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14.21-19 色々な力19

 影の無い部屋。天井・床・壁のすべてが、発光パネルで出来た部屋の中に、影と言えるものは一つも無かった。ネジや小さな部品などを床に落としたとしても、すぐにどこにあるのか見つけられる……。そんな部屋が、ワルツの工房である。


 大きな金属塊から機械部品を削り出す大型工作機械から、先日出来たばかりのクリーンルーム、そして小さな光を無数に明滅しながら何か小さな作業を繰り返している装置などが置かれたその部屋は、ファンタジーな異世界の中において、なおさらに異世界。あるいはSF。しかし、それらはすべてフィクションなどではなく、真っ当な科学の力で作られた機械たちだった。


 そんな機械の棲処のような場所に、マグネアが足を踏み入れる。


「   」


 白い世界を見た彼女は、言葉を失った。息をすることすら止めていた。ワルツがこの世界に来て、初めて魔法を目にしたときと同じように、マグネアもまた、科学が広がる空間を前に、圧倒されてしまったらしい。


 そんなマグネアが再び呼吸を始めた時。彼女の口から、ポツリと言葉がこぼれ落ちる。


「……恐ろしい」


 マグネアはそう言うと、工房へと降りてきた階段の前で蹲った。全面が光っているために、距離感が掴めず、どこまで広がっているか分からない空間の中で、魔力も使わずに動いている機械たち……。そしてなにより——、


「ここが私の工房よ!」


——と言って、胸を張りながら笑みを浮かべるワルツ。そのすべてがマグネアには恐ろしい何かに見えたようだ。


 あまりに常識とかけ離れすぎて、理解出来ないものに対し、人は恐怖するのである。そして彼らはその理解出来ない存在をこう呼ぶのだ。——ばけもの、と。


 結果、本心から怖がって、しゃがみ込んだままのマグネアの所に、ワルツは折りたたみの椅子を持ってきて、彼女の事を座らせる。


「なんか、本当に具合が悪そうね?風邪でも引いた?」


 マグネアの最初の感想を聞きそびれたワルツは、なぜマグネアが青白い顔をしているのか、理解出来なかったらしい。彼女は心配そうに、マグネアの顔を覗き込んだ。


 そんなマグネアの目に浮かんでいた色は、純然たる恐怖。世界を誰よりも知っているという過信が少なからずあったマグネアにとって、まったくの未知と言える"科学の力"を弄ぶワルツの存在は、人の形をした畏怖。限りなく人に近い何かでありながら、人ではない"何か"に見えていたようである。


「あなたは……何者なのですか?」


「えっ?今更?」


「ここにあるもの一つ一つが、私の知らない原理で動いています。光る壁もそう。月の建造物もそう。すべてが、魔法ではない何か別の力によって作られ、そして動いている……。そんな力を使うあなたは何者なのですか?どこから来たのですか?この世界の人間とは——」


 そしてマグネアは悟った。


「まさか……神?」


「いや、それは無いから」


 ワルツは思わず溜息を吐いた。マグネアも他の者たちも、なぜ皆、自分の事を神様扱いするのか……。理由が理解出来なかったのだ。


 だが、ワルツは、その理由を問いかけようとはしなかった。彼女は確かに人ではなく機械(ガーディアン)。自分の存在を説明すれば、尚更に変な方向へと話が進みそうで、質問するのが怖かったのだ。もちろん、自分が人間であると断言出来れば、話は丸く収まるはずだが、完全な嘘を口にできるほど、ワルツは図太い性格をしていなかったらしい。


 ゆえに、ワルツは、マグネアの問いかけをさらりと流す。


「私は町娘……いえ、今では、ただの村娘よ?まぁ、そんなことより、せっかく私の工房を紹介した(まだしていない)のだから、マグネアの工房についても紹介して欲しいわね。同じように地下にあるって、ポテンティアから聞いているわよ?なんていうか、同じ穴の(むじな)?地下に工房を作っているところとか、特に」


 そう言ってワルツは話をはぐらかした。どうやら、自身の工房について、紹介を放棄することにしたらしい。魔力ではなく電力で動いていたり、簡易AIで自動制御していたり、機動装甲の建造を進めてたりする——などと、掻い摘まんで説明したところで、今のマグネアに正しく理解してもらうことは不可能だと判断したのだ。


 だが、ワルツの話題の選び方は最悪だった。彼女の地下工房を説明した後で、マグネアの地下工房の話を話題にするのは、マグネアにとって、あまりに分が悪い事だったからだ。


 椅子の上で蹲ったマグネアは、輝きの無い瞳で辺りを見回し……。そしてゲッソリとした表情を見せながら、小さな声でポツリと呟いた。


「……ここに比べたら、私の工房など、取るに足らない穴蔵です……」ぼそっ


「えっ(マグネアがダークサイドに堕ち掛けてる?!)」


 なぜ……。そう考えるワルツが、マグネアの心情を理解できる日が来るかどうかは不明である。

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