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14.21-13 色々な力13

 ワルツたちの自宅。その中にある食卓を、圧迫面接のごとき重い空気が包み込む。食卓の対面(といめん)にハイスピアとマグネアが座り、面談——もとい事情聴取が展開されていたからだ。


「あなたがエルフという話は、今の今まで、聞いた事が無かったのですが?」


「……はい。言っていませんでした」


「なぜ言ってくれなかったのです?」


「……言えなかったからです」


「この国に人類至上主義の考え方が蔓延しているから、正直に言えば、先生になれないかも知れないと考えた、と?」


「はい……」


「……残念です。私は、学院を管理する者として、柔軟な価値観を持っているよう、喧伝していたつもりでした。新しいものを取り入れ、生かし、そして育んでいく……。事あるごとに口にしていた私の教育方針は、あなたの耳には入らなかったのですね……」


「…………」


 食卓に沈黙が舞い降りる。マグネアの言葉に対し、ハイスピアには、何一つ言い返せなかったのだ。


 ちなみにその真横では——、


「お寿司が無くなってきたんだけど……」

「少しくらい我慢したらどうなのじゃ?」

「無理。毎食食べないと調子が出ないもん。そうでしょ?アステリアちゃん」

「あの酸っぱい食べ物ですか……。すみません。ちょっと毎食というのは勘弁して下さい」

「え゛っ」

「私はお肉の方が好きですわ?」

「え゛っ」

「イブもお肉の方が——」

「あ゛?」

「ううん。何でもないかもだし……」

「妾は別に寿司でも良いがの。ただし、美味ければ、じゃが」

「だよね?だよね!やっぱテレサちゃん!分かってるねー!」

「「「「…………」」」」


——といなり寿司トークを展開しているルシアたちの姿があって、和気藹々とした雰囲気(?)に包まれていたようだ。多分、一触即発な雰囲気ではない。


 そしてもう一人。家主であるワルツは——、


「…………(なんで私も面談に巻き込まれているのかしら?)」


——ハイスピアとマグネアの面談に巻き込まれて、対面する2人から見て、側面に座っていたようである。


 はやく、この無駄な面談が終わらないだろうか……。ワルツがつまらなそうに、肘を机の上に載せて、頬杖をつきながら2人のやり取りを観察していると——、


   ガチャッ!


「ただいま、戻りましたっ!」


——家の中に、もう一人、ハイスピアが入ってくる。そう、ハイスピアだ。付け加えれば、パッチワークのような怪我をしていない、元の姿のハイスピアである。その様子に、ハイスピア本人とマグネアは呆然として固まった。


 一方、ルシアたちの反応は薄い。


「おかえりー」

「なんじゃ?今まで職員会議かの?」

「ハイスピア先生が2人……?あっ、なるほどかもだね」

「あー、分かります!元の姿を見せるのは恥ずかしいですよね!」

「多分、恥ずかしいから変身しているわけではないと思いますけれど……」


 どうやらルシアたちは、戻ってきたハイスピア(?)の正体を知っているらしい。


 ワルツもまた、ハイスピア(?)の正体を知る一人だ。というより、幻影魔法がまったく効かないと言うべきか。


 ワルツは、家に帰ってきたOLのごときハイスピア(?)のことを、チョイチョイと手招きして、圧迫面接の場と化した食卓に座らせた。


「マグネア。紹介するわ?彼女はユリア。大怪我を負ったハイスピア先生の代わりに、今日から先生をしてもらっているわ?」


 その直後、ユリアの幻影魔法が霧散した。


「ワルツ様の忠実な下僕をさせていただいておりますユリアです。以降、お見知りおきを」ぺこり


 黒い翼を腰から生やした紫髪のサキュバスであるユリアが頭を下げる。この大陸において、サキュバスとは、伝説上の種族。そのためか、マグネアはポカーンと口を開けて放心してしまったようだ。


 そんなマグネアに対して、ワルツはニヤリと笑みを浮かべると、すかさずツッコミを入れる。


「あれ?マグネアって、柔軟な価値観を持っているんじゃなかったっけ?」


 対するマグネアは、ハッとして我に返った。


「え、えぇ。その通りです。ですが、驚かない方が無理というものです。まさか、彼女がハイスピア先生になりすまして、先生をしていたとは……。いつからなのです?」


「今日から働かせていただいております」


「本当は、事前にマグネアにも相談したかったのよ?だけれど、今日の貴女、お休みを取っていて学院には来なかったでしょ?だから、事後報告。そのくらい許してくれるわよね?柔軟な考えを持っているのだから」


 ワルツの言い方は、かなり挑発的だった。とはいえ、悪意があるわけではない。


 それはマグネアも分かっていたようで、彼女は諦めたように、はぁ、と溜息を吐くと、ワルツの言い分を飲み込んだ。


「……そうですね。ワルツさんには返しきれない恩がありますから、ユリアさんのことは不問としましょう。しかし、問題は無いのですか?ハイスピア先生は、選りすぐりの生徒を集めた特別教室の専任教師なのですよ?その代役を務めるとなると、そう簡単な話とは思えませんが……」


「そうねぇ……どうだった?ユリア。今日一日、教師をやってみて」


「はい。みんな素直で良い子たちばかりだったおかげで、有意義な授業ができたと思います。皆さん、明日の授業が楽しみだと言ってくれていました。それと……皆さん、まさか、サキュバスである私を受け入れてくれるとは思いませんでしたよ」


「えっ?サキュバスを受け入れた……?」


「えぇ。この大陸では、サキュバスは忌み嫌れていると聞いていたので、覚悟はしていたのですが……皆さん、適応力があるらしく、混乱したのは最初のうちの一瞬だけでした。その後は特に何も無かったですね」


「……ね?大丈夫そうでしょ?」


「……」


 マグネアは黙り込んだ。"柔軟な考え"をモットーにしているはずの彼女でも、ユリアの話は受け入れがたく……。常識が、音を立てながら、崩壊していっているらしい。考えに整理が付いて、彼女が元に戻るまで、しばらく時間が掛かるに違いない。


 結果、食卓からは、圧迫面接のような雰囲気は消え去っていが……。事態は別の方向へと悪化していくことになる。


「……わ、私の居場所が……」ぶわっ


 学院において自分の居場所が無くなりつつある……。そんな事実を感じ取ったのか、ハイスピアの目尻に、大きな水玉が溜まり始めたのだ。


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