表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
328/3387

6後-07 再出発5

また、ユキの一人称が変わっておったのじゃ・・・

「・・・ねぇ、コルテックス?他に会ってない人とかいなかったっけ?」


「・・・知りませんよ〜?構ってあげなさ過ぎて、後で背中から、サクッ、と刺されても〜」


と言いながら、刃物を逆手に持って、背中から首を斬りつけるような素振りを見せるコルテックス。

どうやら彼女の背中は、首にあるらしい・・・(?)。


「うわぁ・・・」


そんなコルテックスの仕草を見て、自分の首を抑えるユキ。

薄っすらと残っている4日前の記憶でも思い出したのだろう。


さて。

そんなやり取りをする彼女たちは、王城の正門前の吊橋にいた。

丁度、1週間前に、ボレアスへの出発を見送ったり、見送られたりした場所である。

場所は同じだったが、以前と大きく違う点が3つあった。

・・・むしろ、場所しか同じことがない・・・とも言えるだろうか。


まず1つ目は、皆でカタリナを待っている点である。

ワルツが当日になってカタリナを誘ったので、彼女の準備がまだ終わっていなかったのだ。

とはいえ、魔法のバッグの中に適当に道具を押し込めるだけの簡単な準備なので、そう時間のかかるものでもないはずなのだが・・・。


そして2つ目は、見送りがコルテックスしかいない点である。

テレサと水竜は、リアの世話に付くことになったコルテックスの代わり(?)に、議長室に缶詰にされていた。

他、狩人はいつも通りにサウスフォートレスの代表代理としての仕事、シラヌイは何やら大規模な作品製作のため、テンポは既にリアの側に付きっきりで、アトラスは・・・不明である。


