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14.21-22 色々な力22

 仮眠用ベッドにうつ伏せで横たわりながら、足をパタパタと動かすマリアンヌ。そんな彼女の意図が掴めないポテンティアは、その場に姿を見せないまま、困惑する。


 結果、彼が黙り込んでいると、マリアンヌの足がパタリとベッドに落ちる。その後で彼女は「はぁ……」と深く溜息を吐いて、言葉を追加した。


「そう、ですわよね……。急に足を揉めなどと言われても困りますわよね……」


 そう言って、マリアンヌはマットレスに顔を突っ伏した。まるで、顔を見られたくないかのようだった、と言えるかも知れない。


 そんなマリアンヌの行動を、小さなポテンティアが天井から見つめる。そんな彼の姿は、普段の昆虫のような姿よりも遙かに小さな姿。全長1mmにも満たない極小の存在だった。


 ゆえに、マリアンヌには、ポテンティアの姿を見つける事もできなければ、気配を察する事も出来なかった。コテン、とベッドの上で寝返ったマリアンヌは、そのまま状態を起こして、周囲を見渡した。


「……ポテ様?」


 もしやポテンティアは、自分に愛想を尽かして、部屋から出て行ってしまったのではないか……。名前を問いかけても返ってこなかったためか、マリアンヌは不安そうに周囲を見渡した。


 皇女の座を失った彼女は、人の視線から解放され、自由を得られた代わりに、人の温もりも失っていた。今までは臭気魔法や権力を振りかざす事で、思うがままの生活を送ってきたのである。男娼たちに溺れたり、貴族たちにちやほやとされたり……。人との繋がりは、すべて彼女の思うがままだったのだ。


 ところが、今の彼女は、そのすべてを失っていた。エムリンザ帝国の王朝を滅ぼしたワルツたちに、臭気魔法は効かず……。武力でどうにかなるわけでもなく……。そして、誰も手を差し伸べてはくれない……。そんな状況の中、マリアンヌの世話役とも言えるポテンティアは、マリアンヌが縋り付くには、ちょうど良い人物だった。彼にちょっかいを掛けてみたくなるのに、そう時間は掛からなかったようだ。


 ところが、そのポテンティアも、マリアンヌの力でどうにかなる相手ではなかった。機械の身体をもつ彼に、臭気魔法が効かないのはもちろんのこと、下手をすれば、欲情すら存在しないのではないかと思えるほど、ポテンティアはいつも冷静。今回のように、マリアンヌが無防備な姿をさらけ出しても、ポテンティアはよく訓練された執事のように、マリアンヌへと手を出すことはなかったのである。あっても、謎の昆虫型抱き枕(?)を提供するくらいのものである。


 マリアンヌとしては、そんなポテンティアのことが気に入らなかった。今まで、マリアンヌの魔法や美貌を前に、赤面しなかった異性は存在しなかったからだ。


 だからといって、彼女は、ポテンティアを突き放そうとは思わなかった。逆に、彼に突き放されたくもなかった。ポテンティアは、マリアンヌにとって、唯一縋り付くことのできる人物だから、というわけではない。マリアンヌ自身が気付いているかどうかは不明だが、彼女はポテンティアに、いつの間にか好意を抱いていたのだ。


 嫌いなのに好き。好きなのに嫌い。そんな矛盾が、マリアンヌの心をチクチクと小さく突き刺す。


「もう……何なのよ……」


 その言葉はポテンティアに向けた言葉ではなかった。自分に向けた言葉だ。心の中にある正体不明の感情に、マリアンヌは苛まれていた。


 それゆえに、彼女は再びベッドに突っ伏した。所謂、不貞寝だ。ポテンティアが急にいなくなったことで、彼女はへそを曲げたのである。


 と、そんな時。


『マリアンヌさん。お待たせしました』


 そんな声が、どこからともなく聞こえてくる。結果、マリアンヌは、ハッとして、ベッドから飛び起きた。


「ポテさm……えっ」


 そして、いつの間にか部屋の中に置かれていた黒い大きな物体を見て、怪訝そうに眉を顰めた。せっかくの美貌が台無しである。


「なんですの?これ……」


『マッサージチェアです』


「マッサージチェア……?」


『この椅子にはマッサージ機能が搭載されており、座るだけで、足だけでなく、全身隈なく揉みほぐしてくれる、という優れものです』


「は、はあ……」


『さぁ、どうぞ。僕に揉まれていると思って、お使い下さい』


 ポテンティアは悩んだ末、マッサージチェアを用意したらしい。人型のポテンティアが、マリアンヌに直接触れるというのは、公序良俗に抵触する、と彼は考えたのだ。


 ……そう、人型だったなら。

椅子型なら、何をしても許されると思っているマイクロマシン集合体がいるとかいないとか。

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