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14.21-09 色々な力09

 第三者がギルド内の惨状(?)を見れば、ワルツがギルド内で暴れているように見えていたことだろう。しかし、彼女はむしろ、ギルドを守ろうとして行動していたのである。そのことは、上から見ていたロズワルドからはある程度分かっていて、ギルドがワルツの事を罰する事はなかった。


 それ以外にも、ギルドがワルツたちの事を罰せられない理由がある。


「よ、ようこそ冒険者ギルドへ……」


 低い姿勢でそう口にするのは、レストフェン大公国中の冒険者ギルドを統括する立場にあるグランドマスターのロズワルドだった。元S級冒険者である彼は、その実力や人望、人脈などを認められて、グランドマスターの座に着いたのだ。普段は、当然ながら、威厳ある態度で冒険者たちと接しているのだが、今、ワルツたちの前で、彼は低姿勢。普段の彼の面影は微塵も無かった。


 理由は単純。レストフェン大公国の冒険者ギルドは、以前、コルテックスにより買収されていて、いまやワルツたちの所有物と言っても過言ではなかったからだ。


 ゆえに、ロズワルドから見れば、ワルツたちは上役。頭が上がる訳がなかったのだ。


 ちなみに、冒険者ギルドの株式は公開されていたわけではない。そもそも、株自体が存在しない。ではコルテックスは、どうやって、冒険者ギルドを買収したのかというのか。彼女が採った方法は3つある。


 1つはレストフェン大公国からギルドの所有権を譲渡してもらうというもの。これは、ジョセフィーヌを通せば、金で解決出来ることだった。


 しかしそれでは、冒険者ギルドの構成メンバーが解散して、新しい冒険者ギルドのようなものを立ち上げられてしまえば意味は無いのである。冒険者たちはギルドの所有物ではないからだ。そこでコルテックスが採った2つ目の方法が、冒険者ギルドに関連する店や土地などの買収である。これも金で解決出来ることで、今や、レストフェン大公国中にある冒険者ギルド関連の店舗や土地は、すべてミッドエデンの所有物となっていた。


 そして最後。冒険者にしても、店の経営者にしても、あるいはギルドの職員にしても、皆、人権のある人間である。仕事を選ぶ権利のある彼らは、やろうと思えば冒険者をやめて、まったく関係の無い職に就くことも出来るのである。彼らが転職してしまえば、冒険者ギルドを買収することは不可能。ゆえに、コルテックスの3つ目の行動は、冒険者たちを現在の職に繋ぎ止めておくというものだった。ようするに、権利は主張せず、今まで通りのまま、運営権を冒険者ギルドに持たせることにしたのだ。


 結果、冒険者ギルドからすれば、コルテックスに首輪を付けられているものの、自由に行動できるという、ある種のペットのような状態になっていたのである。しかもそれを知っているのは、ロズワルドなどの冒険者ギルドの上層部と、大公ジョセフィーヌくらいのもの。ダミーの商社を介して店舗や土地を買収したため、国中の店舗がミッドエデンに買収されていると庶民が知る術はなく……。ほとんど誰も知らないうちに、冒険者ギルドはミッドエデンの手に落ちた、というわけだ。尤も、今は自由な運営権を認めているので、ワルツたちにとってのメリットは、ロズワルドなどギルド上層部の態度が良くなるくらいしかないのだが。


 話を戻す。


 応接室で、自ら茶を出しながら、ロズワルドはワルツたちの顔色をうかがった。


「今日はどのようなご用件で冒険者ギルドに?」


 彼は開き直ったらしい。今のところワルツたちに害があるわけではないので、来賓として扱うことにしたようだ。


 対するワルツは、ギルドを買収したというコルテックスの話を、すっかりと忘れていたので、グランドマスターの(へりくだ)った態度に、気持ち悪さを感じていたようだ。それでも出された茶には口を付けて……。ギルドに来た理由を明かす。


「……えっと、魔物を狩ったから、その肉を売りに来たのよ」ズズズズ


 と、ワルツが事情を口にした瞬間だった。


   ガタンッ!!


 ロズワルドが血相を変えて、跳びはねるように立ち上がる。


「ほ、ほ、ほ、本当ですかっ?!」


「えっ……う、嘘をついてどうするのよ」


 ロズワルドの反応に追いつけなかったらしく、ワルツは狼狽える。元々、人付き合いが得意ではないワルツとしては、不気味な態度(?)を見せていたロズワルドの変わりっぷりに、どう反応して良いのか分からなくなったようだ。


 とはいえ、ロズワルドが肉を欲している理由は知っていたので、とりあえず頭の中をクリアにして、話を進める。


「……で、肉を持ってきたのだけれど、どこに出せば良い?ここは応接間だから、血まみれになるのは嫌でしょ?」


「えっ?ここに肉を持ってこられたのですか……?」


 ロズワルドからワルツたちを見る限り、肉の類いを持っているようには見えなかった。かなり少量の肉なのか、あるいは国宝級の魔道具であるアイテムボックスの持ち主なのか、はたまた別の方法で肉を所持しているのか……。ロズワルドは首を傾げながら想像する。


 対するワルツの返答は、ロズワルドの想像とは少し異なっていたようだ。


「今は肉を持ってきていないけれど、転移魔法で取り寄せることが出来るわ?」


「なるほど……では、解体場にご案内しますゆえ、儂に付いてきて下され」


 ロズワルドはそう言って、応接間から出た。その足取りは軽やかで、とても年相応の老人のようには見えない。どうやら、それほどまでに、彼は肉を欲していたらしい。魔物が強く、殆ど肉を狩ることの出来ない彼らにとっては、存外のご馳走なのだろう。


資本の力、なのじゃ。

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