「あれ?アトラスは?」


「アトラスは〜・・・」


コルテックスは、そこまで言ってから、ニッコリと笑みを浮かべて、


「・・・秘密です」


・・・ごまかした。


「・・・何をしてるか知らないけど、最低限の人権とモラルを考えてね?」


「その辺は大丈夫ですよ〜」


「ならいいけど・・・」


自由のきかない状態に縛り上げられた挙句、拷問台に(はりつけ)にされ・・・・・・春巻きを口に突っ込まれているアトラスを想像するワルツ。

コルテックス曰く、公序良俗を守るとのことなので、とんでもない方向へと走ることはないだろう・・・多分。


そして、異なる点の最後の1つである。

前回は、朝早くに王城を発っていたのに対し、今回はカタリナの事情もあって、既に昼前になってしまっていた。

つまり・・・


ガヤガヤガヤ・・・


・・・王城(市役所)に用事のある市民たちで、吊橋の上がごった返していたのである。


なので、


「お!あれが噂に聞くワルツ様か?!」

「おまっ、目をそらせ!喰われるぞ!」

「ママぁ?ワルツ様って何?」

「ダメ!坊や!見ちゃダメよ!」


・・・市民たちがワルツたちを遠目に観察するかのようにして、行き来していたのだ。

まぁ、まるで見えない壁があるかのように、誰もワルツたちに近付こうとはしなかったが・・・。


「・・・これが・・・イジメなのかしら・・・」


村八分ならぬ、街八分とも言えるだろうか。

どうやら、勇者ルシアの一件で宣言したワルツの魔神(ましん)発言が、街中に広がってしまったらしい。


ところで、そんな市民たちが口にする言葉は、ワルツに対するものだけではなかった。


「あれ、テレサ様じゃないか?」

「だけどワルツ様と一緒にいるぞ?!」

「えっと確か、コルなんたらって影武者がいるらしいわよ?」

「あぁ。つまり、今もワルツ様を、テレサ様の代わりに引き止めてるってことだな」

「大変ね。魔神相手に身体を張るっていうのも・・・」


そんな市民たちの言葉に耳を傾けながら、


「流石、聡明な市民たちですね〜」


コルテックスは満足気な表情を浮かべた。


「いやいやいや・・・何で私の評価だけ、そんなに悪いのよ・・・」


なお、コルテックスによる印象操作の結果である。

ただし、ワルツの印象ではなく、コルテックスの印象を対象とした操作だが。


・・・さて、ワルツたちの側にはもう一人いた。

言うまでもなくユキのことである。


2人と一緒にいるのに、ユキだけが市民たちに無視される・・・などというワルツ以下の村八分状態になるわけもなく、


『?!』


むしろ、2人よりも注目を集めていた。


ユキのことを見た市民の例を挙げると・・・

立ち止まってくぎ付けになる者。

急に両の手を合わせて、拝んだり祈ったりし始める者。

人がごった返しているというのに、平伏(へいふく)を始める者。


・・・そんな者たちの様子を見る限り、彼らの眼には、ユキの姿が、何かありがたい者のように写っているようだ。

近くにワルツが居るためか近づいてくることは無かったが、もしも彼女がいなければ、(すが)り付いたり抱きついたりしてくるのではないだろうか。


「・・・あの・・・ワルツ様?皆さん、どうしてボクに向かって頭を下げているのでしょうか?」


「あー、それはねー」


すると、久しぶりに、髪を真っ白にするワルツ。

その瞬間、


『?!』


吊橋の上を歩いていたものが、全員立ち止まって、ワルツたちの方を凝視した。


「・・・うわぁ・・・」


そんな彼らを見て、今度は真っ黒な姿に変わるワルツ。

すると、


『!』


人々が再びスムーズに流れ始めた。

・・・むしろ、ワルツたちのいる場所を、市民たちが走って通過するために、先程よりも流れが良くなっているようだ。


「ま、こんな感じで、この国とか人間側の領域では、なんか真っ白な髪を持っている人が神様って崇められるらしいのよ。だから私は、白い姿にはならないようにしてるんだけどねー・・・」


「・・・」


そんなワルツの説明に怪訝な視線を向けるユキ。


「あ、別にユキの髪は、私のデコイとして働いてもらうとか、嫌がらせをしたくて白くしたわけじゃないからね?・・・本当よ?」


「嫌がらせって・・・」


全身に毛が生えるスイッチの件もあったので、ユキは何か悪いことをしただろうか、と思い返してみたが・・・・・・身に覚えがありすぎて、途中で考えることを止めた。

もちろん、ワルツの言葉通り、彼女達が故意に髪を白くしたわけではない(ただしスイッチは除く)。


では、何故ユキの髪が真っ白なのか。

それは、死にかけたことや、神経チェックの際のストレスでそうなった・・・というわけでもなかった。


(いやー、まさか、サンプルした毛根細胞に、偶然色素が無かったとか・・・すごい偶然よね?)


普通の人でも、髪の中にところどころ白髪が混じっているように、ユキの元々の淡い青い髪にも白髪が混じっていて、カタリナがサンプルした毛根細胞が、偶然に白髪の細胞だった・・・それだけの話である。

尤も、それが分かった時点で、移植をやり直すという手もあったはずだが、そうしなかったのは・・・果たして・・・。


「・・・分かりました。ワルツ様や・・・カタリナ様に作って頂いた身体です。そういうものだと思って大切にしますね」


そう言ってユキは、自分の真っ白な髪を指先で弄んだ。


「・・・ところでさぁ・・・なんかー、カタリナ遅くない?」


真っ黒な姿のまま、ちらっと王城の方に視線を向けるワルツ。

すると、人集(ひとだか)りが割れるようにしてスペースが出来る。


(そんなに、みんな、私のこと嫌いなの?)


