「んな?!・・・ち、市長でちゅ!」
そんなユキBの言葉に、ユキAが反応する。
「市長?・・・そうですかー。巷で話題の魔王ごっこをして遊んでたのですね。お母さんはどこですか?」
ユキBの言葉を取り合わないユキA。
どうやら、迷子か何かだと思ったらしい。
「わ、ワルツしゃま!この人、ダメでちゅ!私の話を、じぇんじぇん聞いてくれまちぇん!」
「んー、そんなこと言ってもねぇ・・・っていうか、どっかで見たことがあるんだけど・・・貴女誰だったっけ・・・」
「うぅ・・・」
自分たちの姿を知っているはずのワルツすら取り合ってくれないためか、泣きそうになるユキB。
・・・そんな時、
「よいしょっ」
「?!」
泣きそうになっていたユキBを、カタリナが抱っこする。
そして、
「ごめんね。お姉ちゃんたち急いでるから、一緒に遊んであげられないの。だから、代わりに、お母さんたちの所に連れて行ってあげるね」
・・・ユキA以上に、子供扱いした。
このままの流れで行けば、カタリナも『無礼』の一言で一蹴されるところなのだが・・・
「・・・?!」
・・・どういうわけか、ユキBは驚いた表情を浮かべて、押し黙った。
「へぇ・・・カタリナ、子供あやすの得意なのね」
「はい。教会にいた頃は、小さな子どもたちの面倒をよく見ていましたから」
「・・・ふーん」
ワンテンポ遅れてから、相槌を打つワルツ。
もしも、カタリナが孤児だった場合、教会のことを思い出させて、予期しないフラグを立てかねない・・・そう思ったらしい。
だが事態は、ワルツの予想外の方向へと転がっていく。
・・・まぁ、必然の流れとも言えるのだが。
「び、ビクセン様・・・?」
「え?」
「びくしぇんしゃまぁ〜〜!!うぇぇぇぇん!!」
カタリナに抱きついたまま、ユキBが号泣を始めたのだ。
「・・・前言撤回ね。カタリナ?子供を泣かせちゃダメじゃない・・・」
「たまにいるんですよ。泣き止むかと思ったら泣く子ども・・・。でもこういう時って、大抵の場合・・・」
そう言いながら、バッグから触手の干物(タコ?)を取り出して、子どもの口の中に突っ込んだ。
「もがっ?!」
「お腹が減ってるんですよねー」
「(び、ビクセン様!何すr・・・あ、これ美味しい・・・)」
モグモグ
「ほらっ?」
「へぇ・・・。やっぱり、子供あやすの得意なのね?」
「はい。教会d・・・」
・・・以下同文である。
どうやら子供(250歳)は、お腹が減っていて、機嫌が悪かっただけのようだ・・・。
「でも、この子、どうしようかしらねー?」
「そうですね・・・・・・ねぇ、お嬢さん?あなたは、どこから来たのかな?」
と言いながら、子供に向かって頭を傾けるカタリナ。
するとユキBは・・・
モグモグ・・・
と、干物を噛みながら、黙って王城の方を指さした。
「ん?王城?」
「職員の子供でしょうか?」
そんなワルツとカタリナの疑問に対して、ユキAが答える。
「たまにいますね。親が恋しくて、王城まで迎えに来る子供が」
「あぁ、なるほどね。じゃぁ、とりあえず王城の方に行ってみましょうか。もしも、王城で親が見つからなかったら、あとは兵士たちに親探しを任せればいいしね」
『はい』
・・・こうしてユキBを連れたまま、ワルツたちは、王城へと足を進める事になった。
なお、彼女たちの周りには市民や兵士たちもいたが、誰ひとりとして近づこうとしなかったのは・・・言うまでもなく、ミッドエデンの市民たちが近づかなかったのと同じ理由のためである。
そして、王城で。
『あ、ワルツ様。お帰りに・・・・・・び、びくしぇんしゃまぁ〜〜?!うぇぇぇぇん!!・・・もがっ?!(あ、美味しい)』
・・・このパターンをユキCからユキEまで繰り返して、4人の同じ顔をした子どもたちと手を繋ぎながら、(ミッドエデン風王城の)玉座の間の前までやってきたワルツたち。
「・・・ねぇ、ユキ?この子たちのことなんだけど・・・」
「・・・えぇ。皆まで言わずとも分かっております・・・」
2人目に出くわした時点で、ワルツとユキは、子どもの正体を察していた。
だが、カタリナは、小さくなったユキたちに直接会ったことがなかったので、未だユキたちが単なる4つ子だと思っているらしく、
「あらー、もう食べ終わっちゃったんですね。はい、新しいのです。・・・あーん」
・・・まるで親鳥が雛に餌付けするかのようにして、干物を食べ終わったユキBからEの口に新しい乾物を突っ込んでいた。
そして、どういうわけか、そんな子供扱いをするカタリナに、一切の抵抗を見せること無く、やられるがままに従うユキたち。
カタリナが振り向く度に嬉しそうな表情を見せているところを見ると、完全に懐柔されているようだ・・・。
「・・・ねぇ、子供の正体、教えなくて良いのかしら?」
「・・・美味しそうですね・・・」
「・・・はぁ・・・」
乾物を食べていないはずのユキAも、懐柔されかかっているようである・・・。
「まぁ、いいけどね。っていうか、そこの扉の向こうにいるユキFも、食べたがってるんじゃない?」
そんなことを呟きながら、ワルツはマイクロノック(?)をしてから、玉座の間の扉を開いた。
ギギギギギ・・・
「ユキF〜?今戻ったわよ〜?」
部屋の代理の主に、扉が開く前から声を掛けるワルツ。
そして、扉が開き切ると・・・
ドゴォォォォン!!
そんな爆音と爆風がワルツたちを襲ってきた。
『?!』
そして、その原因を作っていたのは・・・
「あ、お姉ちゃん!」
「・・・勇者の小娘よ。戦闘の最中に余所見とはいい度ky・・・あ、ワルツ様!」
ドゴォォォォン!!
・・・どういうわけか玉座の間で戦っていた、ルシアとユキFだった。
ぐぬぬぬ・・・あとがきで何を書こうとしておったのか忘れたのじゃ・・・。
いつもなら、話の最後に『あとがき:云々』とメモを取っておるのじゃが、何か作業をしておって書き忘れてしまったようじゃ。
なんじゃったかのう・・・。
まぁ良いのじゃ。
代わりに、ユキたちとカタリナ、ついでにシラヌイのことについて書こうと思うのじゃ。
ぶっちゃけるとじゃ。
この3人(?)は、話し方が近いので、混同する可能性があるのじゃ。
性格、趣味、行動原理は完全に異なるのじゃが、ユキの一人称以外に特徴がのうて、分かり難くなっておる・・・それは妾も承知しておるのじゃ。
じゃから、たまーに、各々のストーリーで一人だけ出して、個性を作り出そうと試みておるのじゃが・・・やはり、そう簡単には行かぬのじゃ。
安直な口癖とかは書きたくないしのう。
・・・そういえばじゃ。
妾にも実は口癖があるようで、主殿やルシア嬢に指摘されることがあるのじゃ。
・・・まぁ、話の中では出てこないように調整しておるがのう?
その話は・・・いつかできるようになるのじゃろうか・・・。




