14.21-23 色々な力23
——4時間後。
魔女「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー」
点P『えっと……まだ続けるのですか?(おっかしいなぁ……。もしかして、変な薬物とか使っていないですよね?)』
それから数分後。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「……何してるの?マリアンヌ。いや、まぁ、見れば、何やってるのかは分かるけれど……」
地下施設を一通り説明をするためか、マリアンヌの研究室にも、ワルツとマグネアがやってきた。そこでワルツは、黒いソファチェアのようなものに深く腰掛けてブルブルと振動するマリアンヌの姿を見る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、わ゛る゛つ゛さ゛ま゛ー、こ゛れ゛、い゛い゛で゛す゛わ゛よ゛ー」
「そりゃ、その蕩けたような顔を見れば、気持ち良さそうなことは分かるわよ?でも、なんでこんなところにマッサージチェアが……」
どこから見ても、魔法の力で動いているとは思えないマッサージチェアを見て、ワルツは問いかけた。当然、ワルツが作ったものではない。では誰が作ったのか……。
同居人の中で、マッサージチェアを自作できる者は何人いたか、などとワルツが真面目に考えていると、どこからともなくポテンティアの声が飛んでくる。しかし、彼の姿は、やはりその場には無い。ただ、天井で、『・P』と書かれた文字が左右上下に動きながら自己主張していたところを見るに、声はその文字から飛んできているらしい。
『そのマッサージチェアは僕が用意いたしました。マリアンヌ様曰く、足の筋肉が張っているとのことでしたので』
「ふーん。わざわざマッサージチェアを作るんじゃなくて、貴方が直接……あっ」
ワルツは途中で不意に言葉を止めた。ちなみに、彼女はこう言いたかったらしい。……わざわざマッサージチェアを用意せずとも、ポテンティアが直接、揉んでやれば良いのではないか、と。
しかし、その直前、彼女は気付いてしまった。自分がもう少しで、公序良俗に反するような行動をポテンティアに提案しようとしてたことを、ではない。その黒いマッサージチェアが、何で出来ているかを、だ。
ゆえに、ワルツは、眉を顰めながら、天井の黒い点Pを睨み付ける。
「それ……マリアンヌは合意してるの?」
マリアンヌは、自身が座るマッサージチェアがポテンティアそのもので出来ていることを知っているのか……。そんな副音声を込めながらワルツは問いかけた。
すると、ポテンティアではなく、マリアンヌの方から、返答が飛んできた。
「わ゛た゛く゛し゛か゛ら゛、お゛ね゛か゛い゛し゛た゛の゛で゛す゛わ゛ー」
「あぁ、そう……。なら、いいわ。邪魔したわね」
ワルツは溜息を吐きながら相づちを打った後、マグネアに対して、この部屋がマリアンヌの研究室であることを説明する。それも、ごく手短に。
結果、ものの1、2分程度で、ワルツはその場を立ち去っていった。彼女に同行していたマグネアとしては、マリアンヌの研究室や、マッサージチェアに興味があったものの、案内役のワルツが立ち去るというので、彼女も一緒に追従する。
そして2人はいなくなった。ついでに言うと、天井で動いていた点Pもいなくなる。
その代わり、マリアンヌの隣に現れたのは、人型のポテンティアだった。
『どうです?この椅子』
「あ゛あ゛ー、て゛ん゛こ゛く゛に゛い゛る゛よ゛う゛て゛す゛わ゛ー」
『それはよかった。ワルツ様に止められるかと思いましたが、これで、公認ですね』
「こ゛う゛に゛ん゛ー?」
『今日から毎日、マッサージチェアを楽しめるということです』
と、事情を説明するポテンティア。そんな彼の認識が、ワルツの認識と合っているかどうかは定かでない。まぁ、今に始まった事ではないが。
そして、マリアンヌもまた、ポテンティアの言葉の意味を理解しているかは不明である。何しろ彼女は、今——、
「そ゛う゛な゛の゛て゛す゛わ゛ね゛ー。あ゛あ゛ー、き゛も゛ち゛い゛い゛ー」
——その表情通り、夢見心地と言える状態にあるのだから。




