14.21-18 色々な力18
ワルツが5秒で立てた2階建ての家の前で。
「木造建築かぁ……。石作りのお家なら、お姉ちゃんと同じように一瞬で建てられるんだけど……」
「土魔法では、木の家は建てられぬゆえ、真似するのは難しいのじゃ。転移魔法を極めれば、ワルツと同じように出来るのかも知れぬが……」
『僕も、金属でしたら、似たようなことが出来るのですが……』
「ポテの場合は、木粉々にして、接着剤を混ぜてペースト化したものを、何層も積み上げていけば、似たような家を作れるのではなかろうかの?」
『えぇ……確かに出来なくはないと思いますが、多分、僕らも一緒にくっついてしまうのではないかと思います』
「ポテちゃんで出来た家かぁ………………ちょっと嫌かなぁ」
『え゛っ』
殆ど驚いておらず、普段通りのやり取りをしていたのは、ルシアとテレサ、それにポテンティアの3人くらいだった。
ワルツとかなり長い付き合いのはずのユリアでさえ——、
「て、転移魔法陣だけで、家を建てるなんて……流石、ワルツ様!」
——といったように、驚いている様子。
アステリアやマリアンヌ、それにマグネアや、近隣に住む獣人たちに至っては、口をあんぐりと開けて固まっており、微動だにしない始末だった。驚きを通り越して、思考がフリーズしてしまったらしい。
そして、家の持ち主であるハイスピア。彼女の場合は、敢えていうまでも無く——、
「あはは〜♪」
——現実が受け入れられていない様子で、頭の中がお花畑状態である。
ただ、現実を受け入れられないというのは、デメリットしかないわけではなかったようだ。新しい家が立った後、誰より先に動いて、家へと近付いたのは、現実逃避をしていたハイスピアだったからだ。
「木のお家〜♪」
クルックルと回って小躍りしながら、ハイスピアは新築の家の入り口へと近付いた。そして、家の扉に手を掛けて……。彼女はワルツに問いかける。
「入っても良いですか〜♪」にこにこ
「え、えぇ……。ハイスピア先生の家ですし……」どんびき
「わ〜い♪」ガチャッ
ハイスピアは、躊躇すること無く新居の扉を開けると、その中へと消えていった。最早、彼女を止められる者は誰もいない。
ワルツも、ハイスピアを見送って、思う。
「(あのままでも実害は無さそうだから、そっとしておいたほうが良いのかも知れないわね……。っていうか、元に戻す方法が分からないし……)」
ハイスピアの幼児退行は、頻繁に起こることであり、短時間で元に戻る可逆的なもの。よって、放置しておいても問題は無い……。ワルツはそう結論づけたようだ。あるいは、こう表現出来るかも知れない。……臭いものに蓋をする、と。
その後、その場にいた者たちは、ハイスピアの家から視線を逸らした。彼女の家の中がどうなっているのか気にはなるものの、皆、ワルツと同じように、これ以上、ハイスピアに触れる事を躊躇ったのだ。
一方。皆とは異なることを考えている者もいた。
「ワ、ワルツさん!あの魔法は何なのですか?!」キラッキラ
マグネアである。彼女は、その容姿の通りに、玩具を前にした子どものような視線を、ワルツへと向けて問いかけた。
対するワルツも、今回の建築は自信作だったらしい。彼女は平らな胸を張って、メカニズムを説明する。
「アレは転移魔法陣を応用したものよ!私自身、転移魔法そのものは使えないから、魔法で同じ事が出来るかどうかは分からないけれど、転移魔法陣の安全回路をちょっと弄って——」
「ほうほう!なるほど!」
目を輝かせて話を聞くマグネアと、嬉しそうに説明するワルツの姿は、何も知らない第三者が見れば、歳の似通った少女たちが、和気藹々と談笑しているように見えていたことだろう。
ただ、事情を知っている者たちから見ると、少々、滑稽に見えていたようだが。
「あの2人……見た目通りの年齢じゃないんだよね……」ボソッ
「(これ!ア嬢!それを言ってはならぬのじゃ!)」
「(……テレサ様も似たようなものだと思うのですが……)」
「あ゛ぁ゛?ユリア?いま何か、失礼な事を考えなかったかの?」
「なっ……まさか私の思考を読んで?!」
ワルツもマグネアも、見た目だけは幼いが、実際の年齢は倍以上。マグネアに至っては、10倍前後——おっと。この話はプラベートなことなのでやめておこう。
こうして、ハイスピアの家が建ち、マグネアに対するハイスピアの現状説明も終えたワルツだったが、彼女にはもう一つ、マグネアに対して、説明しようと考えていたことがあったようだ。
「そうそう。マグネア。せっかくここまで来て貰ったのだから、ついでにウチの工房、見ていかない?」
地下の地下。ワルツが所有する工房の紹介である。
???「おいたわしや〜」
???「おい、コルテックス。煽っているようにしか聞こえないぞ?」