ワルツはそう思いながら、開いた空間にジト目を向けると、更に人集りが割れていく・・・。


・・・そんな時。

別れた人集りの中に、一人だけ逃げようとしない者がいた。


カツン、カツン、カツン・・・


白衣を(ひるがえ)しながら、それほど大きくはないバックを右手に握りしめた赤毛の狐の獣人、カタリナである。


彼女は割れた人集りの中を、特に臆することもなく、真っ直ぐにワルツの元へと足を進めていく。

そして、ワルツの目の前まで来ると、


「・・・申し訳ありません。お待たせ致しました」


そう言って、自分よりも身長の小さい彼女に、頭を下げた。

そんな姿に、


ザワザワザワザワザワ・・・


「あれ・・・誰だ?」

「なんか、あの白いコート・・・赤いシミみたいなの付いてないか?」

「ワルツ様に頭を下げているところを見ると、もしかして・・・」


『魔王・・・?!』


市民たちは、そんなざわめきを漏らした。


「あれ?カタリナ。白衣にケチャップ付いてるわよ?ほら、胸の部分・・・」


「あ・・・朝食のスクランブルエッグについていたやつですね・・・」


するとカタリナは、どこからとも無く手術用のメスを取り出すと、白衣にそのまま突き立て、シミのあった部分を切り取ってしまう。

それから彼女は、穴の空いた部分に手を当てて、何か魔法のようなものを唱えると・・・


「はい。これで綺麗になりましたよね?」


穴の痕跡が分からないほどに、綺麗に修復してしまった。


「へぇ・・・回復魔法だけでなく、修復魔法も使えるようになったの?」


そんなワルツの問いかけに、


「いいえ。回復魔法ですよ?」


回復魔法以外は苦手ですから・・・といった表情で返答するカタリナ。

それからサラッと問題発言を口にした。


「実はこの白衣、粘菌(きのこ)の一種なんです」


『えっ・・・』


するとカタリナは切り取った白衣に、回復魔法を掛けた。

その途端、


ニョキニョキ・・・


単なる布切れだったはずの白衣が、大きく()()して、大きな一枚の布へと変わる。


「これ、中々使い勝手が良いんですよ?汗や老廃物が出ても食べてくれますし、汚れもほっといたらそのうち綺麗になりますから。(ほつ)れても回復魔法をかければ簡単に治りますし、ずっと着てても匂いが出ないんですよ。肌身から離さないで着けていると、愛着も湧いてきますしね・・・」


と言いながら、白衣の袖を(いと)おしそうに撫でるカタリナ。

そんな彼女の様子に、その場にいた者たちは、思わず後ずさりした。


「・・・因みに、いつから着てるの?」


「そうですね・・・この子たちは、第3世代なので1ヶ月前くらいですかね」


「あ、そうなんだ・・・」


(カタリナって、皆と違って常識人だと思ってたけど・・・・・・もう女の子・・・というか、人間であることすらやめようとしてるのかもね・・・)


いつもと同じ様子で、恥ずかしげもなく話すカタリナに、ワルツは生暖かい視線を向けた。

ユキですら引いているところを見ると、魔王ですら装備しない所謂『呪われた装備』を着用していると言えるのかもしれない・・・。




というわけで。

出発するメンバーが全員揃ったところで、ワルツが口を開く。


「さてと、そんじゃぁ、行ってくるわね」


「はい。気をつけて行ってきてくださいね〜?」


「コルテックス。リアのことはお願いしますね?」


「おまかせください」


「コルテックス様。お世話になりました」


「・・・あ、ユキさん?」


コルテックスは、自分に礼をするユキを引き止めた。


「これ、渡しておきますね」


そう言いながら、片手に収まるくらいの、銀色の長方形の板を渡すコルテックス。


「何ですか・・・これ・・・?」


「無線機ですよ?」


「こっ・・・これが・・・?!」


手に持った無線機に対して、眼を見開くユキ。


「もしかすると、お姉さまが渡し忘れているかもしれないと思っていたのですが〜・・・その様子だと、本当に忘れていたのですね〜」


「あー、すっかり忘れてた・・・」


と言いながら、あちゃー、と頭を抱えるワルツ。

・・・なお、忘れているのはそれだけでないのだが・・・。


「これ、王城の備品なんで、ちゃんと返してくださいね〜?・・・もしも、壊したり無くしたりしたら〜・・・」


コルテックスはそう言いながら、和服の胸元に手をいれると、何やら紫色の毒々しいスイッチを取り出した。


「このスイッチを押しちゃいますからね〜?」


「ま・・・まさか・・・毛生えスイッチ・・・?!」


「・・・では無いですよ?体重が増えるスイッチです。それも、内臓脂肪が〜」


『!?』


「ちょっ・・・ユキに、なんて隠し機能付けてるのよ!」


「ナノマシンをチョチョイと弄れば、どうってことはないですからね〜。お姉さまだって、何かやっていたではないですか〜」


「ほ、本当ですか?!ワルツ様?!」


そう言って、ユキはワルツの方を振り向くが・・・・・・既にそこに彼女はおらず、10mほど離れた場所で手を振っていた。


「ほらみんな?早く行くわよ!ルシア達が待ってるしねー」


「ちょっ・・・ちょっと待って下さい!ボクの・・・ボクの身体に、他にどんな機能を付けたのですかっ?!ワルツ様ぁーーー!!」


ユキは、そう言いながら、慌ただしく、ワルツを追いかけていった。


「・・・それでは行ってきますね」


「はい。お気をつけ下さい」


カタリナはコルテックスに挨拶をした後、ゆっくりと彼女たちのことを追いかけてゆくのだった・・・。




・・・それから20秒後。


「・・・随分と早いご帰還ですね〜」


「ごめん。カタリナに、アトラスの腱鞘炎を治してもらうの、すっかり忘れてたわ」


・・・どうやら、ワルツたちの出発は、まだ先の事になるようである・・・。

カサカサカサ・・・


カサ・・・


(・・・!)


今なら、テレサちゃんがいない・・・!

ふぅ。

荷物の中に紛れて、ここまでついて来るの大変でした・・・。


みなさま初めまして。

僕は・・・・・・あ、まだ言えないですね。


(・・・!)


カサカサカサ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