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14.21-11 色々な力11

「ふふーん♪ふん♪ふん♪」


「……なんだか、ハイスピア先生、嬉しそうだね」

「いや、ア嬢?あれを嬉しそうと言ってはならぬ。心を病んだ者が辿り着く末路の一つなのじゃ」

「もしかしたら、あの人にとっては、今が幸せなのかも?」

「先生……何か嫌な事があったのでしょうか?」

「きっと、現実を受け入れられなかったのですわ。私も同じ境遇に置かれたら、同じ事にならないとは言えないですもの」


 家の外に置かれたベンチに腰掛け、鼻歌交じりに空を眺めていたハイスピア。そんな彼女の様子を見たルシアたちは、各々に顔を見合わせ、悲しげな表情を浮かべた。


 対して、ワルツは焦っていた。朝方のハイスピアは、多少、現実逃避をしていたものの、まだ普段通りに会話が出来ていたのだ。それが、夕方になるとこの有様。段々と悪化しているのだから、明日や明後日になればどうなってしまうのか……。それを想像するだけで、彼女の頭は重くなった。


 ワルツは険しい表情を見せながら、家の隅に置いてあった薪の山の辺りへと声を掛ける。


「ポテンティア。まさかとは思うけれど、治療に失敗したとか……そういうの無いわよね?」


 すると、薪の山——ではなく、ワルツがいた場所からほど近い石の影辺りから声が返ってきた。


『そちらに僕はいません。こちらです』


「別に、どこにいてもいいのだけれど……で、どうなの?ハイスピア先生の状態は」


『バイタルは朝とそう変わっていませんし、脳細胞が壊死していたり、脳波が乱れていたり、ホルモンバランスが大きく変わっていたり、あるいは強いストレスを受けているなどといったことはありません。今の彼女は、極めて安定した状態にあります。これは推測になりますが、今の彼女の状態が、本来の姿なのではないかと』


「本来の姿ねぇ……。本当にそうならいいのだけれど……」


 普段のハイスピアの先生らしい姿は、飽くまで仮初めの姿。素の彼女は、脳天気(?)で健気な少女のような性格をしていないとは言い切れなかった。


 そうだったらいいのに……。とワルツは考えるものの、それを確信で気ほどには、彼女は楽観的ではなかった。もし、ハイスピアの精神が崩れそうになってた場合、今のワルツに彼女の心を治す術は無いからだ。せっかく命を助けたというのに、精神を病み、日に日に別人へと変貌していき、最後には心が死んでしまう……。そんなハイスピアの姿は見たくなかった。


「一応、カタリナに診せておく?でも彼女、心療は管轄外なのよね……。まぁ、呼んでおいて損は無いと思うけれど……でも脳波に異常は無いって話だし……」


 ワルツとポテンティア悩んでいると、テレサが徐に口を開く。


「のう、ワルツよ」


「ん?何か良い案思い付いた?」


「うむ。ここは、専門家に見せるというのはどうじゃろう?」


「専門家?ウチに精神系の専門医なんていたっけ?」


「ミッドエデンにはおらぬかも知れぬが、レストフェンにはおるじゃろ?医療従事者ではないが、死体や無機物に精神を定着させる技術に長けた者が、の」


「精神科医ではなくて、死霊術士ってことね。マグネアとかミネルバとか……」


 マグネアたちカインベルク家は、代々に渡って死霊術を極めてきた家系である。精神や魂の扱いについては、スペシャリストと言える者たちだ。


「そういえば、マグネアには、まだハイスピアのことを報告していなかったし、ちょうどいいかもしれないわ。ちょっとマグネアに来て貰いましょうか」


『ミネルバ先生も、声を掛ければ、喜んでご訪問されると思いますよ?』


「いや、ダメ。絶対ダメ。だって、ほら……あの人、忙しそうだし」


『……そうですか(そういえばワルツ様は、ミネルバ先生のことが苦手でしたね……)』


 ミネルバに極力会おうとしないワルツの行動を思い出したポテンティアは、石の裏側でゆらりと触覚を揺らした。


  ◇


 そして、マグネアがワルツたちの自宅へと招待される。学院にいたポテンティアの分体がマグネアに声を掛けると、彼女は喜んでポテンティアの招待を受け入れたのだ。学院長としての業務が忙しいはずの彼女だったが、孫娘、あるいは娘の恩人であるワルツたちから声を掛けられて、断れなかったらしい。


 結果。


「…………」ぽかーん


「ようこそ、マグネア。小さい家で申し訳ないけれど、ゆっくりしていって?」


 転移魔法陣により、ワルツたちの家——もとい地下空間へと招待されたマグネアは、周囲や空を見回した後で、口を開けたまま固まっていた。その様子はどこかハイスピアに似ていたためか——、


「……もしかしてだけどさ。マグネアも心を病んだ?」


——と、ワルツは心配になったようだ。そして彼女は思う。……もしや、この空間そのものに、人の精神を狂わせる何かがあるのではないか、と。


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