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14.21-14 色々な力14

「……わ、私の居場所が……」ぶわっ


「居場所を失う前に、早く学院に戻りたいわよね。えぇ、その気持ちは分かるわ?でも、そのためには、怪我を可能な限り早く治さなければならないのだけれど……」


「なら——」


 回復魔法を使って、さっさと怪我を治せば良いのではないか……。ハイスピアがそう口にしようとする直前、ワルツは首を横に振った。


「でも、早く治す事は出来ないのよ。だって、貴女……私たちの目から見たら、どうして生きているのか……むしろ、生きていると表現して良いのかすら、分からない状態なのよ」


「そ、それはどういう……」


「ついでだから、マグネアにもハイスピア先生の現状を説明するわね?」


 ワルツはそう言うと、ちょうど目の前にあったハイスピアの左手を取った。


 ハイスピアの左手は、真っ黒な色をしていて、一見すると手袋を付けているように見えていた。しかし、その手は、手袋を付けていたから黒く見えていたわけではない。かといって、彼女自身の手というわけでもない。ワルツはその黒い手に、自身の指を突き立てると、指先に少しずつ力を加え始めた。


 すると、ワルツの指先が、ズブズブとハイスピアの手の甲に刺さっていく。いや、埋まっていくと表現すべきか。まるで、粘土で捏ねた"手のモデル"に指を突き立てて穴を開けるかのように、ワルツの指はハイスピアの手に、埋まっていったのだ。


 そのあり得ない光景に、ハイスピアは悲鳴を上げる。


「ひっ?!」


 そして彼女は、慌てて手を引っ張ろうとする。


 すると、今度は——、


   ズボッ……


——という音が聞こえて、ハイスピアは背中を椅子の背もたれに打ち付けてしまった。


「いっつ……」


 後頭部の痛みに堪えながら、ハイスピアはワルツを睨んだ。ワルツが悪ふざけをして、急に手を離したのだと思ったのだ。


 文句の一つでも言ってやろうと、彼女が口を開こうとしたとき、彼女は自身の身体に起こっている異常に気付くことになる。


「う……腕っ?!私の腕がぁぁっ?!」


 ハイスピアの左腕が肘辺りから千切れて、無くなっていたのである。彼女にとっては、ホラー以外の何者でもない。その腕は、ワルツの手の中にあった。


「焦りすぎよ?ハイスピア先生。ほら、手……じゃなくて、肘を出して」


 焦るハイスピアを宥めながら、ワルツはハイスピアの肘を捕まえると、そこに、千切れた黒い腕を装着した。すると、粘土同士をくっつけるように、ハイスピアの肘と腕がくっついて一つになる。


 結果、ハイスピアは、涙を零しながらも、自分の腕の安全を確かめて安堵し……。そして、不意に首を傾げる。


「あ、あれ?穴が開いてない……?もしかして、幻影魔法?」


「いいえ?現実よ?っていうか、そもそも痛くもなかったでしょ?」


「えっ……?そ、そういえば……」


「何だったら、自分で引っ張ってみれば良いんじゃない?さっきみたいに、すっぽり外れるはずだから」


 ハイスピアは、ワルツの言葉に半信半疑状態だったものの、右手——彼女本来の肌色を保っていた右手を使って、黒い左腕を引っ張ろうとした。しかし、彼女は、力を加える直前で、その腕を手放す。


 それからハイスピアは、肌色の右手と、黒色の左手の両方を握り締め、俯いた。


「私……もう、普通の人じゃないんですね……」


 そんなハイスピアに、ワルツは言った。


「腕の話は、全体から見れば微々たることよ?説明はこれからが本番。貴女には、その事実を受け入れる覚悟がある?この世界の常識から外れて、非常識な世界で生きる覚悟よ?まぁ、覚悟があっても無くても、選べる選択肢は、最初から一つしか無いのだけれどね」


 そう言いつつも、ワルツはハイスピアからの返答を待った。涙を零しながら絶望に瀕するハイスピアに対し、追い打ちを掛けるような真似は出来なかったのだ。


 ハイスピアが俯いている間、周りにいたルシアたちも口を噤んでいた。この場に呼ばれたマグネアも同様。彼女は、ハイスピアの腕が外れた当初こそ、目を丸くして驚いていたものの、彼女も他の者たちと同様に、静かにハイスピアの返答を待つ。


 そして……。ハイスピアは肺の中の空気をすべて吐き出してから、ようやくその重い口を開いた。


「……お願いします。私の身体がどうなったのか、教えて……下さい」


シリアス展開の時に、余計な事が言えぬ、このもどかしさ……。

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