14.21-24 色々な力24
地下空間について、一通りの案内をされたマグネアは、感想をこう締めくくった。
「……恐ろしい」
と。
「えっ?」
「このような空間を、誰にも気付かれずに、いつの間にか作ってしまうことを、恐ろしい、と思ったのです。ここの空間は、最早、学院よりも大きい。しかも、その中では、学院よりも高度な研究が行われている……。これを恐ろしいと感じずにいられるのは、相当、鈍感な方くらいでしょう(ハイスピア先生が狂ってしまうのも頷けます)」
「そ、そう……?(地下空間については分からないでも無いけれど……そんな、高度な研究なんて、してたかしら?)」
ワルツたちの地下空間で行っている事柄の中で、研究と言えるものは、マリアンヌの臭気魔法と、ワルツの機動装甲や魔法陣についての研究くらいのものだった。学院にいる教員たちの研究に比べれば、研究の数自体は極めて少ない。
ゆえに、ワルツには、マグネアが何を言っているのか、理解出来なかった。ワルツの認識では、大した事をしているつもりは無いのだ。
だが、マグネアから見れば真逆。地下空間に居を構えるワルツたちの衣食住、ポテンティアの存在、そもそも地下空間をどうやって維持しているのか、その一つ一つが、文字通りオーバーテクノロジー。ワルツたちが行った研究の結果だと考えていたようである。ワルツたちが行う行動のすべてが、"普通"ではない。それらすべてが、研究に研究を積み重ねて得られた成果なのではないか……。地下空間に対するマグネアの印象は、そのような内容だった。
それゆえか——、
「私も魅せられてばかりではいけませんね……。よろしければ、私の……いえ、我が一族、カインベルク家に伝わる研究成果について、お教えします」
——などと、マグネアが言い始める。
「えっ?カインベルク家の研究成果?(ちょっと興味があるわね……)」
「ワルツさんは私の専門が何かを知っていますか?」
「魔法……死霊術だったっけ?」
「えぇ、そうです。死霊術というものは——」
唐突に、マグネアの特別授業が始まる。ワルツの案内に触発されて、研究者魂(?)に火が付いたらしい。
彼女は足下に転がる石ころを拾い挙げながら、説明を始めた。
「死霊術とは、一般的に、人や動物などの魂を降霊したり、呼び寄せたりして、アンデッドとして蘇らせることだと言われています。しかし、それは上辺だけ。死霊術の本質ではありません」
「本質?」
「例えばこのように……」
マグネアはそう言って、手のひらの中の石塊に、魔力を込めた。それだけで、石塊がブルブルッと振動して、マグネアの手の中で立ち上がる。石塊に足が生えた訳ではない。卵のような形をした石塊が、重心を無視して、コロリと転がり、立ち上がったのだ。
ワルツは最初、マグネアの手品か何かだと思っていたようだが、マグネアがその石塊を地面に置いても立ち上がったままだったことから、目を見開く。ただの石塊が、七転び八起きのようになったのだ。
そして極めつけは——、
「石塊のような非生物に魂を吹き込み、操る事が死霊術の本質です」カタカタ
——マグネアが地面に置いた石塊が、勝手に動き出したことだ。その様子を見て、ワルツは確信する。
「これ、もしかして、ゴーレム?」
「えぇ、そうです。人の手で作り出した人造のゴーレムです。生物の種族として"ゴーレム"と呼ばれる者たちもいますが、生殖機能や運動のための器官を持つ彼らとは異なり、人造ゴーレムは、生物のような器官を一切持つこと無く、動くことが可能です」
「ほ、ほう?(それ、ロボットに、モーターがいらないって言ってるのと同じじゃん)」
「どうやって動いているのか、様々な研究が行われておりますが、仮初めの魂を宿した物質が、魔力を利用して、物質そのものの物性……例えば、弾力性などを生かして運動する、というのが、私たちの認識です。魔力を込めれば込めるほど、その運動能力は増していきます。しかし——」
と、マグネアが口にした瞬間だった。
ピシリッ……
石塊からそんな音が聞こえたかと思うと、石塊はバラバラに崩れてしまったのである。
「本来、運動できる構造にない物体を、魔力の力だけで無理矢理に動かそうとすると、このように崩れ落ちてしまうのです。ただ、このことは、どんなゴーレムでも共通で、動くことを前提として製作した"オートマタ"であっても、身体の劣化を避けることは出来ません。言い方は悪いかも知れませんが、彼らは死んでいるのです。生きている私たちとは違い、壊れていく自分の身体を治すことは出来ないのです」
マグネアはそう言って、崩れた石塊に向けていた視線を細めた。その視線には、どこか悲しみのようなものが含まれていて……。何か特別な思いが込められているかのようだった。
学院長「…………」じぃ
魔神「……なんでこっち見るのよ」




